第33話 ふかふかのベッドで目覚める

「ん……朝か……」


 目が覚めると、俺はふかふかのベッドで横になっていた。

 寝る直前、先輩が毎晩やってくれている温風機のお陰でベッドはいつもふかふかだ。

 睡眠は快適。朝食もいつの間にか用意されている。


 酒癖の悪さと過剰な揶揄いたがりを差し引いても、先輩はよく出来た恋人だ。俺には勿体ないくらいに。


 そして今日も、ベッドから出てリビングに向かえば温かい朝食と愛しの先輩が待っている。



 そうなるはずだった───。



 すぐ目の前の光景を見るまでは。



「おはよ、孝志くん。よく眠れた?」

「え、えぇ……おかげさまで……」

「それはどういう意味でのおかげさま? お布団? それとも別のコト?」

「もちろん、先輩が整えてくれたベッドの事ですよ」

「そこはウソでも『紅葉のこと考えて身も心もスッキリしたよ』くらい言ってくれないと」

「でも先輩はウソならウソって見抜くじゃないですか」

「そりゃまぁね」


 先輩は俺が起きるのを目の前で待ち構えていた。そして俺が目を開けて焦点をハッキリさせるや否や、ニコリと笑う。

 俺も釣られてニコリと笑って、ベッドから起き上がらずに先輩と他愛もない話をする。


 とある一点を見ないようにして。


「起きないの? 今日も大学でしょ?」

「……先輩が起きたら俺も起きます」

「えー、私もキミが起きたら起きようと思ってるのに〜!」


 何故か一緒のベッドで寝ている今朝。けれどそれは些細な問題でしか無かった。遅かれ早かれ、先輩の隣で一晩中過ごすことになっていたのだから。

 もちろん、それは俺の欲望であり、先輩にはそれを見抜かれているのだろう。だからこそ、こうして先輩は用意した布団から抜け出して俺の眠るベッドの中に滑り込んでいるのだろう。


 それは別に構わない。先輩から甘えられるのも、先輩に揶揄われるのも俺は好きなのだから。


「時に孝志くん」

「はい、なんでしょうか」

「もう、“紅葉”って呼んでくれないの?」

「……気が向いたらまた」

「お酒飲んでる時とか?」

「ノーコメントで」


 こうやって、前日のお酒の勢いでの出来事を言及されるのもすっかり慣れた。

『昨日はあれだけ私とイチャイチャしてくれたのに』や『昨日の孝志くんは可愛かったよ〜』などと毎朝言われている。

 だから、初めの時ほど動揺することは無くなった。


 目はそらしてしまうけれど、先輩の可愛さを寝起きに直視する勇気がないだけの事。きっと、そのうち先輩の目を見つめながら『おはよう』と名前を呼べる日が来るだろう。


 けれど、その為にはいくつもの障害が待ち構えている。


 そう、たとえば───

「さらに追加でいいかな?」

「もちろんいいですよ」

「……どうして、コッチの方は見てくれないの?」

 俺の布団に潜る先輩が何故か裸になっている、とか。


 ふかふかの毛布をはだけさせて胸元をチラ見せさせる紅葉先輩。

 カーテン越し朝の日差しが無防備で柔らかな先輩の胸を照らし、綺麗な乳輪が毛布の奥で覗き見える。


 先輩の手の動きに合わせてついつい見入ってしまった俺は、慌てて顔を逸らす。

「み、み……見れるわけないじゃないですかっ!! というか、見たらもう色々抑えられ無くなると思って耐えてるんですよ!!」

「むしろ私はウェルカムなんだけどな〜」

「俺がウェルカムじゃないですっっ!!」


 目覚めのいい朝から一転。目覚めの良すぎる朝になってしまった。

 先輩から大きく顔を逸らしている俺は、あくまで“見ていない”ていで抵抗し、先輩もまた俺に“見られていない”ていで視線を自分に向けるように誘導してくる。


 けれど、どちらもわかっている。

 俺が先輩を見てしまった事も、先輩に俺が見てしまった事をバレている事も。

 それでも、お互いに素直にはならずただただ、ベッドの中で攻防を繰り広げる。


 裸な事をいい事にあちらこちらと柔肌を俺に擦り付けて誘惑をしてくる先輩に、その誘惑に負けんじと目を瞑って先輩が飽きるのを待つ俺。


 現在時刻は朝の七時。いつもは朝食を食べている時間。それでも先輩は諦めず、俺も堪える。


 けれど、この攻防は先輩が圧倒的に有利なのだ。

 俺は耐える一方の反面、先輩は自由自在に攻めることができるのだから。



 それこそ……ズボン越しに隆々と膨れ上がる一点を攻められたら、俺はどうしようもない……。



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