第24話 昼下がりの隠し事
「ねぇ、バーであった悠ちゃんってどう言う子なの?」
「……どうしたんですか、急に」
「ん〜、ちょっと気になっちゃってね」
「そうですか……」
時は昼下がり。口に運ぶは先輩お手製シジミの味噌汁。酔い覚ましによく効くシジミエキスを心身共に染み込ませながらご機嫌な紅葉先輩を眺めるバーデートの翌日。
頭はガンガン鳴り響き、体は絶不調。気持ちもお酒を飲み過ぎたこともあってか、ダウナー。
紅葉先輩はといえば、アレだけ飲んだのにも関わらずケロッとしている。お昼まで寝ていた俺とは違って、いつも通りに起きては課題を済ませて、お昼も用意してくれていた。
そんな絶好調の紅葉先輩がどう言ったわけか悠に関心を示している。バーで会った時何やらやりとりしていたようだけれど、内容まではよく覚えていない。正直、いつ帰って来たのさえも覚えていない。
というより、あの悠がバーでバイトしているのを昨日初めて知った。そして接客中にも関わらずフードを外している様子は無かった。きっと、彼女の言ってたように裏方に徹しているのだろう。
声掛けをしてきた時は接客らしい声を出していた為、それなりに仕事をしているようにも感じられた。
その直後に俺だと分かって、いつもの男勝りな口調になり紅葉先輩をイラつかせてしまっていたようだが……。
そんな俺の親友の何を先輩は知りたいのだろうか。
一抹の不安を覚えながら、先輩の様子を伺っていると
「どう言う子なの? 仲良いんでしょ、あの子と」
少し棘のある言い方をされながら問い詰められる。
「仲良いといいより、大学で友達付き合いがあるの悠だけですし」
「ありゃま、それはちょっぴり寂しい」
「でも悠が声掛けてくれなかったら、少なくとも先輩と会う時以外は寂しい大学生活を送ってましたね」
「ふぅ〜ん……」
先輩の前で隠すつもりの無かった俺は、ありのままを伝えていく。先輩になら何を知られても構わないと常日頃から思っているように。
「悠は異性というより男友達みたいなものですよ。この間のベッド裏のヤツだって、悠と一緒に組み立てたのですし」
───余計な事を言ってしまうのも、先輩の前だからだろう。
「ベッド裏のって、えっちな本をいっぱい隠してあったアレ?」
「そう、です……」
「どうしたの〜? 声小さいよ〜? もしかして、えっちな本バレた事まだ気にしてるの〜?」
「そ、そりゃまぁ……」
きっと、俺が余計な事を言わなければ忘れ去られていたであろうベッド裏のエロ本。そしてそれを隠す為の工作。
それらの何かが先輩に火をつけたのだろう。
徐々にいつもの揶揄いの口調へと変化していくイタズラ顔の恋人。
さっきまで忘れていたのであろう。初めこそおっとりとした表情で、確かめるような口調だった。
が、俺が狼狽えるのを見ると一変。
「言ったでしょ〜? 別に気にしてないって〜。えっちなキミも私は好きなんだから」
「別に俺はえっちなわけじゃ……」
「じゃあ、したくないの? 私とえっちな事」
「したくない……と言ったら、嘘になりますけども……っ!」
「したいんだ〜?」
あっという間に自分のペースに持ち込んでいく紅葉先輩に、俺はあっけなく陥落されていく。
好きと言われたら……えっちな事をしたくないのかと言われたら、“その気”になってしまう。
「……したいですよ、そりゃ」
「じゃあ、酔い覚ましにえっちな事、しちゃう?」
「…………へっ!!?」
『えっちな事、しちゃう?』なんて、そんな事を愛する恋人に言われてしまえば、“その気”にならない方がおかしい。
自然と、その言葉を発している箇所に熱い視線を送ってしまう。
……当然、先輩にはバレてしまうのだが。
「ふふ、唇じーっと見ちゃって可愛いね」
「また揶揄いですか……」
「揶揄いじゃなくて、本気だったらどうする?」
「その手にはもう───」
揶揄われてばかりではいられない。そう思って、揶揄いを振り切ろうとした矢先の事。先輩に残されたエロ本の一冊が目の前に広がる。
「……先輩?」
「好きなページ、選んでよ。それを私がしてあげる」
今、紅葉先輩が何をしているのか、よく分からなかった。
お仕置きではなく、なんでまたご褒美のような事をするのか……。
「私の知らぬ間に、女の子を部屋にあげちゃう孝志くんには、私がいるって事を覚えて貰わないとだからね」
なぜ、嫉妬を怒りではなく揶揄いに向けるのか……。
同居しているというのに、俺はまだ先輩の事をまだ全然知らない……。
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