第32話 先輩の名前を呼ぶ
「ん……んっ……んぁ……っ!」
口の中で広がる紅葉先輩の甘く震える舌先。先輩の喉元の震えが耳に蕩ける声として響き、舌先の甘さが増していく。
強く先輩の肩と腰を抱き寄せると、先輩の舌先はさらに震えてより一層強く抱き締めたくなる。
当然、先輩へのキスへの執着度も。
「先輩……好きです、先輩……!」
「知ってるよぉ……私も孝志くんの事好きだものぉ……」
「もっとキスしていいですか?」
一度離した先輩の唇からは俺の唇と繋がる透明な橋が架かっていた。液状のその橋は直ぐに溶け崩れ、俺と先輩の間に残骸がピチャリと落ちる。
その様子に、俺はもう一度その橋を見たいと思い、先輩に再度のキスを求めていた。
潤んだ瞳の先輩ならきっと、もう一度受け入れてくれるだろうと、期待して。
けれど、そう簡単に本日二度目のキスを受け入れてくれるほど甘い先輩ではない。
「ダメ。……って言ったらどうする?」
「言われてもキスします」
「ま、言わないんだけどね。むしろ私からキスするもの」
さっきまでの俺からの一方的なキスをやり返すように、体を反転させて首元に掴まりながら俺の舌を啄むように唇を寄せてきた紅葉先輩。
俺からのキスを受け入れるのではなく、自分からキスをしたかったのだろう。二度目のキス直前、イタズラの表情ではなく風呂場で最後に見た表情をしていたのがその証拠だろう。
もちろん、先輩からのキスを受け入れない理由は無い。
たとえそのキスが、苦しいものになったとしても。
「ん……せんぱ……っ!」
「ふふっ、たまには名前で呼んでもいいんだよぉ〜?」
「
「もう一声、頑張ってみよ?」
そう、先輩の名前だけを呼ぶという、ハードルを飛ぶことになっても、俺は先輩のキスを受け入れ続ける。
その為なら、今まで恥ずかしくて出来なかった事でもできそうな気がした。
いや、するんだ。今、この瞬間に恥ずかしさを越える。
先輩とのキスをもっと心地よくするよう、色々と考えている俺だけれどもやはり慣れないものは慣れないもので───
「く……」
「く?」
「く、れは……」
辛うじて声は出るものの、詰まり詰まりだ。
当然、この出来で先輩が許してくれるはずもなく
「もう一回」
キスを止めて、名前の催促をしてくる。
もちろん俺もここまできて引き下がるわけがなく先輩の掛け声に続けて、先輩の名前を呼んでいく。
「くれは……」
「もっと」
「くれは」
「ん」
俺が名前をスラスラと言えるようになる度に、先輩の頬が赤くなる。いちご酒の余韻も無くなったのにも関わらず、唇も赤い。むしろ潤いが増して、今にも吸い付きたい。
多分、このまま顔を近づけても先輩はキスをしてくれないだろう。
理由は簡単。俺がまだ先輩の求めている事をしきっていないからだ。
それをいつやるかと聞かれたら即答できる。
「紅葉ともっとキスしたい」
今しかないのだ。
そしてそれはドンピシャだったようで
「よく言えました」
今度は息を合わせるように、ゆっくりと唇を重ねてくれる紅葉先輩。
今日三度目のキスは今までのキスの中で一番甘くて、熱い。
床に転がる空き缶。手に持つおつまみの袋は逆さまで、ころりころりと中身のチョリッピーが転がり落ちていく。それに一切気を止める事なくキスを続け、先輩を強く抱き締める。気づけば、向かい合って抱き合っていて、背中には先輩の手が添えられて、断続的に指で背中をなぞってくる。
自然と気持ちが昂ってくる。
もっと……もっと先輩と深く繋がっていたい……。
そんな気持ちをキスで解消しようとしていると、またもや中断が入る。
「ねぇ、孝志くん。悠ちゃんの事は、友達としか思ってないの?」
「また悠の話ですか……? 今じゃないとダメですか?」
「今だから聞きたいの」
どうして今このタイミングなのだろう。
疑問が残る中、先輩の真剣な目の圧力には敵わない。きっと、『どうして?』と聞いても先輩の圧に俺が折れるに違いない。
だったら、今思っている事を正直に打ち明けることにする。それで先輩が楽になるのなら。
「……友達ですよ、もちろん。困ったらとにかくアイツに聞けば、なんとかなるんです。一年の頃からの、親友みたいなもんですよ」
「そう。親友だから、うっかりお部屋に上げちゃったって事ね」
「……そう言うことになります」
無意識なのか意識的なのか、イジイジと背中を撫でる先輩の指が擽ったかった。そのせいもあって、最後の返事に言葉が詰まってしまう。
笑ってしまっては、雰囲気が台無しになる気がしたから……。
俺がそんな事を思っているとは考えていないのだろう。紅葉先輩はとってもスッキリした表情。
「ありがと。これでスッキリしたわ。心置きなく、キミと夜通しキス出来る」
そう言いながら。
「えっと……夜通しは勘弁してください。明日も授業あるんで……」
「じゃあ私を屈服させてみてね〜。もちろん、キス以上の事をしてもいいけどね?」
「キス以上の事……?」
先輩のスッキリした表情に合わせて放たれた『夜通しキス』に魅力と恐怖の両方を感じて、動揺を隠せない。
そしてキス以上と言われた事にも。
けれど、肝心の紅葉先輩は俺の動揺なんて意にも介さずにとある一点に刺激を与えてきた。
「ココの処理とか、ね?」
「〜〜〜っっっっ!?」
「あははは! びくーーってした!」
「そりゃしますよ!!」
キスに夢中で意識していなかった、“敏感な部分”。先輩の柔らかなお尻を押し上げる、“固い自分”。
そんなところの先端を爪先でカリっとやられたら体をビクつかせないわけがなかった。
けれど、先輩はさっきまでの真剣な表情と打って変わって再び色っぽい表情。
ころりころりと変わる先輩にとっくの前に魅了されている俺は
「で、キスの続き、する?」
「そりゃ、もちろん!」
たった一言二言で、本日四度目のキスをする。
その最中で、先輩が悠に謝罪をしているなんて思いもしない。
───ごめんね、悠ちゃん。私、悪い女だよ。
と。
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