第33話 ファルス その2

ワッシュが杭を出す前に、レシンが先手を打つ。


(迷宮生成・・・)


手と手で中に空間を作るように両手を合わせたレシンから溢れた魔力が消えると同時に、ワッシュの目の前に壁が現れた。


「!?」


ワッシュは視界の上下左右を確認し、後ろを振り向く。


下には石の床、上には石の天井。


通り道が右と斜め後ろにあり、石の壁が続いていた。


(どちらの道からも奴らの魔力を感じる・・・?


だがかなり薄い・・・この壁は魔力を阻むのか?)




ファルスとレシンは、すぐさま走り出し石の迷路を駆け抜けていく。


途中、ファルスが着ているスーツの内側のポケットから小さな黄色の球を出し、床へ放り投げ置いていく。


黄色の球はひとりでに転がり出し、別の方向へ行く。


レシンは石の壁にあるわずかな色の違いを見つけ、分かれた道を迷わず突き進んでいく。


二人は一言も発さず、そして走りながらも足音を最小限にして進み続けた。


(コンディションは完璧だ・・・ファルスも同じ速度でついてきてる。


迷路の中は私の魔力が霧のように充満する・・・そして小型のダミーで魔力の強弱を生み出し更にかく乱する。


音の反響を聞き逃すな・・・さっきのでわかってしまった。)


レシンとファルスは冷や汗を垂らす。


(あいつは私達よりも強い・・・!!!


出くわしたら終わりだ。迷路の形状がどうなるかは最早神頼みでしかない。


だが・・・切り抜ける!)




「なるほどな・・・」


ワッシュは、魔力を発する小型の球を踏み潰し、別の道へと走る。


(空間生成の能力・・・以前追った時に途中で魔力が途切れていたのはこのためか。


そして音が反響して奴らの正確な位置がわからない・・・)


ワッシュは腕に力を込め、壁を殴りつける。


石に拳がめり込み、ヒビが入り陥没するが貫通しない。


(異常な硬さだ。


これで壁が吹き飛ばないということは何かしらあちらにもデメリットがあるはずだな。)




「!」


レシンとファルスは、石の壁が壊れるような音を聞いた。


(なんて奴だ。


貫通したのか?わからないが・・・


私の作り出した、壊れた事のない迷路の壁に傷をつける程の力・・・!!


異常過ぎる!なんでこんな化物に目をつけられてしまったのか・・・!)


レシンに焦りが生まれる。


だが、それでも道を間違える事はなく―――




二人は"出口"へ到着した。


ファルスが先に出口から先へ飛び―――


レシンが後から、出口を出る。




石の巨大な迷路が、消滅した。


ファルスは後ろを見る。


ワッシュとの距離、約1km。


レシンが再び両手を合わせる。


「迷宮生成!!!」


レシンとファルスを囲んだ迷宮が再び出現した。




「完全に逃走用に造られているな・・・」


迷宮が消え、振り返ったワッシュ。


空中に浮いていた二人を追おうとすると、目の前に迷宮が出現。


横に約500m程の大きさ、高さは約30m。


ワッシュはすぐさま空中にある迷宮の下を通り抜けようとする。


迷宮入り口の真下へさしかかろうとした時、ワッシュが止まった。


(結界のようなもので先へ進めない。)


見えない壁を叩くも、ビクともしない。


(よく出来た能力だ。


・・・だが。)


ワッシュは上へ浮上し、迷宮の入り口に降り立つ。


壁だらけの先を見透かすように目を細め、ワッシュが呟いた。


「追い方はわかった。」




ファルスとレシンは再び出口へたどり着く。


ファルスは目配せで合図をし、先に出口から外へ出る。


そして、空間を引き裂き次の異世界への道を作り、入った。


レシンは出口を出ると、そのまま空間の裂け目へと入って行った。




(あと二つ!!


あと二つ異世界を越えれば・・・!!)


ファルスとレシンが猛スピードで空中を飛ぶ。


(私の迷宮は能力の対象者が同じ空間に居る時、そして両者の距離が3km以内でなければ発動できない。


奴が範囲内に入った瞬間にすぐに発動しなければ・・・!!)




ワッシュが、空間を裂いて現れた。


「!!」


(早すぎる!!)


ファルス、レシンとの距離・・・およそ2km。


「迷宮生成!!」


再び迷宮が出現。


迷宮の中を進みながら、ファルスが言う。


「万が一の時は迎え撃つ。」


「・・・わかってる。」




(迷宮には行き止まりも作ってある。


回廊もあるのに・・・何故ここまで早く追い付ける!?)


レシンは疑問を抱えながら、最短のルートを見分け走り続けた。








次の異世界にたどり着いた二人。


レシンが能力を発動した。




ワッシュとの距離、およそ300m。

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