第84回 ミーツ・ザ・ワールド その1
「ミーツ・ザ・ワールド」は金原ひとみの小説です。今年の1月に発売され、今のところ映像化はされていません。ぜひして欲しい。
金原ひとみについてはこちらをご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927859435052021
途中までは正直いってつまらなかったです。WEB小説なら読むのをやめていたかもしれません。途中からがぜん面白くなって、どんどん引きこまれてしまいました。やっぱりこの人は天才です。デビュー時と比べてどんどん進化しているのではないでしょうか。
恋愛未経験の腐女子である主人公、三ッ橋由嘉里と、死にたがりの美しいキャバ嬢の鹿野ライという、本来ならば出会うはずのない二人が出会い、一緒に暮らす事で人生が交わって新たな扉が開くというストーリー。
インタビューによれば、彼女は腐女子ではないですし、こじらせ女子でもない。にもかかわらず、そのような女性の心理をここまでリアルに描けるとは驚きですね。
――「駄目だよこれは駄目。本当にこんな生活してたらあなた死んじゃうよ」
「だから私死ぬんだって」
「え、あなたもしかして何か病気なんですか? 余命宣告されてるとか?」
「病気じゃないよ。これはギフト。私はギフテッドなの」
「それって、なんか特殊能力的なあれですか? ギフテッドって天才児のこととかいうんですよね?」
「私にはこの世から消えるための高度な才能が与えられてる」――(ミーツ・ザ・ワールド P.7)
由嘉里とライは、出会ってすぐに同居する事になります。ライが死にたがっている事もすぐに明らかになります。
――「ああ、そういうやつね。キャバにも結構腐女子いるよ。イケメンの出てくるアプリにハマってる子とか意外と多くて」
――(ミーツ・ザ・ワールド P.13)
由嘉里が腐女子である事もすぐにカミングアウト。
――アサヒはライの店のすぐ近くのホストクラブで働くホストで、俺ナンバーワンなんだ! とナチュラルに自慢する。ライは何でこんな虚飾にまみれた感じのホストと仲良くしているのだろうと不審に思う。何事にも執着がないライに、アサヒは何かしらずる賢く取り入ろうとしているのではないかと勘ぐってしまう。ていうか、この二人は一体どんな関係なんだろう。セフレとかそういう関係だった場合、軽くキャパオーバーしてしまうため同席は不可能かもしれない。――(ミーツ・ザ・ワールド P.53)
なにげに重要人物であるアサヒとの出会い。かなり怪しそうです。
――「何で私と御苑に来ようと思ったんですか?」
「気持ちいい天気だったからさ。それにまあ、そこにゆかりんがいたから?」
「陽の光を浴びながら一緒に迎え酒を飲んだ仲として言うんですけど、私と二人で、プロジェクトを発足しませんか?」
「プロジェクト? かっこいいな。なにプロジェクト?」
「ライさんが昔すごく好きだった人がいたの、知ってます?」
「ああなんか、
「私はその人がキモなんじゃないかと思ってるんです。その人と関係をこじらせたせいで、ライさんの死にたみが増大したんじゃないかなって。私が提案するのは、その人との確執を解消してライさんの死にたみ半減プロジェクトです」
「えっダサくね?」――(ミーツ・ザ・ワールド P.68、P.69)
アサヒは知り合ってすぐに由嘉里の事を「ゆかりん」呼びをするというなれなれしさ。天性のホスト気質のようです。由嘉里は何とかしてライを助けようと四苦八苦します。新宿御苑でアサヒに相談するのですが、相談相手が悪かった(?)ようで、「ダサい」と一蹴されます。
――「私は、ライさんに死んでほしくないんです。普通にゆるっと、このまま仲良くしていたいんです。この世界がライさんのいない世界になってしまうのが怖いんです」
「なんかあんたライに恋してるみたいね」――(ミーツ・ザ・ワールド P.82)
アサヒだけでなく、他のライの友達であるオシンも由嘉里の対応には懐疑的です。
――「あんた、一回ユキに会っておいで」
え? 顔を上げるとオシンが優しげな顔で私を見つめている。
「ユキって、アサヒさんの彼女の?」
「あの子小説家なんだけど、何かと人が死ぬ小説ばっかり書いてるのよ。それにあの子はこの世の全ての不幸を体現したような女だから。ライのことを知る手がかりになると思う」
「えっ小説家なんですか? いやでも会っておいでって言われても……」――(ミーツ・ザ・ワールド P.85)
オシンもライの友人です。ユキはアサヒの彼女で小説家。
――何を言っても無駄だ。彼女にはどんな言葉も届かない。
「例えば、ユキさんが生きてて良かったと思う瞬間ってありませんか? 死が頭から離れている瞬間です」
「おいしいお酒を飲んでる時、質のいいドラッグをやってる時、いいセックスをしてる時、いい小説が書き上がった時かな。でも全部その瞬間だけで、効用が切れた瞬間死にたくなる。酒とドラッグとセックスと小説がなければとっくに死んでた。でも私の絶望はその四つのせいでもある。絶望を絶望で
邪悪だ。そう思う。そして次の瞬間悲しくなる。
「私が生きていて良かったと思う瞬間は、焼肉擬人化マンガ、ミート・イズ・マイン、略してМ・I・Мの漫画本やアニメを見ている時、グッズを買う時、イベントに参加している時です。何だそれって思ってるでしょうけど、ユキさんにとって、いつか何かの救いになるかもしれないと思うので薦めておきます。私がユキさんに対してできることはこれくらいしかありません」
「フィクションは何でものみ込めるから好きだよ」――(ミーツ・ザ・ワールド P.102、P.103)
小説家のユキに会いますが、これまた思惑通りにいかず。
――恋愛経験が乏しいと奥山譲は言ったけれど、彼はむしろ恋愛のエキスパートではないだろうか。例えばアサヒのようにたくさんの女性との恋愛を経験している人よりも、もう自分に振り向いてくれることはないと知りながらそれでも愛し続ける、愛し続けてしまう人の方が、ずっと恋愛のエキスパートなのではないだろうか。私たちは似て非なるものだ。奇妙な敗北感がじわじわと体内に広がっていくのを感じながらぼんやりライとアサヒの方を見つめていると、私の視線に気づいたアサヒが「ィヤッ」と声を上げ親指と人差し指でL字を作りドヤ顔でウインクをして見せた。美味しそうなものを口に運び続ける人々をぼんやりと見つめながら、身も心も根こそぎ奪われるような恋愛してみてえな、という卑しい欲望が湧き上がって、そんな欲望の湧き上がる自分に少し引いた。――(ミーツ・ザ・ワールド P.126、P.127)
普通の恋愛をしようとして奥山譲と何度か会いますが、やはり自分には合わない世界を持つ人だと再確認する事になります。逆に最初怪しいと警戒していたアサヒとは会うたびごとにどんどん距離が縮まっていきます。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第85回も引き続き「ミーツ・ザ・ワールド」です。お楽しみに。
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