第32話 ファルス その1

コタル・グレーと呼ばれる地域の廃村に、ファルスとレシンが現れる。


レシンは物見やぐらへと向かい、ファルスは村の中心へ特定のルートを辿りながら歩く。


(ここに来るまで奴らの気配も魔力も感じなかった・・・


この胸のざわめきが現実にならないことを祈るしかない。)


音を極力立てないように、しかし早歩きで目的地へ向かうファルス。


弱く吹く風が、周りにある藁の屋根を揺らす。


足元を土埃がかすめていく中、ファルスは足を止めた。


そして、目の前の家の木製のドアを開け・・・中に入った。




中には、粗く所々が破れた麻布をまとった男が一人。


男は何も言わず、懐から紙を出しファルスに渡そうとする。


ファルスもまた、黙ってそれを受取ろうとし―――




紙を掴み、情報屋の男が手を離した瞬間だった。




情報屋の肩の後ろから、小人のような何かが登り上がり、肩に乗る。


黒い装束をまとい、木で出来た針のようなものを持った小人がファルスを指さした。


「!?」


「!!」






「見つけた・・・」


縞がそう呟いたのを聞き、ワッシュが立ち上がる。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


縞の、"黒子を発生させ操る能力"は多様性に富んでいる。


『万が一ファルスが来ない場合・・・


情報屋を呼んで別の場所でオークションの日程を入手するかも知れない。』


タノスがそう言うと、ワッシュが縞へ言う。


『タノスが情報屋の目星をつけた。


縞、お前の黒子はある程度大きさを調整できると前に言っていたな?』


『なるほどな。


小さい黒子を情報屋に潜入させるってことね。』


『出来るか?』


『見てろ。』


縞が小さな木で出来た針のようなものを取り出す。


『"歯木"って言ってな、歯の汚れ取るようなほっそい枝みたいなもんだ。』


そして、それを放り投げる。


すると歯木を持つように小さな黒子が現れた。


『よし!だいぶ小さく出来たぜ。』


拳の半分程の大きさだが、黒子は素早く動く。


『上出来だ。


だが魔力は感知されないのか?』


『ここまで弱い黒子だと、微弱過ぎてわからねぇさ。


普通の人間が普段まとってる弱い魔力と同化しちまうんだ。』


縞が得意げに説明すると、小さな黒子も腕を組んで胸を張る。




そして縞は単身で情報屋の居る場所へ行き、黒子を忍び込ませた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「しかも場所が良い。奴が居るのはここから西の方向へ3つ越えた所だ・・・」


「確かその隣の異世界二つにも黒子を配置してたな?」


「ああ。


だから先に黒子が居ない所へ行っててくれ、俺達も追いかける。」


「わかった。」


そう言うと、ワッシュは魔力を解放し物凄い速さで飛んでいく。


「よし!俺らも行くぜ!」


縞を筆頭に、タノスとカーナもワッシュの後を追う。






情報屋の一撃で、小さな黒子は破壊され消える。


「クソッ!!!」


ファルスが悪態をつくが、情報屋はすぐに床を開け慌てながら地下通路へ入る。


「約束は果たせ奴隷買い!!!」


「わかってる!!」


情報屋が地下通路に入り、3秒後。


ファルスが仕掛けを起動させると、床の周りが崩れ入り口が埋まった。


急いで外に出たファルスは、レシンの元へ飛んでいく。


「ファルス!?何があった!」


「情報屋に奴らが術を仕掛けていた!


一刻も早く逃げるぞ!!!」


レシンは返事をする間も無く、ファルスを追って飛ぶ。


異世界を一つ、二つと移動し続ける二人。


(全く気付かなかった・・・


情報屋の方に目をつけられたのは初めてだ。


そもそも何故情報屋の方に目星をつけられたんだ?あの世界に詳しいか顔なじみの居る奴が仲間の中に居るか・・・?)




(考えてもキリがない。


とにかく今は―――)




帰る場所へ、あと3つ異世界を越えればたどり着く。


そう思った時だった。




空中で止まったファルスとレシンの200m先に、男が一人浮いてこちらを見ている。


「―――ッ!!」




「縞に感謝しなければな・・・」


ワッシュが、眼前の二人を見据えて呟いた。

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