第12話 再起へ
数日後、吾は館のあった場所に座り込み、眼下の光景を見下ろしていた。一族の者そして女たちに命を失った者はなかった。しかし、館は跡形もなく流され、周りで栽培していた栗や
兄者は惨状を踏まえ一族を二つに分ける選択をした。兄者は一族の半数を率いて山奥の、もしもの場合に備えて栗や
この地に残る吾らがなさねばならぬ事は多い。まず拠点となる住処を作らなければならないが、場所をどこにするかの思案が要る。これまでと同じ場所で良いのかどうか。
誰かが隣に座った気配がし、横目で窺うとタゴリの姿があった。いつもの裳裾と頭巾の姿だが、さすがに裾はふくらはぎまでに縮めている
「あまり力を落としなさるな。私たちもこの地で暮らしていきます。少しですが稲穂の刈り取りができました。これを増やしていけば、ここを豊かな実りの地にできましょう」
「そうだろうか」
「ええ、お見せしますわ」
タゴリは吾の後ろに回り、手で吾の目を覆った。背に彼女の身体を感じる。
ゆっくりと目を開ける。目の前には一面、金色に輝く風景が広がっていた。川の曲がりの周りだけではない。野原やその向こうの雑木林のはずの所にも稲穂が広がり、日の光を受けてきらきらと
『何年もかかるでしょう。でも皆で力を合わせれば……』
吾は広がる風景を見渡し、
「勘違いするんじゃないわよ」
耳のすぐそばで声がした。
『選ぶのは』
「選ぶのは」
『『私たちの方だからね』』
頭の中で複数の声が同時に響く。吾はその声の力強さに圧倒された。
タゴリの手が吾の目から外された時、吾のそばにいたのはタゴリだけだった。
「タゴリ、今のは?」
「さあ?」
尋ねる吾にタゴリは微笑んだ。
「私にも未来の全ては視えません。視えないからこそ、希望をもって前へ進むことができております」
吾はタゴリの言葉を反芻した。彼女の言葉に得心できたわけではなかったが、いずれにしても今はできることから少しずつやっていくしかない。
「そうだな、吾も進んで行かねばならん」
かくして新たな一歩が踏み出された。
終わり
黄金の魔女 ~西の国の女たちは禍福が糾われた未来を伝える~ oxygendes @oxygendes
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