第23話 意外な再会
「しぇんぱぁい……頭ふわふわしてきましたぁ……」
「そりゃ、いっぱいお酒飲んだからね〜」
「でも不思議と先輩とならまだ飲める気がしますぅ……」
「飲みやすいけど、度数高いから気をつけてね〜? って、言っても意味ないか。結構飲んじゃってるし」
「先輩の好きな味、たくさん覚えないとぉ……」
「無理はしないでね〜?」
カルーアミルク。それは口当たりの良さとは裏腹にかなり度数が高いお酒。ビールや果実酒とは違ってお酒独特の苦味やクセが極端に少ない為か、色々と悪い事を考える男に悪用された結果、女性を酔い殺させるお酒・レディーキラーとして知られている。
もっとも、今こうして酔い殺されているのは男の俺なのだけれど。
隣にいる紅葉先輩はさながら狡猾な女豹。獲物を気分良くさせて、じわりじわりと捕らえるチャンスを狙うように。
紅葉先輩とデートってだけでそもそも気分は最高潮。その上、継続的に腕で感じる紅葉先輩の柔らかさ。そして、あの時のキスを思い出しかねない甘いお酒。
先輩に捕らえられるには十分すぎる条件が整っていた。
そんな状況に俺は一切嫌な感じはしなかった。
それどころか、早く先輩の好きにして欲しいとさえ思っている。
悠との焼肉の件でのモヤモヤをこの場で発散できるのなら。全て発散できずとも、それで先輩が楽になるのなら……。
蕩けきった頭が更に堕ちていく。その最中に、聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。
「あの〜、大丈夫ですか? ……って、孝志じゃん! こんなに潰れるまで何してんのお前」
「あれ……悠、なんでこんなところにいるんだ……?」
「そりゃ、ここがバイト先だからな。んで、酔い潰れかかけてるラブラブ大学生カップルがいるって事で、酔い覚ましのお水ついでにそのカップルの面を拝んでやろうと思ってな」
「悠らしくて突っ込むところがないな。おかげでちょっぴり酔い覚めちゃったよ……」
「むしろ完全に覚めてしまえ。親友のデレデレしてる様なんて見たくないし」
慣れ親しんだ男勝りの口調。酔った頭をゆっくり動かして後ろを見てみれば、そこにはいつものフードとウェイターの格好をした親友・園田悠の姿。
客の前だと言うのに、それを気にする様子もなく、大学でのやりとりのように悪態をこれでもかとついてくる。
すると次第に頭が冴えてきてしまう。それは、きっと『紅葉先輩との二人きりの空間』では無くなったからだろう。
俺と紅葉先輩との間に邪魔が入る事はない。そんな無意識の中での安心感が、酔いを加速させていたのかも知れない。
すると、さっきまで気にならなかった事が急に気になるようになってくる。
例えば、悠の服装。
紅葉先輩の行きつけのバーが悠のバイト先なのも驚きだったが、フードを外さずにしかもウェイトレスの格好ですらないのが不思議でならなかった。
俺がそんな事を気にしているとは思っていないのだろう。あっけらかんと笑って、この場から離れる気配がない。
それを感じ取った紅葉先輩は
「あ、あの……孝志くんとは一体どういう……」
嫌な顔をしながら悠に話しかけて牽制する。
紅葉先輩も今は二人っきりがいいのだろう。
そんな風に感じ取れた。
が、悠には先輩の意図が伝わっていないように見られる。
「あぁ、このバカの彼女さんですか?」
「え、ええ」
「この間はコイツを独占しちゃってごめんなさい。ちょっとコイツばっかりいい思いしてるのが腹立たしくて八つ当たりで焼肉に連行させちゃったので」
「いいのよ、孝志くんから事情は聞いてるから」
と、一通り話を終わったのにも関わらず、悠は離れる気配がない。
それどころか、ジロジロと俺と紅葉先輩を交互に見て何か品定めしている感じがあってあまりいい感じはしなかった。
感じるもの違えど紅葉先輩も同じようだった。
「ところで、フードは外さないの? 一応今は接客の時間だと思うのだけれど」
そう言って、苛立ちをあらわにする隣の恋人。
すると、先輩の言葉が響いたのだろうか。
「ちょっと色々あって、外したくないんですよ。お見苦しいとは思いますが、普段は裏方に徹してますので勘弁して下さい」
そう言って、フードを深く被り直す。まるで、素顔を見せたくないのかのように。
そんな姿に、紅葉先輩は何か感じるものがあったのだろう。
「そう。アナタも訳ありなのね」
「……も?」
「ううん。こっちの話。そろそろ帰るわね。お勘定、いいかしら?」
急に立ち上がったのかと思えば、帰る準備を始める紅葉先輩。
慌てて俺も帰る準備を始める。酔いが覚めてしまった今の状況で新しく甘いお酒で酔い直しをする気にはなれなかった。
そんな中で───
「あ、支払いなら大丈夫ですよ。今回は友人が来たって事で店長にサービスしてもらいますから」
「あ、いや流石にそれは……!」
「この前、孝志経由で迷惑掛けたお詫びですよ。というか、しないと私の気が済みません」
「そ、それなら……遠慮なくサービスして貰おうかしら……?」
「そう来ないとですよ!」
いつの間にか親しげに話をしている恋人と親友を目の当たりにして、少しモヤッとしてしまった。
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