第32話 ファルス その1
コタル・グレーと呼ばれる地域の廃村に、ファルスとレシンが現れる。
レシンは物見やぐらへと向かい、ファルスは村の中心へ特定のルートを辿りながら歩く。
(ここに来るまで奴らの気配も魔力も感じなかった・・・
この胸のざわめきが現実にならないことを祈るしかない。)
音を極力立てないように、しかし早歩きで目的地へ向かうファルス。
弱く吹く風が、周りにある藁の屋根を揺らす。
足元を土埃がかすめていく中、ファルスは足を止めた。
そして、目の前の家の木製のドアを開け・・・中に入った。
中には、粗く所々が破れた麻布をまとった男が一人。
男は何も言わず、懐から紙を出しファルスに渡そうとする。
ファルスもまた、黙ってそれを受取ろうとし―――
紙を掴み、情報屋の男が手を離した瞬間だった。
情報屋の肩の後ろから、小人のような何かが登り上がり、肩に乗る。
黒い装束をまとい、木で出来た針のようなものを持った小人がファルスを指さした。
「!?」
「!!」
「見つけた・・・」
縞がそう呟いたのを聞き、ワッシュが立ち上がる。
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縞の、"黒子を発生させ操る能力"は多様性に富んでいる。
『万が一ファルスが来ない場合・・・
情報屋を呼んで別の場所でオークションの日程を入手するかも知れない。』
タノスがそう言うと、ワッシュが縞へ言う。
『タノスが情報屋の目星をつけた。
縞、お前の黒子はある程度大きさを調整できると前に言っていたな?』
『なるほどな。
小さい黒子を情報屋に潜入させるってことね。』
『出来るか?』
『見てろ。』
縞が小さな木で出来た針のようなものを取り出す。
『"歯木"って言ってな、歯の汚れ取るようなほっそい枝みたいなもんだ。』
そして、それを放り投げる。
すると歯木を持つように小さな黒子が現れた。
『よし!だいぶ小さく出来たぜ。』
拳の半分程の大きさだが、黒子は素早く動く。
『上出来だ。
だが魔力は感知されないのか?』
『ここまで弱い黒子だと、微弱過ぎてわからねぇさ。
普通の人間が普段まとってる弱い魔力と同化しちまうんだ。』
縞が得意げに説明すると、小さな黒子も腕を組んで胸を張る。
そして縞は単身で情報屋の居る場所へ行き、黒子を忍び込ませた。
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「しかも場所が良い。奴が居るのはここから西の方向へ3つ越えた所だ・・・」
「確かその隣の異世界二つにも黒子を配置してたな?」
「ああ。
だから先に黒子が居ない所へ行っててくれ、俺達も追いかける。」
「わかった。」
そう言うと、ワッシュは魔力を解放し物凄い速さで飛んでいく。
「よし!俺らも行くぜ!」
縞を筆頭に、タノスとカーナもワッシュの後を追う。
情報屋の一撃で、小さな黒子は破壊され消える。
「クソッ!!!」
ファルスが悪態をつくが、情報屋はすぐに床を開け慌てながら地下通路へ入る。
「約束は果たせ奴隷買い!!!」
「わかってる!!」
情報屋が地下通路に入り、3秒後。
ファルスが仕掛けを起動させると、床の周りが崩れ入り口が埋まった。
急いで外に出たファルスは、レシンの元へ飛んでいく。
「ファルス!?何があった!」
「情報屋に奴らが術を仕掛けていた!
一刻も早く逃げるぞ!!!」
レシンは返事をする間も無く、ファルスを追って飛ぶ。
異世界を一つ、二つと移動し続ける二人。
(全く気付かなかった・・・
情報屋の方に目をつけられたのは初めてだ。
そもそも何故情報屋の方に目星をつけられたんだ?あの世界に詳しいか顔なじみの居る奴が仲間の中に居るか・・・?)
(考えてもキリがない。
とにかく今は―――)
帰る場所へ、あと3つ異世界を越えればたどり着く。
そう思った時だった。
空中で止まったファルスとレシンの200m先に、男が一人浮いてこちらを見ている。
「―――ッ!!」
「縞に感謝しなければな・・・」
ワッシュが、眼前の二人を見据えて呟いた。
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