第35話 思い馳せるはラブコール

「で、今日は一体どうしたんですか? いつもよりアプローチが過激でしたけども」

「え〜私はいつも通りにつもりだけど〜」

「誤魔化そうとしても無駄ですよ。先輩のニヤニヤでわざとしてた事は分かってるんですから!!」

「やるわね、孝志くん。さっきは私の事見てくれなかったのに」

「そりゃ裸を見るわけにはいかないでしょうよ……」


 裸エプロン姿で俺をリビングで出迎えた先輩を普段着に着替えさせて、改めて朝食を頂いていた。

 冷凍食品とは思わせないクオリティのレーズンナッツトーストに、ほうれん草とタマゴの炒めもの、そしてジャガイモのポタージュスープ。

 先輩と暮らすようになってから、朝食が楽しみで仕方がない。前までの、カロリーバーでの時短朝食とは大違いだ。

 もっとも、先輩が来てからと言うもの、おちおちゆっくり寝ていられないと言うのもあるのかも知れないが。


 特に、今朝のような事があった日にはいろんな意味で眠気など吹っ飛んでしまう。

 先輩がただの美女ならここまで大事にはならなかった。優しく起こされて、キュンキュンする朝を送れたかもしれない。

 けれど、紅葉先輩はそれだけに留まらない。セクシーさを言わずもがな、スキンシップが激しいのだ。

 起きがけにキスをしたり、起きない俺の耳元でエロ本での一幕を口ずさんだり、今朝のように裸でベッドに入り込んだり……。

 そして決まって先輩は頬を赤らめながらニヤニヤするのだ。


 そんな先輩の仕草一つで、強く抵抗しようとする俺の意志は吹き飛んでしまう。

 だからこそ、何度も先輩に朝からやりたい放題されているのだけれども……。



「ま、冗談はこれくらいにしておいて」

「冗談にしてはキツいですが……」

「今日は悠ちゃんの家でお泊まりしようかなって思って」

「え、悠の家で……?」


 一足先に朝食を食べ終えた紅葉先輩は、食器を水に浸けながら俺に今日の予定を告げる。

 表情はおっとりしつつも、真剣そのもの。揶揄う為のものではなく、本音だと言う事が伝わってくる。


 そんな中でも先輩はやっぱり先輩で

「うん。ちょっと、悠ちゃんともう少し仲良くなりたいと思って。あ、大丈夫だよ。孝志くんへのラブコールは忘れないから!」

 と、茶化すのを忘れない。


 慌てて俺は先輩に反応する。

「さぞ今までもやってたみたいなこと言うのやめてもらえませんか!? ラブコールなんてそんなにした事ないですよね!!?」

 と。


 ドヤ顔の先輩に事実を突きつけるも、肝心の彼女はそれに動じることはしない。それどころか、俺のツッコミを待っていたと言わんばかりにまたニヤリと笑う。


「じゃあしなくていいの?」

「して欲しいですけど……」


 俺がこう返事するのを分かっていたかのように……。


 先輩からのラブコール。そんなの興味ない方がおかしい。今日だけと言わず、毎日、いや一日三回して欲しいくらいだ。

 耳元だけで先輩の愛を感じる。それが一体どんな感覚なのか、きっと計り知れないだろう。


 そんな体験をさせてくれると言うのだから、断る理由が無かった。いや、断るつもりがそもそも無かった。

 それらを全て見透した上で先輩はラブコールを提案しているのだろうから、気が抜けない。


「決まりね。寂しくなったら孝志くんからもラブコールしてくれていいからね?」

「ラブコール前提なんですね……」

「してくれないの?」

「……してくれって言うならしますけど」

「じゃあ、して?」

「わ、わかりました」


 きっと、俺は先輩よりも先に寂しさを覚えて、ラブコールをしてしまうのだろう。先輩が普段俺といる時間に悠の部屋で何をしているのか、何を話しているのか、色々思い巡らせた果てに限界を迎えて……。


 そんな未来を想像しながら見つめる先輩の目に、俺は胸の奥を熱くせずにはいられなかった。



 胸の熱が爆発した昼休み頃に早めのラブコールを掛けた際には

「あら、ずいぶん早かったわね。孝志くんってば案外寂しがりやさんなのね」

 と揶揄われたのは、また別の話……。


 

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