第36話 探された私と心配してくれるあなた

 お昼に食堂で独り食事をしていたら、あ、という声が上から降ってきた。


 ふと視線を上に上げるとそこにあったのは、どこか意外そうにしたみそのさんの顔だった。


 「いた」


 それから、そう何気なく呟くと、私の隣にそっと腰を下ろした。


 「……となり大丈夫?」


 と、聞かれたので、私は昼食用のかけそばをすすりながらふがふがとうなずく。我ながら、ちょっとみっともないけれどお食事時なので勘弁してもらおう。


 急いで口の中にあったものを飲み込んでから、私はみそのさんの方に向き直る。


 みそのさんは、昼食を一緒に取りに来た……って感じでもなく手には何も持ってない。今日の朝、昼食用のおにぎりを買い込んでいたはずだけど、それもない。


 はて、と私が首を傾げてみると、みそのさんはどこかバツが悪そうに頬を掻いた。


「みそのさん……どうかしました?」


 私がそう問うと、みそのさんは苦笑いをそっと浮かべた。


 「いや、取りこし苦労というか……想ったよりへこんでないね」


 「……ほえ?」

 

 会話の内容の噛み合わなさに首を傾げるけれど、みそのさんはより一層、苦笑いを深くするだけだ。


 「まあ……あれだね、半日かそこらで何もあるわけないか」


 「……はい、いつも通りの午前中でしたよ?」


 「そ、そいつは何より」


 訳も分からないまま、独り納得するみそのさんに私ははてさてと首を傾げる。


 よくわからない、よくはわからないが、まあ。


 「心配してくれたんですか?」


 私がそう問うと、みそのさんはどことなく眼線を逸らした。


 「んー……まあ、そうといえば、そうかなあ……?」


 なんだかよくわからないけれど、何に対してなのかもよくわからないけれど。


 心配してくれていた。


 どうにも、そういうことらしい。


 何についてだろう、体調のことかな。身体の調子が悪かったのなんてもう一週間以上も前なのに。


 心配してくれていた。


 そっか、心配してくれてたのか。


 ありがたいなあ。


 ちゃんと誰かに自分のことを心配されるのなんて、一体いつぶりだったっけ。


 思わず笑みがこぼれてしまう。ふっふっふー、とにやつきが止まらなくなる。


 「……というか、元気そうだね」


 「ええ、元気ですとも。勇気りんりんですよ」


 「久しぶりに聞いたよそのフレーズ」


 「そういえば、幼児向け番組くらいでしか聞かないですねえ」


 「でしょ」


 そうやって、何気ない会話をしながら、私達はお昼休みを過ごした。


 いつもはお昼休みなんて肩身の狭い、それだけの時間だったのに。


 今は少し、気が楽だ。


 隣にみそのさんがいて一緒におしゃべりをしてくれる、ただそれだけの違いだけど。


 うん、こんな時間があれば私はどれだけだって頑張れる気がするんだ。


 例え何を言われたって、例えどんな扱いをされたって。


 大丈夫、私は大丈夫だから。


 あんまり心配かけないようにしないとね、なんてぼんやりと考えながら。


 昼休みの何気ない時間を、私達はそうやって過ごしていた。

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