第3話 多様性

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 ━━今回の魔人は弱かったな。

 俺は、暗い夜道を歩きながら、今日戦った魔人について考えていた。思えば、今回は少し。パトロール前もパトロール中も


「──何故だ?」

「……?先輩どうかしましたか?今日の魔人に何か思うところでも?」


 どうやら口に出してしまっていたようだ。しかし、1人で考えていたって仕方が無い。


「いや、魔人の情報が極端に少なすぎると思ってな」

「どういう意味です?」

「現場に着いた時にも感じた違和感なんだが……」

「違和感ですか?魔人が暴れていて、負傷者がいた……あ!」


 どうやらこいつも気づいたようだ。


「あれだけ被害が出てるのに無線が入るまでの間、特に情報が無かったよな?」

「確かに!スマホを弄ってた時もそんな情報見ませんでした!」

「ん?それはおかしくないか?」

「何がですか?」

「確かお前、『SNSでも話題になってます』って言ってたよな?」

「はい」


 ━━気の抜けるやつだな……


「話題になってたなら、なんですぐに気づけなかった?」

「あ、言い方が悪かったですね。からバズ……話題になり始めてました。」

「それ以外の情報は無かったのか?」

「はい、魔人が暴れてる動画、その1つしかありませんでした」


 1つだけ……か、暴れてる最中の動画なんてよく撮れたな。


「今はどうなんだ?」

「ちょっと調べてみますね」


 俺がそう聞くと、鉄男てつおを弄り出す。少しの間を置いて、鉄男が答える。


「あー、今は先輩の話題で持ち切りですね」

「俺の?」

「はい。と言っても『パトカイザー』の話題ですけどね」


 ━━気になるな。

 

「どんな感じに書かれてるんだ?」

「主に、『かっこいい』、『正体は誰?』、『警察も凄いな〜』etc. etc. etc.……ってところですかね」

「なんか、むず痒いな」


 俺自身が褒められてる訳じゃ無いんだが……それでも嬉しいものだな。そんなことを考えていると突然、鉄男が大きな声を出した。


「あ、面白いの見つけましたよ!」

「おい、夜中なんだからもう少し静かにしろ」

「すいません……」

「で?何を見つけたんだ?」

「先輩の正体、中の人について議論してますね」

「……?それの何が面白いんだ?」

「はい、正体はなのか、なのか、なのか、要するにどんな種族なのかについて議論してますね」


 ━━何が面白いんだ?


「なんでそれが面白いんだ?」

「だって、先輩はなんですもん。正体を知ってる身としては面白いですね〜」

「ただの人間……ねえ」


 そう、俺はただの人間だ。甘いものがもの凄く好きなこと以外は普通の人間だ。しかし、もし俺が人間じゃ無かったら、一体どんなを持ってたんだろうな?


「一体、超人と魔人って何なんですかね?」

「さあな、分かってるのは元人間か化け物、そのぐらいだからな」

「ほんと何なんですかね〜」


 この世界には、人間以外に2つの知的生命体が存在する。だ。


 超人とは、姿は人間と似ているが身体能力は、成人男性の2〜3倍程度は当たり前にある存在だ。

 対して魔人とは、今日戦ったのように人間とは別の見た目、身体能力を持っている存在だ。

 前者は、後者はただのだ。


 どちらにも共通して言えることは特別なを保有しているという事だろう。今日戦ったみたいに外部に作用する能力もあれば、自分の体のみに作用する能力もある。


「そういや最近、に関しての話題を聞かないな」

「あ~、なんか凄く強い魔人が出たとかでそっち追っかけてるらしいですよ」

「強い魔人か、興味あるな」


 ━━強い魔人……、現れたらこの俺が……


「あ、じゃあ僕こっちなんで!」

「……あ、ああ。それじゃあ気を付けて帰れよ」

「はい!先輩もお気をつけて!」


 鉄男はそう言うと、走り去って行く。


 ━━気を付けて帰れって言ったばかりなんだがな……

 よっぽど見たいテレビ番組とやらがあるんだろうな。何を見たのか明日聞いてみるか?


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 鉄男と分かれてしばらくすると、橋に差し掛かる。なんでも「月見橋つきみのはし」という名前らしい。俺はいつも通り過ぎるだけなんだが、なんでも月が綺麗に見えるスポットとして有名らしい。


「………?」


 ━━おかしいな?いつもはカップルがいる時間だというのに。

 いつもはカップルが月を眺めながらイチャイチャしてるはずの場所。しかし、今日は違った。。俺は当たりを見回す。すると──


「おや?あなたも月を見に来たんですか?」


 ──いた。さっきまで人の気配は無かったんだがな。ただの見落としか?


「いえ、自宅がこの先にありまして。あなたこそ、1人で何をしてるんです?」

わたくしですか?わたくしならここで写真を撮っていました」

「写真……ですか?」

「そう、写真です。それも月の写真を、上を見てください」


 そう言われ、上を見上げる。


「これは凄い、見事な満月ですね」


 ━━綺麗だ。

 見上げた先には、満月が浮かんでいた。雲の無い空に浮かんでいる月は、ありのままの姿を見せている。


「ですよね~、こんなに見事な月を見るのは久しぶりですよ」

「これほどの満月なら、写真を撮りたくなる気持ちも分かる気がします」

「お~、理解してくれますか。嬉しいです。では──」


 写真家は上機嫌で何かを取り出す。あれは、か?


わたくしも見ていって下さい」

「アルバム……、ですよね?なにを入れてるんですか?」

「月です」

「なるほど」


 どうやら、この人は月の写真のみをアルバムにしているらしい。せっかくなので、中身を見てみることにする。


「見事なまでに月ばかりですね」

「ですです。でも、1つとして同じ月はありませんよ」

「え?どれも同じな気が──」


 ━━……なるほど、確かに

 アルバムをめくっていくと、1枚1枚、月の形が違うことに気づいた。


「──もしかして、毎日撮っているんですか?」

「その通り。月は毎日、毎日、違う姿をわたくしに見せてくれます」


 写真家は、とてもした様子で言葉を続ける。


と同じですよ」

「あなたたちと……同じ?どういう意味ですか?」


 質問に対して、写真家は答える。


も1人1人違う容姿をしていますよね?それは血のつながった家族と言えど例外ではありません」

「確かに……、良く似ていると言ってもですもんね」

「そうですそうです」


 なるほど、と感心していると更に写真家は言葉を紡ぐ。


「月には、三日月や満月、半月に至っては上弦に下弦、と単純に月と言っても多様性は様々です。多様性という点で見れば、あなたたちも多様性の塊ですよ」

「超人と魔人がだって言いたいんですか?ありえませんね」

「ありえない?それは何故ですか?」

「だってそうでしょ!超人は元人間だから分かりますが、魔人は違う!じゃないですか!」


 そう、それだけはにありえない。第一、魔人は人間とは


「化け物……、ですか。なら魔人と同じくを持った超人もまた、化け物なのでは無いでしょうか?」

「……!」


 確かにそうだ。俺は何を勘違いしていた?超人も魔人も人間には持ちえない力を持っているじゃないか!待てよ、なら


「そう、魔人を化け物とするなら、を持つ超人もまた……、化け物なんですよ。そして、考えて見て下さい。超人がだとするならば……」

「人間も…………」


 なんということだ……!何も違わない。人間も!魔人と同じ化け物だ!


「ふふふ……、そう悩むことはありませんよ。それこそ月と同じですよ」

「多様性……」


 多様性、月と同じ多様性。駄目だ……考えれば考えるほどに分からなくなっていく。答えの無い底なし沼だ。


「疑問が生まれたならば、1度考えてみるとよろしいでしょう」

「…………分かりました。自分なりの答えを探してみるとします……」

「それでは、えっと……」


 写真家は急に言葉を詰まらせた。そういえば自己紹介もしていなかったな。


先内まずうち……、【先内まずうち まもる】です」

「マズウチ マモル、良い名前ですね。わたくしは【月乃つきの】と申します。月にすなわちと書いて月乃です」

「月乃さんですか。ですね」

「ふふふ……、それではマズウチさん。またいつか機会があれば」

「はい、こちらこそ。次に会う時は答えが出てると良いんですが……」

「急ぐことはありませんよ、では」


 月乃さんはかばんに荷物を詰め込むと、そのまま帰って行った。


 ━━多様性……か。

 その答えは、まだ出そうに無い。だが、この疑問の答えが出る時はそう遠くない……、そんな気がしている。

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