第34話 ファルス その3

迷宮が展開されてすぐに、ファルスとレシンは走り出す。


(何か理由があるはずだ・・・こんなに速く追い付ける理由が!)


レシンは考えながらも走る速度を落とさない。


(だがあと一つ・・・!!逃げきってしまえば・・・!!)




その時だった。


ファルスが気配に気付き、走りながら振り返る。




ファルスの背後には、宙を飛んでくる杭があった。


「―――!!!」


ファルスは右手を高純度の魔力で覆い、振り返りざまに杭を横から叩く。


杭は砕け散り、消滅する。


「ファルス・・・!」


「道理で速いわけだ・・・これなら道に迷わず最短ルートで俺達を追える。」








「やっと奴らを発見できたか。」


ワッシュは走る速度を上げ、曲がり角まで跳ぶ。


次の曲がり角まで再び跳ぶ。また更に次も跳ぶ。


(なんのことはない。


第一の杭でアタリの道を探し続ければ迷う事はない。


いかに奴らがダミーを撒こうとも杭が刺せば本体ではないことはすぐにわかる。


そして今の感覚・・・あれは直接魔力をまとった拳で叩かれたな。)


消された杭が進んだ順番に、次々に曲がり角を跳び続ける。


(次に展開してくる迷路で完全に追いつく。


・・・詰みだ。)


ワッシュは更に速度を上げた。




ファルスとレシンが出口を出て、迷宮が消滅する。


二人とワッシュの距離―――




50m。




「もう逃げられんだろう。」


「あぁ。もう逃げるのはやめだ。」


ワッシュの言葉にファルスがそう返した瞬間。


レシンが両手を下向きにして開き、勢いよく合わせる。


(闘の間・・・!)


ワッシュ、ファルス、レシンだけを入れた巨大な部屋が出現した。


部屋の左右上下、あちこちに窓がついており、窓の奥は闇が広がっている。


ワッシュが空中に杭をいくつも出現させ、それらはファルスとレシンへ向かって行く。


ファルスとレシンは背後の窓へ飛び、中へ入っていく。




ワッシュの左側にある窓から飛んできたファルスに対して、ワッシュは杭を放つ。


天井の窓から布が伸び、ファルスの片手を掴み引き上げることで杭は当たらない。


ワッシュの真下にある窓から鉄球が飛んでくる。


ワッシュが軽く蹴り飛ばした鉄球が、窓の中へ吸い込まれていく。


(窓と窓はどこからどこへでも繋がる。


だが奴の杭を吸い込んだらそれは別空間へ閉じ込める!


俺の近接戦でけん制しながらレシンのサポートで杭を喰らわないようにする。これしかない・・・)


二人がこの策を使うのは実に8年ぶりだった。


それまで出くわした強敵は、どれも迷宮によって撒くことが出来ていた。




だが、8年ぶりの連携も一切衰えない。


戦闘訓練を毎日欠かさず続けた努力が成せる技だった。


(この杭野郎に一撃入れる・・・!!


隙を作って再び距離を取りレシンの迷宮で逃げるしかねぇ!!)


空間を移動しながらもワッシュへ攻撃を仕掛けるファルスの速度は上がり続ける。


そして、それはレシンも同じだった。


部屋中を二人が、そして窓から繰り出される幾つもの武器が埋め尽くす。






壁に足をついたレシンが、天井の窓へ向かって壁を蹴ろうとした時だった。




「第三の杭。」


レシンの右足だけが、壁から離れない。


「―――!?」




壁の近くに、ワッシュの杭が刺さっていた。


レシンは体勢を崩し、右足だけで吊られるように身体がよろめき重力に引っ張られる。


だが、レシンの足元に突如窓が出現。


窓から出てきた布がレシンの胴に絡み、引き込もうとした。




そして、レシンは完全に引き込まれる前に、上半身だけ窓から出た状態でピタリと止まった。


「かっ・・・」




レシンの首に、ワッシュの第一の杭が刺さっていた。


そしてそれは首の中へ完全に入り、溶け込み―――


首に紋章が浮かび上がった。




術で作られた部屋が、消滅した。


空中に浮いたまま動けないレシン。


その横にすぐに移動したワッシュ。




汗を垂らし息を荒くするファルス。


「貴様・・・ッ」


「お前もだ、ファルス。」


ワッシュの周りに杭がいくつも出現する。


切っ先が、ファルスの方へ向いた。


そして―――




ファルスめがけて、それらは飛んでいく。


「―――ッ!!」


ファルスは魔力で全身を覆い、両足に力を込めた。




杭の全てが、黒い植物にからめとられ止まり、砕け散る。


ファルスの横に来た何者かが、黒い植物を両手から、身体から出していた。


その少女が、憎しみの籠った形相でワッシュをにらみつけながら叫んだ。




「この人達に手を出すなら私を殺せ・・・!!」




(いつの間にこの場に?


こいつもファルスの仲間か?)




(ひとまずは動きを止める。)


ワッシュは先程の倍もある量の杭を出し、今度は少女へ向かって放つ。




反撃しようとした少女の前に立ちはだかったファルスが、両腕を広げ思わず叫んだ。




「この子に手を出すな!!!!!!!」


ワッシュの杭が、ピタリと動きを止める。




そのファルスの形相が、言葉が、かつて六道賢者と戦った時の記憶を蘇らせる。






『これ以上無関係の人間に手を出すんじゃねぇ!!!』






「・・・!?」


ワッシュが目を見開いた。




「しまっ・・・」


ファルスが慌てて口を押える。




(知っている。ファルスのこの顔は・・・)




(誰かを護る時の顔だ。)

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