「ノック」

低迷アクション

第1話


1人暮らしをしていた“友人”が年末、地元に帰ってきた。LINEの通知によれば、向こうの仕事を辞め、年明けから、こっちで仕事を探すと言う。


緊急事態が終わったとは言え、大っぴらに飲むのは憚れる風潮の昨今、彼の家に何人かが集まった。その席での事…


以下は友人の語りである。



 いや~、久しぶりに帰ってきたけど、あんま、変わってないね?えっ?結構、無人の家とかアパートが増えた?まぁ~っ、人口減だからね。


いい物件紹介する?そっか、お前んとこ、不動産だもんな。ウン!仕事があるのはいいね。


俺も早く見つけねぇと。いや、アパートはいいよ。ここで両親と同居するわ。


とにかく、しばらくは音のある所で生活したい…


向こうで何かあったかって?


ああ、あった。あったよ…まぁ、聞いてくれや。


俺はビルとかの設備関係の仕事やっててさ。住んでるとこは会社の寮だった。都内郊外の

随分、古いトコでな。最初の何年かは、にぎやかだったよ。同期や先輩方と、朝まで飲んだり、男の料理教室なんて、やったりしてね?


でも、皆、結婚とか転職とかでいなくなって、辞める最後の1年には、とうとう、

俺だけが入居してる状態…


いやぁ、寂しかった。仕事から戻ると、寮の中は、俺の生活音しかしないからね。

隣近所もあったけど、住んでる人、おじーちゃん、おばーちゃんばかりで、すっごく静か…


始めはそれもいいかなって思ったけど、駄目だわ。あれだよ、耳が冴えちゃってさ。


寮内が老朽で、きしむ音とか、ガラスの膨張音?それだけでビクってなっちまう。

静寂すぎる空間で時々聞こえる小さな音…かなり神経過敏になってた。


それが関係してたのかもしれないけど…


人って慣れるもんだろ?さっき言った音は、段々と驚かなくなってた。だけどさ。いつの頃からだよ。寮の中で聞こえる音に妙なモノが混ざり始めた。


最初は寮の玄関を開けるような音がした。


次の日からはノックだ。あのドアとかを叩く“コン、コン”って音が聞こえるようになった。時間はバラバラ、とにかく俺が寮にいる時…毎日1回、玄関前の部屋から順番に…

1番奥に住んでる俺は毎日ビビってた。


確認したかって?5回目辺りで見たよ。同僚も一緒でね。だけど何もいなかった。そして最後の日だ。俺は同僚としこたま酒飲んで、酔うと、音を待った。


大声で挑発してな。聞こえたよ。ノック…


今まで聞いた事がないような轟音でな。ドア破れるかと思った。

音の大きさでわかった。俺、見つかった。ハハ、だから、仕事辞めて、地元逃げてきた。


それだけの理由で?マジ?って顔だな?いいよ、誤魔化さなくて…わかってる。可笑しな話だもんな。だけど、あの音のない場所に住んでみないと、この怖さはわからない。


毎日、毎日、静寂の中に1回だけ響く、ノック音…


帰ってこれて、本当に安心した。ここはにぎやかでいい。何とかやっていけそうだよ。

俺の話はこれで終わり…


ところで、お前等、他に誰か呼んだか?さっき部屋のドア叩いたよな?

開けてやれよ。えっ、聞こえない?ああー、そう?


そうか‥‥


やっぱ、駄目か。何処へ逃げても…(終)

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「ノック」 低迷アクション @0516001a

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