第11話 先輩の揶揄う理由
「よし! 片付け完了!!」
「結局、結構な時間かかっちゃいましたね」
「まぁその分いっぱいラブラブ出来たし、いいじゃない。君だって満更じゃなかったでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
先輩が俺の部屋に来て三日目のお昼。ようやく荷物整理が終わり、俺と先輩は定位置となりつつある三人掛けソファーにもたれ掛かっていた。
一日あれば片付いた荷物が、三日目のお昼にまで片付かなかった理由は単純。何かある度に先輩がちょっかいかけて来てマトモに作業が進まなかったからだ。
一日目はお酒とキスで潰れ、二日目のお昼までは二人してベッドでぐっすり。ここまでは仕方ないにしても、先輩が自身の洋服をタンスの空いたスペースに入れていく時に
『あ、これじゃあ勝負下着バレちゃうなぁ〜』
などと揶揄ったりして全く作業を進める気がなかったのだから大変だった。しかも、一度だけでなく二度、三度と……。
先輩の秘密の部分を見ているはずなのに、なんともドキッとしなかったのは不幸中の幸いだったけども。
とはいえ、下着を見せるだけで揶揄いたがりの先輩が引き下がるわけもなく、
『あ、もしかしてこっちのが見たいの……?』
なんて言ってやや短めのスカートをたくし上げようとして揺さぶっても来た。
下着単体では反応しなかった俺だが、その時には強く反応してしまい先輩の揶揄い欲を満たす事になってしまう。
スカートの中は見れず、先輩には『ヘンタイさん』と呼ばれるし散々だ。
けれど、それが不思議と満更ではないのだから困りもの。気づけば、悶々とした気持ちが湧き上がってきていて、先輩の顔をまともに見れなくなっている。
しかし、先輩がそう簡単に逃げ場を作ってくれるわけもなく
「ほぉ〜ら、顔逸らさないの。照れても顔そらさないで私を見て? せっかく一緒に暮らしてるんだから、たくさん私を見てよ」
そう言ってグイッと両手で俺の顔を挟み込んで固定する。そうされて見た時の先輩の目はとても魅力的で、また目を逸らしたくなる……。
「今顔赤いですし……」
「私は気にしないわ」
「きっと先輩は揶揄うだろうし……」
「否定はしないわ」
「そこは『揶揄わないようにする』、じゃないんですね……」
先輩はいつだってブレない。俺がどれだけ目を逸らそうとも、逆に一日目の夜のように立ち向かっていたとしても、先輩はいつだって俺を揶揄うのに全力だ。
その理由はただ一つ──
「だって、好きな人を揶揄ってる時間が私は好きなんだもの。孝志くんは違うの? 私に揶揄わられるのは、嫌い?」
好きだから。
その好きが、揶揄うこと自体にあるのか、俺にあるのかは未だに分からないけれども、どちらにせよ好きに変わりはない。好きが、俺の方に向いているのに変わりない。
それが嬉しくないはずがなく、悶々とした想いが昇華されて顔がニヤけてしまう。
「その言い方はちょっと、ずるいですよ……」
気づけばポツリと先輩に文句を溢していた。
当然、先輩が絶好の揶揄いタイミングを逃すはずもなく
「ん〜? なんで〜?」
「……嫌いだったら、先輩と付き合ってません」
「んーっ、もう一声!」
「なんですか、その反応は」
「もうちょっと孝志くんのイイトコロ見てみたいなぁ〜!」
と徹底的に揺さぶりをかけてくる。
しかし、それ以外の目論みがあるようにも思えた。でなければ、頬まで顔を緩ませて期待の眼差しを俺に向けるわけがない。
いつもは口元だけなのに、今回は頬までも緩ませている。いつもとは違う揶揄い。その違う理由が何か、初めは分らなかった。
が───
「イイトコロって……あっ」
よくよく考えてみれば、思い当たる節が一つだけあった。いや、つい最近出来たと言っても過言ではない。
だから、気がつくのに遅くなってしまった。
「わくわくドキドキ……」
俺の『あっ』という言葉に先輩の期待は高まる。そんな先輩の期待を越えるべく、俺は意を決してもう一声頑張ってみた。
「揶揄われるのが嫌だったら、一緒に住もうなんて……思いませんよ」
と。
刹那、先輩のつけてる甘い香水の匂いが濃くなる。
「んーーーーっっ!! 孝志くん好きッッ!」
「お、俺も好きです……!」
「知ってる〜〜」
言葉より先に俺を抱き寄せた先輩が耳元でラブコールをしてくる。俺も負けじとラブコール仕返すもあっさりと受け止められてしまった。
まだまだ先輩の先をいくのは時間がかかりそうだ。
そんな事を思って先輩に抱き締められていると、ふと今の時刻が目に入る。
午後一時半。それは大学生にとって、大事な時間を教える時刻。すなわち───午後の授業の開始である。
そしてそれは俺と紅葉先輩にも言えた事だった。
「こうしてる場合じゃなかったね。学校休んじゃった分取り返さないとだよ!」
「まさか、三日も休む事になるなんて」
「でもその間は友達が代返してくれてるんでしょ?」
「それはそうなんですけど、絶対何してたのか探られますって……」
「歳上美人彼女とラブラブイチャイチャしてました〜、っていえばいいと思うよ」
「間違いなくシバかれます!」
荷物整理含めて初めて先輩と一緒にベッドで寝た日から三日間、俺は大学の授業を休んでいた。先輩が大学に行かせてくれなかったり、逆に俺が先輩と離れたくなかったり、色々あって今日まで学校をサボり続けていた。
が、流石にサボりすぎては色々と問題で、現に代返を頼んでいる友達からは『お前、どんどん借り増えてくけどいいんだな?』と脅されている始末。
今回の事が無くても色々とその友達には借りがある為、これ以上サボるわけにはいかなくなってしまった。
そうして俺は重い腰を上げ、午後の授業に遅れながらでも行くべく先輩と一緒に玄関へと足を運ぶ。
「ちなみに私は友達に予め『年下イケメン彼氏とラブラブチュッチュするから、代返よろしく〜』ってメッセ送ってある」
「強すぎません? 先輩も、その友達も」
新たな先輩の一面を知りながら。
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