第2話 最善の選択
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『最善の選択センター』
僕はここで館長の助手をしている。三途の川を通り過ぎて少し右に行けば僕の職場に辿り着く。
映画館のようなこの場所では故人一人一人に対して『もしあの時このような選択をしていればあなたの人生はこうだったんだよ』を映像を通して教えてあげる。
そして見終わったら『次の世ではさらに良い選択をしてください』と伝えられ、輪廻転生だっけ?それに基づいて次の世に送られる。
でもこの場所は故人が絶対に通るべき場所ではなくて自分はどんな選びをすれば良かったのだろうと気になる人が自分の意思でここに来る。いわば人生の答え合わせをしたい人がやってくる場所。
今日も1人この場所にやってきた若い故人がいた。"伊達 洸太"という男。
センターに送られてきた資料によると、死因は交通事故による脳挫傷。生前、彼は劣等感の塊で1人で過ごすことが多かった。彼女もろくにいたことがない。唯一高校時代に女性にアタックしたことがあるらしいが敢えなく玉砕。仕事では上司や取引先からの罵声や説教に耐えられず入社半年で退職。その後は職を転々とすることに。いろんなことが積み重なって次第に自分の殻に閉じこもるようになった。
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「これはあなたが最善の選択をした場合の人生です。」
本編が終わり、館長がそう言うと彼の目には水のようなものが溢れていた。現世ではこれを涙というらしい。
「あの時にああいう選びをすればこうはならなかったのに、、、。」
センターに来た故人が映像を見終わった後大体同じようなことを言う。
「一つの大きな選択ではなく、今までの小さな選択の積み重ねがあなたの人生を築いたのです。次の世ではどうぞ、ひとつひとつの選びを大事にしていってくださいね。」
館長がそう伝えると伊達さんは『ありがとうございました』と声を震わせながら言って次の世に行く準備をしに行った。
♢
「館長!お疲れ様です!飲み物淹れたのでどうぞ!」
「あぁ、ありがとう。今日はこの後もたくさん来る予定だからね。もう一踏ん張りだね。」
「あの、館長」
「なんだい?」
前々から気になっていたことを聞いてみることにした。
「なぜ故人はここに立ち寄るのでしょうか。もう前の世の戻ることはないのに。」
ずっと気になっていた。前の世に戻らないのになぜ彼らはここで答え合わせをするのか。
しばらく沈黙が場を支配していた。
「後悔、、、かな。」
館長が口を開いた。
「後悔??」
「ここに来る人たちは決して順風満帆の人生だったわけではない。きっと後悔ばかりがあるのだろう。あの時こうすれば、ああすればって。だから次の世では同じ失敗をしたくない。次の世では前よりいい人生をと思うから来るんじゃないのかな。」
館長は続けて言う。
「人生は選択の連続。どちらかが正解でどちらかが不正解なんてことはない。ただ今の自分にとってどれが最善かを見極める必要があるんだ。その見極める力をつけたいという思いもあるのかもね。だって誰もが最善の人生を過ごしたいと願っているから。」
話していたら次の故人がやってきた。館長は椅子から立ち上がりやってきた故人に対していつものセリフを言う。
「ようこそ。最善の選択センターへ。あなたは前の世でどのような選択をされましたか?」
最善の選択 ヤマモトダイチ @yama_0515
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