リッシュモン大元帥のひとりごと(1)勝利王の書斎

(※)シャルル七世と再会、臣従して1年後。新たな感情に目覚めつつあるリッシュモンの話。







 若きフランス王、シャルル七世陛下にお仕えして一年。

 おぼろげながら性格と人となりが見えてきたので私見を述べる。


・怠惰

・威厳がない

・だらしない

・やる気がない

・移り気、飽きっぽい

・エキセントリック(風変わり)

・メランコリック(無気力、物憂げ)

・ミステリアス(謎めいている、神秘的)

・ぼろを着ている、質素で身なりにこだわらない

・意地の悪さ・悪意・恨みなど邪悪なところがない

・臆病かと思えば、心が定まると驚くような勇気を示す——



 先日、臣従を誓ってからわずか一年でフランス王国軍の元帥位に叙任された。

 元帥とは王国軍全軍を指揮する司令官のことだ。

 軍においては、王に次ぐナンバー2の身分である。

 アンジュー公妃ヨランド・ダラゴンの口利きもあったのだろうが、陛下は軍閥貴族たちの馴れ合いに耳を貸さなかった。陛下から賜った贈り物——元帥位を我が生涯の宝とする。


 王国軍すべてを任されるほど信頼を得られたのは僥倖である。

 だが、オルレアンの私生児ことデュノワ伯ジャン、ルネ・ダンジューほどにはまだ愛されていない。

 幼きころに陛下が切望していた父君や兄君のように慕ってほしい。心を開いて頼ってほしい。

 若き陛下は、誰にでも分け隔てなく優しいが、裏を返せば取り巻きに流されやすい。

 王の正義を執行するためには、宮廷の人事を掌握して、無能で不忠義な逆臣たちを排除しなければならない。


 臣従を誓って以来、365日24時間、昼夜を問わず、私はシャルル陛下と王国の将来について考えている。


 誰よりも信頼されたい。

 誰よりも寵愛されたい。

 誰よりもあの方を——シャルルを幸せにしたい。




***




 あとがき代わりに、勝利王の書斎を開放しよう。

 上の話「リッシュモン元帥のひとりごと」は作者のシュミ・性癖が暴走した創作——ではなく、一応は根拠がある。


 リッシュモンの副官ギヨーム・グリュエルは、戦時は盾持ち、平時は書記として仕えていたが、もしかしたらブルゴーニュ公の諜報員だったかもしれない。

 筆まめな性分で、リッシュモンの言動や出来事について事細かに記録している。

 上官に心酔しており、リッシュモンをとにかく褒めちぎる。

 その一方で、私ことシャルル七世は辛口評価が多く、しばしば「王はリッシュモン閣下の功績をもっと評価すべき」と嘆いている。


 グリュエルの手記によると、リッシュモンの忠誠心は「三段階」の変遷を遂げる。




・第一段階「家臣の中で一番信頼されたい、師傅しふと思って欲しい」

(師傅とは、父親代わりに貴人を養育する傅役もりやくのことだ)


・第二段階「一番信頼されている。だが、デュノワやルネ・ダンジューより愛されてない」

(嫉妬だろうか。私に愛されたかったのか?)


・第三段階「シャルルを幸せにする。我が生涯、すべての時間、ずっとそのことばかり考えている」

(これはもう忠誠心を超越して愛ではないだろうか。あの堅物め……)




 なお、第三段階では、私に直接このような(↑)内容の手紙を送ってきた。

 信頼されたい、愛されたい、幸せにしたい——か。

 なんだかこそばゆい気がする。


 こういうとき、どんな顔をすればいいのだろう。

 なお、私のゴーストライターを務める作者は「笑えばいいと思うよ(笑ってごまかそう)」と言いながらにやにやしてこれを書いている。

 少々、腐っているようだ。


 あいにく、本作「7番目のシャルル」は全年齢向けゆえ、BLビーエル(ボーイズラブ)展開はない。

 せいぜい臣従儀礼の「誓いの接吻」どまりだ。


 えっ、抑制的な関係もそそるって?

 うぅむ、こういうときどんな顔をすれば……。


 この物語を読んでいる読者諸氏の時代風にいえば、リッシュモンの「クソデカ感情」をともなう「忠誠心」はどこから来るのだろうな。当時、同性愛はタブーだが、臣従・主従関係はブロマンス的な美学だといえよう。



***



 青年期編に備えて、作者はいくつか新しい資料を入手した。

 その中に、私の前任のベリー公が「同性愛者用の衣装を注文した」という記述があった。「いとも豪華なる時祷書」で有名なあのベリー公である。

 建前上、同性愛はあってはならないが、古代ギリシャ・ローマ時代は男色文化が盛んだったと聞く。禁断の愛は燃え上がるというし、本気であれ遊びであれ、こっそり嗜む者はいたのだろう。

 私は異端審問官ではないから、当人同士が了承しているなら咎めるつもりはない。


 ……で、私とリッシュモンはどうだったかって?

 こういうときどんな顔をすれば(以下略)







(※)異端審問・討伐が苛烈だったのは托鉢修道会のひとつドミニコ会です。「黒衣の修道会」「主の犬」と呼ばれ、畏怖されていたとか。ちなみにシャルル七世は(おそらく)聖アウグスティヌ会推し、マリー・ダンジューはシトー会推しなので穏健派です。

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