第49話 これからの話
「んっはぁ〜! お昼から呑むお酒は格別だねぇ!!」
「結局ノリノリで飲むんじゃないですか。なんだったんですか、さっきまでのやりとりは」
部屋に戻ってきた時とは真逆に、今の先輩はいつも以上にマイペースだ。冷蔵庫から取り出したばかりの缶チューハイを豪快に飲んでは美味しそうに唸る。
そんな先輩を見ていると、口にした言葉をウジウジと悩んでいる自分がさらに情けなく思う。
「そりゃ、孝志くんからお酒飲もうなんて無かったからね〜。何かあったのかちょっぴり不安になっちゃって」
「の割には、4本持ってきたじゃないですか。しかも、もう2本目だし」
空っぽになった酒缶を目の前のテーブルに置き、新しく開けた方のお酒を片手にグビグビ飲んでいく先輩に「不安」の様子は感じられない。少なくとも、今の陽気な先輩からは。
そしてそれは先輩から見た俺も、そうみたいだった。
「孝志くんこそ、グビグビ飲んでるじゃない。すっかりお酒が舌に馴染んできたみたいだねぇ〜」
「そりゃまぁ……先輩と飲むのは楽しいですから……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。もっと飲む? それともイチャつく?」
「手を握られて、腕を谷間に押し付けられた挙句に、耳元に時々息を吹きかけられるこの状況がイチャついてないんですか!? あとおかわりください」
「はいはい、おかわり持ってくるね〜」
イチャつきに対して強く言及するクセに今の状況から逃げ出そうとはしない。それどころか、手を強く握り返したり、自分から恋人に寄り添ったり、顔を近づけてきた恋人の髪の匂いを嗅いだりと、今の状況でそれなりに楽しんでいる。
そんな俺を見透かしたように、先輩は一度俺から離れていく。
けれどそれは決してノリが悪い俺に嫌気が刺した訳ではなく、ただただ新しいお酒をとりに行っただけの事。
「はい、ストロングぅぅ〜」
「あ、ありがとうございます」
先輩から手渡されたのは、普段飲んでいるのよりも格段にアルコール度数の強い缶チューハイ。そして先輩の反対の手には同じのが。
普段は間違いなく飲まないもの。手渡されても、いつもの気分なら飲まないだろう。
けれど、今日はいつもの気分ではない。
「で、もっとイチャつきたいって話だっけ?」
「違いますよ! これ以上にもっとイチャつくんですかって話ですよ!」
「孝志くんはしたくないの? 私とイチャイチャ」
「……したくない訳ではないですけども」
「けど? けど、どうしたの?」
「そう言うのはやっぱ、ただの恋人関係の時にするべきじゃないかなぁ……なんて思ったり……」
「プロポーズしてくれたのに?」
「うっっ……!」
揶揄ったり、色っぽくなったり、欲しがるように見つめてきたり……。先輩の仕草一つ一つに、コロコロ変わる表情に、気持ちが揺さぶられて普通の気分でいられない。それこそ、お酒を飲まないとやってられない。
それでもやっぱり、お酒に頼ってはいけないとセーブをかけてしまう自分がいる。昨日、お酒の勢いでプロポーズした俺が何を言ってるんだとつくづく思う。
そして、そんな俺の事など先輩はまるっとお見通し。
「……もうちょっと、お酒進めよっか。ぶり大根持ってくるね。少ししょっぱいけど、その方がお酒進むと思うから結果オーライかな」
「あの、今これ以上のイチャつきはするつもりはないですよ……?」
「大丈夫、襲うなんてことはしないわよ。私がされて嫌な事は、孝志くんにはしないわ。絶対にね」
「それならいいんですけど……」
三度立ち上がった先輩は冷蔵庫からぶり大根を取り出し、レンジで温められて出来てさながらの風貌の熱々のぶり大根を運んでくる。失敗したとは思えないほどに素材に艶めきがある、お酒の進むおつまみを。
「今日はさ、これからの話をしよう? 時間はたっぷりあるんだし、ね」
そう言ってテーブルの上に置かれるぶり大根。口に含んでみれば思っていた以上にしょっぱい。それでもそれは拒絶するほどのものではなく、むしろ酔いを加速させるにちょうど良いしょっぱさ。お酒を含んでいないと話せない、
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