湊くんと華奈ちゃんは、くっついたら離れない!番外編にならない番外編!長くね?許す!

上野 からり

第1話


2022年、元日。


俺達はいつもの面子で初詣の為に、お隣の県のお寺に集合していた。

何故わざわざ隣の県なのかと言うと、この近辺では有名な大きなお寺で活気があり、それに、綺麗に整備された寺周辺に立ち並ぶ、古民家を改装した土産物店やカフェの中の一軒が俺達一年B組のクラスメイトの自宅兼カフェだからだ。この後、皆んなでお店にお邪魔する予定だ。


「オイオイ、女子。新年と言えば振袖だろ、何やってんの?ナポといい、ニッカといい気合いが足りなくね?」


遅れて合流した俺と友人の森田瑛士もりたえいじ、それに俺の彼女でA組の香椎華奈かしいかなとそのクラスメイトの奥村琴音おくむらことねさんの姿を見るなり、俺と同じクラスの関佳偉斗せきかいとが不満を口にした。


「佳偉斗、アンタ新年早々他に言うことないの?」

「キモーノなんぞ着てきたら動きづらいし食べられないじゃない。バカなの?」


佳偉斗と一緒に来ていたB組男子の黒田朝陽くろだあさひ五十嵐詩音いがらししおん、女子のナポこと遠山奈帆とおやまなほちゃんと、ニッカこと浅見二香あさみにかちゃん。

普段着姿の女子二人にやり返されている佳偉斗。朝陽と詩音は我関せずとばかりにそっぽを向いていた。


「まあまあ、奈帆ちゃん二香ちゃん。そこが佳偉斗クォリティって事で。それより明けましておめでとう」ニコッ


そして俺、一色湊いっしきみなとは佳偉斗をディスりつつ、新年の挨拶をする。


「おめでとう〜、湊君、華奈ちゃん、琴ちゃん」

「今年も宜しくねん、湊君」

「香椎ちゃん、今日も可愛いね」

「あはは、ありがとう。五十嵐君」

「詩音ちゃん、元旦から俺の前で華奈をナンパとはやってくれるじゃねーか」


華奈が可愛いのは周知の事実。ここに来るまでまあ、見られる見られる。今年も心配だわ〜、本人は全然気付いてないから尚困る。


「褒めただけだろー、この保護者め。あと、ちゃん付けやめろ湊」

「んふふ、B組は相変わらずだね」


A組の小さな大天使こと奥村さんがニッコリ微笑む。さすがA組が誇る小動物級大天使の奥村さん。詩音ちゃんも朝陽も惚けているぜ。


「ねぇ、湊君」

「ん?なんだ、華奈」


隣にいる華奈が、俺のコートの袖口を摘んでちょいちょい引っ張る。華奈ちゃん?そういうの、男子弱いからね?俺以外にやっちゃダメよ?


「森田君いなくなっちゃったよ?」

「瑛士?あーいないな。と、いうことは……」


ぐるっと辺りを見回すが、ヤツはいない。今、俺達がいるのはお寺の入口、境内を囲むお堀に山なりに架かった太鼓橋の前。橋の上では子供達が、お堀で泳ぐ錦鯉にパンクズを投げ与えている。


「皆んな聞いてくれ」

「どした?湊」


皆んなが俺に注目する。


「瑛士が消えた」


その一言で、あ〜、と皆んな察した。


「放っておけばいいんじゃね?」

「まあ、すみの店に行く時に電話してやれば戻ってくるよ。多分」

「正月早々熱心ね〜」


うわぉ、皆んな解ってるぅ〜。口々に放置の方針を希望された瑛士本人はと言うと……


――――――――――――――――――


「助かるよ、友達とはぐれちゃってさ。何がどこにあるのか分からなくて」

「そんな事言っちゃって、お正月に神様の前でナンパしちゃってていいの?」


湊達がごちゃごちゃやっている時に見つけた女子二人組に、俺は道に迷ったイケメンの設定で話し掛けた。


「ケータイでそのお友達と連絡取れないの?」

「うっかりスマホを家に忘れてきちゃってさ。てか、ナンパとか言わないでよ。地元なんだろ?二人」

「そうだよ。アナタは?違うの?」

「〇〇市からだよ。君達に出会う為に」ニコッ

「あっはははっ、完全にナンパじゃんっ」

「わざわざ新年早々、隣の県まで初ナンパしに来たんだ?ウケるー」


若干ギャル風味だけど二人とも可愛い。さてどうすっかな〜、イケメンのさがで思わず声掛けちゃったけど、この後すみちゃんの店行かなきゃだし……


まいっかー。


「ね、ここオシャレっぽいカフェとかあるよね。お参り済んだら行かない?」

「え〜どうする?」

「まあよく見ると割とイケてるよね、キミ」

「うん、よく言われる」

「ぷっ、言うだけあるよ。それで?奢ってくれるの?」

「ほら、そこの屋台のカップ甘酒とかどう?」

「あははははっ、甘酒ダッサ!」

「屋台かよ!はー可笑しい」


「……いっつっまっで……」

「ん?」

「「あ」」


「やってんだ!チャラナンパ野郎がーっ!」

「うごあっ?!」


突然背中に衝撃が走った。その勢いで地元ギャル達の足元に転がされた俺。


「うわっ、大丈夫?キミ」

「痛っつつ……あ」


身を起こして振り向くと、立っていたのは学校では毎日会っている美少女二人、菊池梨々香きくちりりか神寿美礼じんすみれちゃんだった。


「りり、すみちゃん?!」

「ホントよくやるなぁ、森田君」

「瑛士!他県まで来てかえで高の恥を晒すなっ!」


一応、俺達は地元ではそこそこの進学校の一年生だ。


「え、キミ楓高なの?見えなーい」

「思ったより頭良かったんだ、以外〜」


四つん這いの俺を見下ろしながら驚きの声を上げる二人。


「意外性のあるイイ男。それがこの俺、森た」

「やかましい」

「うがっ!」


りりにケツを蹴られた。流石のイケメンも黙っちゃいねーぜ?ガバッと立ち上がってりりに詰め寄る。


「オイコラりりっ!ボコボコ蹴りやがって!もう少し優しくヤキモチは妬け!」

「誰がヤキモチだっ!アタシには湊がいるんだよっ!」

「それ、華奈ちゃんの前で言うなよ?自分が傷つくぞ?」

「ほら二人共、湊君達に合流するよ」


睨み合う俺とりりの間にすみちゃんが割って入る。そしてギャル風味の二人に、


「ごめんねぇ、この人連れて行くね?私達の連れなの」

「残念、じゃあね〜イケメン君」

「バイバイ」


特に残念そうでもない二人は境内の人混みに消えた。


「お、すみちゃん。お店の制服だね、可愛いよ」

「うん、りりちゃんが迎えに来てくれたからちょっと抜けてきたの。皆んなとお参りしたらお店行きましょう?」

「まったく、アンタのナンパ癖はどこでも発動するんだな。正月くらい我慢できないの?」

「可愛い女の子がいたら声を掛けるのが礼儀だって教わらなかったのか?りり」

「堀に突き落とすぞ?鯉と暮らすか?」

「鯉に恋されるイイ男……」

「一ミリも笑えないから!」

「ほーらー森田君、りりちゃん、行くよっ」


――――――――――――――――――――――


「りりから連絡があった。すみちゃんと瑛士連れてくるってさ」


スマホをポケットに仕舞いながら皆んなに報告する俺。


「森田君見つかったんだ、良かったね」

「ナンパの最中を押さえたらしい」

「またアイツは……」

「森田君もそれがなければ普通にイイ男なのにねぇ」

「まったくそれね」


安否を気遣ってくれるのは華奈だけだな。他の面子はみーんな呆れてるぞ?瑛士。まあ、今に始まった事じゃないけどね。


「湊ーっ、あけおめっ!」

「おふっ?!」


背中に何かが張り付いた。いや、何が張り付いたのかわかってるけどね。だけどねっ?


「コラりりっ、華奈の前で密着すんな!」

「ほほう?かなぴがいなかったらいいんだな?」


ぬうっ!揚げ足取りやがって。スゲー当たってるんだよっ、背中にっ!アレがっ!


「りりちゃん!湊君から離れてっ!」


普段はおっとり美少女の華奈は、りりがこういう暴挙に出ると豹変する。俺とりりの間に入って、ぐいぐいりりをひきはがそうともがく。


「もうっ!隙あらば湊君に抱きつくのやめて!」


なんとかりりを引き剥がしたが、今度は華奈が俺にしがみついた。うん、毎度の事だけど華奈ちゃん?りりより当たってるよ?多分俺、サイズ言い当てられるよ?


「ちっ、かなぴ。なかなかやるようになったじゃないか。流石の正室とでも言っておこうか。だがそのポジション、今年こそアタシが貰うよっ。明けましておめでとう!」

「正室も側室も無いからっ!あげないからっ!今年もよろしくねっ!」


「新年の挨拶って戦いだったのね……」


華奈とりりがおかしな挨拶を交わす。皆んな戦慄してるぞ?


「湊君っ、明けましておめでとう」

「おーすみちゃん、おめでとう。って、」

「おおっ?!すみ!その格好は!」


朝陽がすみちゃんの服装に食らいついた。そう、これは彼女の実家のお店の制服。女子限定の矢絣柄やがすりがらの袴スタイル。その上にコートを羽織っていた。


「お店を抜けて来たの。この後来て来れるんでしょ?皆んな」

「勿論行くぜっ、すみ!」


良い笑顔で応える朝陽。


「湊君も来るよね?」

「勿論、マスター夫妻にも久しぶりに会いたいしね」


すみちゃんとは同じクラスで委員長と副委員長の仲だ。五月に学校のイベントの打ち上げで一度皆んなすみちゃんのお店にはお世話になっていた。諸々のトラブルの後に。


「ふふ、お母さんそわそわして待ってるよ?」

「Oh……」


あるトラブルを俺が解決した事が原因なのか知らんけど、すみちゃんのお母さんにやたら気に入られていた。また華奈の前で抱きつかれるのは困る。マジで。


「さてさてー、皆んな揃った事だしお参りしよっ!」


りりが声を上げる。皆んなで本堂の前の行列に並んだ。両脇には正月ならではの屋台が立ち並び、良い匂いを漂わせていて食欲をそそる。


「あ」

「ん?華奈?」

「エヘヘ、お腹鳴っちゃった」


お腹を押さえてはにかむ華奈。あーかわいい!


「皆んな朝食べてきた?」

「抜いてきた。すみん家で食べるもーん」

「それね。とはいうものの……」


すみちゃんの店は既に予約済みで、予算も伝えてある。店に着いてすぐに沢山の料理が出てくる筈だ。腹ペコ高校生を満足させるラインナップなのは前回の打ち上げで分かっていた。


「お腹すいたぁ……寒いし」

「ひもじぃよ〜」


仁香ちゃんと奈帆ちゃんがボヤき始めた。


「ホラ、オレが温めてあげるよ、二人共」

「そういうのいいから。佳偉斗」

「あ、はい」

「ぷっ、おバカさん。シッポ君」

「うるせー、詩音ちゃん。シッポ言うな」

「お前こそちゃん付けすんな」


佳偉斗は長い髪を後ろで縛ったポニテ野郎だ。しかも拘りがあるらしく切ろうとしない。これでサッカー部なんだから笑える。あ、サッカー部ならオッケーか?兎に角、ウチの学校、校則緩いんだよ。だがそれがいい。


「よっし野郎共、壁作るぞ」

「この風に真っ向から立ち向かう気か、湊」

「マジか。寒さに弱いんだよな〜俺」

「何ヌルい事言ってんだ朝陽。お前が一番デカいんだから文句言うな、野球部のくせに」

「野球部関係ある?!」

「すみちゃん、寒くない?」


と、すみちゃんに尋ねると彼女は両手で体を抱くようにして、


「寒いよ〜」

「おらぁ!野郎共!グズグズすんな!女子を守れ!」


朝陽が雄叫びをあげた。男子全員で壁を作って女子を風から守る。簡単なヤツで良かった。これで野球部の期待の右腕なんだそうだ。キャッチャーの言うことはよく聞きそうだな。プププ


そろそろ本堂が近付いてきた。建物付近には色々と遮蔽物があるのでいくらか寒さがやわらぐ。


「男子ありがとね。風が当たらないと案外暖かいね」

「うん、そうだねー」


奈帆ちゃんと奥村さんに感謝されたけど、山から吹き下ろす寒風に晒されていた男子の面々はガタガタ震えていた。


「それは……良かったっ、デス」

「朝陽、歯が噛み合ってないよ。あと瑛士はへーきそうだな?」

「ん?あの娘可愛いよな」

「視界に女の子が入るだけで暖が取れるとは器用なヤツ」

「だーっ、ざっぶいっ」


詩音ちゃんが限界に近いようだ。そして俺は、


「湊、俺達に何か恨みでもあるのか?」

「うん?どうした?」


右に華奈、左にりりが張り付いている俺はぜーんぜん寒くないよ?


「うりゃっ」

「んなっ?!」


俺の背後を取った佳偉斗がコートを肩からずり下ろした。とたんに寒風が入り込んでくる!

そして更に、


「はーいこのクソイケメン触り放題だよ〜、特に首とかおススメだよ〜」

「ちょ、待て待てっ……うひゃあっ!」


仁香ちゃんと奈帆ちゃんが冷え切った手でマフラーの中の首に触る触る。


「つめたーーーっ!や、やめっ」

「あーあったかーい」

「コラりりっ!お前まで何やってっ、うわひゃあ!」


コートを肘まで下ろされて、後ろで佳偉斗が掴んでいる為に抵抗出来ない俺の前でスマホを構えるヤツが。


「いいよ〜湊、もっとせくしぃな顔が欲しいかな〜、女子の皆んな頑張ってね〜、あ、琴音ちゃんは届かなかったらシャツめくってもいいからね〜」

「瑛士てめー、何撮ってんだ!うひゃっ、ちょ、奥村さん!こいつの言う事聞かなくてもいいからっ!脇腹弱いからっ!」

「皆んなやめてあげてぇ!」


華奈の悲痛な叫びも虚しく、順番が回ってくる直前までこの悪ノリは続いた。


「湊君大丈夫?」


心配そうに背中をさすってくれる華奈。


「グスッ、もうお嫁に行けない……」

「大丈夫!アタシが貰ってあげるからねっ、湊!」

「だからあげないからっ!」

「あ〜堪能したわ」

「ごはん三杯いけるね」

「エヘヘ〜、調子に乗っちゃった。ごめんね?一色君」


そんなこんなで本堂に上がってきた。このお寺の本堂には階段に架けられたスロープを登って行く。結構な高さがあるからだろう。スロープの途中の頭上にはなかなか大きな鐘があり、皆んなその鐘を鳴らしてから賽銭箱へ向かうのだ。

鐘の前まで来て、鐘から吊るされた太く編まれた縄を掴んで上手いことしならせてその縄で鐘を鳴らすのだけど、これがなかなか難しい。小さな子供とかお年寄りには厳しそうだ。あと、隣にいる華奈とか。


「湊君、これ重いよ〜」

「よしまかせて」


華奈の手ごと縄を掴んで勢いよく後ろに引き、そして縄を波打たせるように鐘に叩きつけると、ごわんっ、と、大きな音が鳴った。


「っし、こんなもんだな」

「二人の共同作業。エヘヘ」

「だな」


そう言って髪を撫でてやると、目を細める華奈。


「ほらーそこのカップル、イチャイチャしない!後がつかえてるよー」

「おう、わりぃ」

「ごめんね〜」


奈帆ちゃんに怒られた。相変わらずキビシイね、キミは。


ようやくデカい賽銭箱の前まで来た。華奈と二人、お金を投げ入れて手を合わせる。

お願い事は決まってる。このまま何事もなく華奈と……


「う〜ん、そろそろ湊くぅんにも飽きてきたしぃ、森田君あたりに乗り換えちゃおっかなっ、エヘヘ〜」

「あー、つっても俺イケメンだし?女子選り取り見取りだし?手っ取り早くりりあたり手ぇつけちゃおっかなっ?」


「「コラーー!」」


「あっははははーっ、湊!アタシで手ぇ打っとけー!」

「そうか、華奈ちゃん。俺ならいつでもオッケーだぜ?」

「やかましい!瑛士!りり!何勝手に声当ててんだよ?!オイ後ろ!笑ってんじゃねー!」

「ホントに……もうっ」


初詣の一番大事な所でも容赦なく弄ってくる、ヤツらの所業にガックリと肩を落とす華奈。


それから心の声アテレコ遊びがエスカレートして、お寺の人に怒られた。当たり前だろ……


その後は皆んなですみちゃんの店へ。お寺の周りの石畳が敷き詰められた通りをワイワイと歩くと、すぐにそのお店はある。昔からある古民家の一部をカフェとして改装したお洒落なお店だ。お洒落だが、料理はボリューミー且つ美味い。女子ウケするスィーツも充実していて、前回、華奈もここのパフェをむさぼっていた。


「「「こんにちはー!」」」


ゾロゾロと店内へ。そこへ予想通り、


「いらっしゃい!!湊くーん!」がばっ!

「おっ、お久しぶりです……」

「あ〜、湊君のにほひ……」ぐりぐり

「ちょっと!お母さん!恥ずかしいからやめてっ!」


流石にすみちゃんが止めに入るが、


「華奈ちゃーん!いらっしゃー……」

「ストーップ!お父さん!それ犯罪だから!」


華奈にも魔の手が迫っていた。すみちゃん、グッジョブ!


既に何品もの料理やら飲み物が並べられたテーブルに着いた。


「うーまそーっ!」

「もうお腹ペコペコだよ〜」


佳偉斗と仁香ちゃんは我慢の限界らしい。


「はいはいその前に!パパ、キャメラスタンバイ!」

「あいよー!」


前回もそうだったが、すみちゃんのご両親の趣味はカメラだ。今回も記念撮影だろう。


「さあ皆んな!撮るよー!」

「「「イェーイ!!」」」

「せーーのっ!明けましてっ!!」


「「「おめでとーーーっ!!」」」

パシャッ


今年からよろしくね!多分ねっ!


























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