第14話 お仕置きとイチャラブと


「紅葉先輩ってばそろそろ機嫌直して下さいよ……」



 悠との焼肉を終えて紅葉先輩の待つ自分の部屋に戻ってきた俺は、今までにない以上に窮地へ立たされていた。


 理由は簡単。

「ふーんだっ! 私に黙って女の子と焼肉いっちゃう彼氏なんか、私知らないもん!」

 こう言うことだ。


「それには色々止むに止まれぬ事情があってですね……」

「しかも、お酒飲んで来たでしょ! 顔がほんのり赤いから分かるよ!」

「一杯だけですってば……。あとはソフトドリンクで我慢しましたって」

「飲んだのね、私以外の女の子と……っ!!」


 顔を背けて不貞腐れる先輩に事情を説明しようとするも、余計な一言でさらに悪化する。


 そもそも焼肉の匂いを残したまま安易に部屋に戻ってしまった俺が全面的に悪いのだが、それにしても俺が説明する間も無く悠と焼肉に行った事がすぐにバレてしまった。

 しかも顔の赤みでお酒を飲んで来たことも。


 いや、そもそも先輩は俺が一人で焼肉にいく性格じゃないのも、まともな友達が異性の悠くらいしかいないのを知っているんだった。それなら即バレしてもある意味仕方ないと納得できる。少し心に刺さるものがあるけど。

 しかし、どっちにしろお酒を飲んで来たかどうかを分かる先輩の洞察力には驚かされた。

 先輩にお酒を飲んできた事を隠すためにソフトドリンクをがぶ飲みしたのに、ほんの少し顔を見ただけでバレてしまったのだから。


 そんなこんなで、俺はリビングのカーペットの上で土下座しながら紅葉先輩の怒りが収まるのを待っていた。

 ソファーに足を組みながら座っては、俺が愛用してるクッションを抱きしめたり顔を埋めたり、飲み掛けの蜜柑酒を飲むか飲まないか考え込んだり……。怒っているのか怒っていないのかよく分からない先輩の行動をジッと見つめながら。


 しかし、そんな事を考えていると先輩がとんでもない事を言い出した。


「決めた……っ! 孝志くんのお酒が抜けるまでキスしない……っ!」

「んなっっ!?」

「孝志くんが私とのキス嫌いじゃないの分かっているからねっ! 今日は一日悶々としてもらうから!」

「そ、そ、そんな事ないですよ!!? でもごめんなさい、一日悶々しっぱなしはキツイので許して下さい!」

「ダメ、キチンと反省して!」


 なんと、イチャラブする度にキスを迫ってくる紅葉先輩がそれを止めると言い出すのだ。しかも俺が先輩とのキスを毎回心待ちにしていたのもどうやらバレているようだ。

 つまり、俺が今現状思い当たる限り、かなりキツイお仕置きが始まると言う事。


 悠に連れられるまま焼肉に行って一杯お酒を飲んだだけだと言うのに。しかも、その悠との焼肉は先輩とのイチャラブに熱中し過ぎた為だ。

 それだと言うのに、お仕置きというのだから理不尽と言わずして何というのであろうか。


 しかし、そんな思いも目の前の紅葉先輩のたった一つの仕草で消えてしまう。

「君が私の彼氏なんだって事を自覚して貰わないと、ね」

 そう言いながら、少し乾いた唇をペロッと舌で濡らす先輩の何気無い仕草に俺は心をときめかずにはいられなかった。



 だが、そんな先輩へのドキドキは思わぬ方向で加速していく。


「と言うわけで、今日の私はこうやってくっつくだけで我慢」

「それ、我慢してますか? というか、これいつも通りでは……?」

「ムラムラしてもキスしてあげないから大違いだよ」

「……なるほど?」


 これはむしろ先輩と思いっきりイチャラブできるのでは? そう甘い思いを頭に巡らせながら。


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