第15話 左腕を挟む温かく柔らかい“何か”
「先輩……これ、やりすぎでは?」
「ん〜? 孝志くんに拒否権があるとでも〜?」
「……何でもないです」
先輩に黙って親友の悠と焼肉を食らい、酒を飲んだ事で俺はお仕置きをされていた。
───恋人から過度に密着されるという独特なお仕置きを。
「ふふふ、余裕でいられるのは今のうちだけだよ〜? それと、キスはしてあげないけどそれ以外ならしてあげてもいいからね〜? どうする? この間のえっちな本にあった事でもしてみる?」
「こんなのいくらでも味わっていられますよ! むしろ、先輩こそキスしたくなった時大丈夫ですか?」
「大丈夫! ……とは言い切れる自信はないけど、君にお仕置き出来るのなら耐え切るよ!」
「むしろご褒美に近いんですけど、これ」
いつものようにソファーの上でやり取りを続ける俺と紅葉先輩。しかし全てがいつも通りというわけでも無く、紅葉先輩はいつも以上に小悪魔的で、それでいて積極的。
キスはしない、キスを我慢し切れる自信はないと言いながらも先輩の表情はまるでこの状況を楽しんでいるようにも見えて、蜜柑酒の余韻が残った唇がより一層それを引き立てる。
さらには豊満な体を腕や胸、脇腹や太ももにコレでもかと密着させてくる次第。その度合いに応じて、先輩の匂いも強く感じてしまう。
こんな状況がお仕置き? ご褒美の間違いではないのだろうか?
そんな事を考えているのは先輩にはお見通しなのだろう。
「いつまでご褒美って言ってられるかな〜?」
「いつまでも言って見せますよ! 俺は先輩とならいくらでもいれますから」
「言ってくれるじゃない」
そう言って紅葉先輩はニヤリと笑う。
ご褒美だと本心で思っているし、先輩といくらでもいれると言うのも本音だ。いつまでもこのまま、抱きつかれていたいほどに。
しかし、先輩の行動は俺の斜め上を行く。
「それじゃあ、手始めに……コレでもしてみましょうか」
そう言って、俺の左手首を掴んだと思いきや、そのまま自分の服の下に引っ張り入れて温かく柔らかい“何か”に挟み込む。
一瞬、先輩が何をしたのかよく分からなかった。服の下に俺の手を突っ込み入れては暖かい柔らかい“何か”で挟んで、一体何をしたいのか、と。
けれど、目の前の光景を見てしまえば先輩が何をしたいのか、先輩が今俺に何をしているのか、自覚する他無かった。
───先輩が俺の左腕をその豊満な胸を服の下から直に包み込んでいるのを。
「ちょ、紅葉先輩……っ! 胸に手が挟まって……っっ!」
「挟んでるの。好きなんでしょ? 手首をこうやっておっぱいに包まれるの」
「……好きとか、そう言うんじゃ」
「正直に言ってくれないと、もうやってあげないよ〜?」
「はい、好きです。やって貰いたかったです!」
先輩に何を隠しても後々バレるだろうと悟った俺は、あっけなく今の状況が至福であると白状した。
と言うより、今の目の前の光景が終わってしまうのが惜しく思えたのだ。
今日の先輩の服装は、白のデカTシャツとジーンズ生地のショートパンツ。上は緩く、ダボっとした雰囲気が普段俺に見せてくれる緩い雰囲気とマッチしている。それに加えて下のショートパンツがただでさえ強い先輩の色気を強調して、結果俺は至福に身を委ねてしまう事になった。
目で絶景を、鼻で先輩の甘い匂いを、左手で先輩の柔らかさを、その他先輩に触れている体全体で先輩との密着具合を感じ、俺の頭が幸せすぎて脳みそが溶けてしまいそうになる。
先輩に保管を許された選ばれしエロ本の中には、確かに胸に手首を挟んでアレコレする内容のものがある。そしてエロ本の人物を紅葉先輩に補完して妄想した事も。
とはいえ、それを実行する勇気は俺にはなかった。しても、きっと揶揄われて終わりだとつい最近まで思っていたから。
それこそ、先輩と初めてキスをした日までは。
だからこそ、妄想していた事が現実になっているこの状況が幸せでしかなく、そしてそれを紅葉先輩が自らやってくれていると言うのがまた幸せを増強させる。
紅葉先輩にとって、まだまだこれは序章に過ぎないなんて事は当然、俺には知る由もなかったけれど───。
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