第34話 一度あることは二度ある
「ほらほらぁ〜、孝志くんも反撃してきなよ〜」
「反撃して欲しいんでしたら、せめて服着てくださいよ……っ! そもそもどうして服着てないんですかぁ……!」
「そんなの、キミを困らせてみたいからに決まってるじゃない」
「堂々と言っちゃったよこの人!」
ベッドの中で、依然として裸の恋人に俺は振り回されてばかり。
と言うより、手先で腹やら胸を捏ねくり回されている。女の先輩から男の俺が、だ。
いくら、弄られ弄り合うような恋人関係だからと言っても、いいようにされ続けるのは心にクるものがある。
それがたとえ、先輩が喜ぶようなことであっても。
先輩が先輩として俺を揶揄い続けたいように、俺にも俺なりに彼氏として、男といての振る舞いをしてみたいのだ。紅葉先輩がどんな反応するかは置いておいて。
その紅葉先輩はと言えば、俺の反応に不服を示すどころか、口元を綻ばして満足感を露わにする。
「この人、じゃなくて“紅葉”って呼んでってば。そしたら服着てあげなくもないよ〜?」
そう言葉を付け足して。
「もしかして、その為に布団に入り込んだんですか?」
「もちろん」
「かつてない程のドヤ顔ですね……」
恐る恐る聞いて返ってきた答えに俺はもう、愕然とするしかなかった。
顔を逸らしつつも目だけは先輩の表情を捉える。毛布に包まれている先輩の裸からは意識を逸らしつつも、やっぱり先輩本人からは逃げられない。
そして紅葉先輩自身も俺を逃す気など無い。同居を始めてまだ数週間ほどだが、先輩の俺への執着度を知るには十分過ぎる期間だ。
それでも、先輩の新たな一面を知れるのだからまだまだ先は長い。
たとえば───
「んもぉ〜! “紅葉”って呼んでって言ってるじゃない!! 本気で攻めるよ!? あえて言ってなかったけど、おっきくしてるのバレバレだからね??」
「ソコに関しては言わないのがマナーですよね!? あと、名前に関してはもう少し待って下さい!! 今すぐには心の準備が……っっ!」
「じゃあ、いつ? いつになったら素面で“紅葉”って呼んでくれる?」
「一週間……?」
「おっきくしてるの、擦るよ?」
「ごめんなさい、あと三日でなんとかします!!」
「むぅ……それならギリギリ許してあげる」
「ほっ……」
名前呼びに並々ならぬこだわりを見せ始めたり、とか。
昨日の酔った勢いの名前呼びがお気に召したのか、紅葉先輩は俺の大きくしてしまっている膨らみを生贄にして、もう一度俺に名前で呼ばせようと企む。
幸い、俺の必死な思いは伝わったのか今すぐに名前で呼ぶ事は避けられたけども、あと三日の猶予しかない。
別に先輩を名前で呼ぶのは嫌いではない。むしろ、昨日先輩を“紅葉”と呼んだ時には底知れぬ喜びの沼に浸かった。
たとえその沼がアルコール性だとしても、先輩のデレる姿に何も感じないほどバカでは無い。
ただ、やはり日常で言うとなると抵抗感と恥ずかしさが込み上げてくる。少なくとも、練習する期間が欲しいのだ。
その為の一週間、いや……三日間宣言である。
「それじゃあ、キッチンで朝ごはん作りながら待ってるわ。孝志くんはゆっくりしてからリビングに来て」
「あ、はい……」
「今日も私のわがまま、ありがとね」
俺がブツブツと考え事をしていると、いつの間にか先輩はベッドから抜け出しており、リビングへの扉を開けていた。
チラリと視線を送ると変わらず裸のまま。目の端には辛うじて、ジーパンやニットセーターを持つ華奢な腕。
部屋の外で着替えるのだろうと、少しだけ安心すると共に、もうこう言った過激な朝は勘弁して欲しいと思いながら先輩をベッドの中から見送った。
「わがままなのは……俺だよ……」
そう、煮え切らない自分の不甲斐なさを口に出しながら。
その後、俺は先輩の怒涛の攻めで大きくしてしまった自分を慰め始める。
先輩に良いようにされながらも、その矛先は先輩ではなく自分が用意する数枚の紙切れ。情けないことだと分かっていながらも、それを行動に移す事の出来ない臆病者の自分にまた情けなく思う。
それだと言うのに、大きくなった分身は先輩の事を想うほどに熱さを増していき、体の中の水分を中心に蓄えていく。
ふと頭に過ぎる先輩の裸。
布団をはだけた時に見えた柔らかくも綺麗な胸の肌。
布団に包まって際立つ先輩の抜群のプロポーション。
想いを募らせるほどに昂っていく分身。
俺はそれをもはや止める事なく、想いのままに数枚の紙切れへと放出。
情けない自分とは裏腹に、どこかスッキリした気分になる。
想いを放出してからしばらくした後、俺は先輩の待つリビングへと足を向ける。
先輩の事だ。きっともう既に美味しい朝食が出来ているだろう。そう思い、部屋のドアを開けてリビングへと。
そこで待っていたのは、予想通り出来立てホヤホヤの朝食と───
「あ、スッキリできた孝志くん?」
「な……な……なんでまだ服着てないんですか!!?」
「え? 裸エプロン、ダメ?」
「ダメに決まってるじゃないですか!!!!!」
ピンクのエプロンを素肌に着て、プリッとしたお尻をコチラに向けてくるイタズラ好きの恋人だった。
俺は慌てて部屋に戻り、先輩にただ一言。
「ちゃんと服着て下さい!!!」
それだけ言って、心頭滅却に専念する事にした。
また、分身を大きくさせてしまっては大変だから……。
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