魔王が手を組めば世界の半分以上を与えると言ってきたので、もっとくれないか交渉してみた
コータ
魔王、覚悟! ……ってあれ?
ほう。このような時間に来客とは珍しいものよ。
いやいや、何も言うな。ワシには分かっておる。
お主はこの魔王たるワシを倒し、世界を救おうなどという大志を抱く勇者というわけじゃな。
まあ待て。戦いの前に、一つ話でもしようではないか。安心せい。ワシは汚い策略など何も用意してはおらぬ。純粋に勇者であるお主が気になっておるだけじゃ。
しかしまあ、なんとも勇ましい! いや、これはお世辞ではなく、本当に勇気を持った男じゃと思っておるよ。この怪物ひしめく魔王城に、なにしろたった一人で乗り込んできたのじゃからな。
だが惜しい。ワシとしては、お主のような将来有望かつ有能な若者を手にかけるなど気が進まぬ。この杖から放たれる魔法がいかに強力とはいえ、この全身がいかに強靭とは言え、人ではないにしろ良心は持ち合わせておるつもりだ。
そうそう! お主の凛々しい顔を見ていたら思い出したわ。実はな、今ワシは世界一有能な右腕を求めておる。世界支配が目前となった今、この老体だけでは忙しすぎてどうにもならんというわけよ。
だがなー……これが探してもおらんのよ。本当に!
何処かに素晴らしく腕が立ち、たった一人でも困難を乗り越えてくるような男はおらんものかのう?
あ! そうじゃそうじゃ。ワシの目の前におるではないか。
どうじゃ勇者よ。ワシの右腕となって働くつもりはないか?
ワシが世界を支配し覇権を取る姿を、お主は最も近くで見ることができるのだぞ。
おっと! どうした? まあ待て。交渉の最中に剣を抜くなど、野蛮な真似をするような男ではあるまい。
なに? じじいが成功している姿を見ても嬉しくない? 俺にメリットがないじゃと。
ククク! メリットのことなら心配するな。その話を今からするのでないか。焦るな焦るな。
実はな。お主がワシの右腕になってくれるというのなら、世界の半分……否!
世界の三分の二をくれてやる! どうじゃ?
ん? ……話がうますぎる?
はははは。どうしたというのじゃ勇者よ。何か狡い詐欺にでも引っかかった経験をお持ちか?
見目麗しき女に引っ掛けられ、危うく大金を奪われそうになったことでもあるのか?
なに! 過去に本当に騙されたのか。お主も苦労しているな。今時そんな古典的な手にかかろうとは、ますますやり易……いや、なんでもない。話を戻そう。
まず、ワシがお主に持ちかけている話は本当じゃぞ。考えてもみい。この大陸の三分の二を支配できるチャンスがあるというに、乗らない者が何処にいる?
お主に冒険を命じた国王だって、二つ返事で従うだろう。というか、アイツ旅立ちの時に銅の剣なんてクソセコイ物しかくれなかった癖に、儲け話には人一倍敏感じゃからな。
お主に分かりきった情報をしたり顔で教えてくる村人なんてきっと即答するじゃろう。そのくせ次の島に進むためのアイテムが何処にあるかとか、隠れた武器の隠し場所とか大事なことは何も教えてくれんからなあいつ。
信頼できないという話は分かる。しかし人間のほうが信用できんものだぞ。魔族のほうが約束には律儀だ。そして仮にもワシは魔王ぞ。騙くらかすようなセコイ真似など断じてせぬ。そこは安心して良い。
ちなみにこの世界の三分の二をくれちゃいますキャンペーンは、あと十分以内の回答が締め切りじゃ。なに? 悩んでいるのに締め切りが早すぎる?
勇者よ。残酷なようだがそれが世の常じゃ。お主が悩んでいる間に、絶好のチャンスというものはホイホイ遠くに行ってしまうぞ。
例えばお主が町で可憐な女性に恋をしたとしよう。しかし話しかけずにもじもじと陰キャな姿を晒していると、あっという間にコミュ力爆上げの陽キャが現れ横から掻っ攫っていく。
だが!
お主が勇者として魔物達と戦う時と同じように、即断即答の精神で望むならば結果は全く逆じゃ。陽キャが悔しがる中、お主は美女と共に夜の街へと消えていく。
今度は美女という名の戦場を駆け回ることになるというわけじゃ。
ククク。勇者よ、その気になってきたようじゃな。鼻の下が伸びておる。
む? 具体的には何処をくれるのかじゃと?
ふむ、良い質問じゃ。話し合いを前向きに検討している感がありありじゃな。ワシは嘘などつかぬ。これより具体的に説明するとしようぞ!
まずはアカンサスの海、続いてイキシアの海、エゴノキの海、サフランの海、ネリネの海、ヒソップの海、ライラックの海、えーとそれからそれから、なんだっけなあの海……おっと!? どうした! なぜ魔法の詠唱を始めておる?
なに? 海ばっかりじゃないか、だと。
クククク! 勇者よ。お主は海を手にすることの素晴らしさが分かっておらんようじゃな。
よく考えるのじゃ勇者よ。これから船が海を行き来する場合、必ずお主の許可が必要になるんじゃぞ。要するに交通量や諸々のお金が、働かずしてお主に入ってくることになるのじゃ。
その金額たるやいかばかりか。これから魔王軍支配下のもとで経済が発展していくだろうから、ワシにも想像がつかんわい。間違いなく言えることは、億万長者の片道券であるということ。
はー! 羨ましい限りじゃ。ワシが細々と大陸で活動している間に、勇者はまさに海を股にかける男になれるわけだ。人生薔薇色じゃなぁ。
おや? どうした勇者よ。まだ何か迷っているようじゃな。なに、もう一声欲しいだと? む! そうかそうか、美女をご所望か。
いやー、お主は欲しがりさんよのう。しかし奇妙なものだ。確かお主、ワシが攫った姫を救出しておったような気が……コホン! まあその話は置いておいて、とにかくだ。
美女というなら、我が魔王軍にも一人、絶世の美貌を持つ者が一名おる。
お主が救い出した姫よりも、ベクトルは異なるが美しさでは負けておらん、と申す者もいる。
この城より少し離れた浜辺に、その娘は住んでおってな。長いブロンドの髪、新雪の如き白肌、何処までも柔らかい太もも、そして溢れんばかりの谷間、すなわち巨乳!
おお、勇者よ。相当前向きになってきたようじゃな。彼女は相手がお主ならば、喜んでデートしたいと申しておったぞ。
しかもな勇者よ、あの娘の素晴らしさは見た目だけではない。
掃除洗濯はさっさとこなし、料理も一流シェフ並み。魔族間で行われておる『幼馴染だったら最高な女性』ランキング一位になっているほどじゃ。美しい心まで持ち合わせており、かつワシの次に裕福な家庭に育っておる! それはそれは美しく可憐な、オーク族の娘じゃよ。
おっと!? ど、どうした勇者よ! 今もうちょっとでワシの脳天をかち割ろうとしておったな!
なに? 豚みたいなオークの女なんて欲しくない?
そうか! 分かった。ワシが人間の女とお見合いをさせてやるとしよう。成功するまでサポートしてやるので安心して良いぞ。
ん? そうかそうか。お主はとにかく若い娘が良いのじゃな。ほほう、十代後半くらいにしてほしいのか。
む!? 見た目は幼女に見えなくもないが、実際は合法な女の子が良いとな? しかし勇者よ、お主自身はどう見ても二十歳を超えているようだが……コホン! まあいい、ワシに任せるが良い。
よし勇者よ! これで一通り条件はまとまったようじゃな。
これよりお主はワシの右腕として、しっかりと世界を管理してもらうとしよう。
……クク、クククク。ハハハ! ハーハッハッハッハ!
たわけめ! そのような大役、貴様如きに任せるはずがなかろう。勇者よ、この杖から光るものが何か解るな?
なに、解らないだと。まったく貴様ときたら魔法の知識もないのか。
この魔法は防ぐことが叶わぬ禁断の万能即死魔法よ。しかし惜しむらくは発動に非常に長い時間を要してしまうところ。つまりワシは、交渉をするふりをしつつ、魔法を発動するための時間を稼いでいたというわけよ!
大体ワシは貴様が気に食わなかったのだ勇者よ。ワシが妃とするべく攫った姫を救出した後、どういうわけか高級宿に泊まりよったな?
その後の騒ぎっぷりは目に余るものがあったぞ。宿主は苦笑いで「昨日はお楽しみでしたね」などと抜かしていたが、まさか一晩中お楽しみになるとはな。他の客からのクレームがきて大変だったらしいぞ、反省しろ。
なに? どうしてそのことを知っているのかだと? ふん! ワシにタレコミがあってな。貴様に嫉妬した連中は一人や二人ではないということよ。ああ腹立たしい!
しかも帰り道でもイチャイチャしておったそうだな。君は僕の太陽だなどと、薄ら寒い寝言をほざいては町行く人々をドン引きさせていたそうじゃないか。そのブサイクな面構えでよくも言えたもんじゃな!
更に言えば先程のやり取りで確信したが、どうやらロリコン属性までも備えておるらしい。このことを姫が知ったらどう思うか……。
なに? もうそれ以上言うのはやめてくれだと。相当参っているようじゃな。
ガハハハ! まあ良い! 即死魔法は既に完成目前。もはや貴様に勝ち目などないわ。おや、どうした。急に落ち着きを取り戻したな。いよいよ諦める気になったのか。
なに? お前こそこの玉が見えないのか、だと?
そ、それは! まさか。
ありとあらゆる存在を次元の彼方まで消し飛ばすと言われる超光の玉ではないか。き、貴様、どこでそれを?
ええい! やらせはせん、やらせんぞおおおお!
あ、ちょ、ちょっと待ってくれ……まだ魔法の完成がぬわーーーーっっ!!?
魔王が手を組めば世界の半分以上を与えると言ってきたので、もっとくれないか交渉してみた コータ @asadakota
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