第31話 平和の傍らで
四日後。
「明日の昼前、11時だったな。」
ファルスがレシンに確認する。
館の廊下から、外の花畑で走り回る子供達を眺める二人。
「ああ。
コタル・グレーの廃村、ツボの倉庫になっている家の中で待っているそうだ。」
「コタル・グレー・・・6つは先か。」
「取引時間は10秒以内。
俺は村の外れにある物見やぐらの上で待機。
取引を済ませたら情報屋が家の中に作った地下通路から逃げる。
情報屋が地下に入って3秒後に、ファルスは床に作った木材のでっぱりを引いて入り口を封鎖してくれ。
これが村についてからのルートだ。」
レシンがファルスに図を描いた紙を渡す。
設計図のようにいくつも直線を引いて余分な所を消した跡があり、正確に描かれている。
「いつもお前の描く図はわかりやすい・・・」
「よし。
燃やしといてくれ。」
「ああ。」
レシンが返された紙を受け取り、上着のポケットに仕舞う。
「レシン、透明迷路は何回使うんだ?」
「14回だな。」
「・・・わかった。」
「そんなに不安か?」
ファルスは怪訝な顔をしながら答える。
「どうも胸がざわつく。」
「万が一の時は俺の能力をフル稼働すればいい。
それで切り抜けられなかったことは無いだろう。」
「・・・確かに俺たちはあの頃に比べりゃ相当強くなった。
今、俺達に勝てるような相手はどこにも居ない・・・はずだ。」
「心配しすぎだ。
・・・と言いたいところだが、そういうお前の慎重さに何度も救われてるから強くは言えないな。」
レシンがため息をつき、再び花園にいる子供達を見る。
そして、深くハッキリした声でレシンが言った。
「無事帰ってこよう、今回も。」
「ああ。」
ファルスもまた、覚悟を決めた目で子供達を見ていた。
その話声を、下の階で聞く者が一人いた事に二人は気付かなかった。
「もうあれから五日か・・・」
「ワッシュ、俺が言うのもなんだけど・・・警戒されてずっと出てこないんじゃないか?」
縞の言葉に、ワッシュは目線を逸らさず答える。
「そうだったなら・・・別の案を考える。
7日経つまでは待つ。」
銃の手入れをしているタノスが口をはさむ。
「ワッシュ・・・奴を捕らえるまでずっと粘るつもりか?」
「・・・」
「お前は目的を優先させなくていいのか。」
「目的は果たす。
だが奴を見過ごすわけには行かない。
・・・セロットなら、見過ごさない。」
「!」
タノスは、最も信頼する親友の名前が出されたことによって返す言葉を失う。
「セロットって奴はホントに良い奴なんだな。」
縞が笑みを浮かべながら言った。
「あ、あの。
捕まえようとしてる人・・・殺さないですよね?」
カーナの言葉に、ワッシュが振り向く。
「命まで取るつもりはない。
だがそれ相応の代償は払わせなければならないだろう。」
「そう、ですか・・・」
不安がるカーナに縞が言う。
「流石に、こっちの身の危険が迫って余儀なく・・・ってなったら俺も手段は選ばないぜ。
ごめんな、カーナ。」
「え?あ、いえ・・・」
(そ・・・そうじゃ、無いんだ。
何か、何かが違うような・・・なんだろう?この気持ち・・・)
カーナは自分の中に生まれた疑問に答えが出ない。
ワッシュ達は待ち続ける。
「じゃあ皆、行って来るよ。」
「ファルスさんレシンさん!いってらっしゃい!!」
「気をつけてねー!!!」
子供達に見送られ、二人は大きな門を開いて先へ進む。
その十分後。
館の中に子供達が入り、誰も居なくなった花園。
大きな門の前に何者かが立ち・・・
右手の先を黒い植物のような何かに変形させ、門の隙間へ入れていく。
「・・・」
門の反対側にびっしりと広がった植物から、植物を出した主がじわりと姿を現した。
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