第79回 ドクター・ホワイト その1
「ドクター・ホワイト」は、樹林伸の小説です。安東鵙著でコミカライズ、女優の浜辺美波主演でテレビドラマ化されました。
浜辺美波についてはこちらをご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927859673102945
この小説はのちに「ドクター・ホワイト 千里眼のカルテ」と改題・文庫化されました。さらに続編「ドクター・ホワイト 神の診断」及び「ドクター・ホワイト 心の臨床」とシリーズ化されています。まだ未完のため、ドラマではオリジナルストーリーで最終回を迎えました。続編が期待出来そうです。
まずは第一章。章題は「カスパー・ハウザー」です。
カスパー・ハウザーとは、身元不明のまま16歳くらいで保護された少年です。当時ほとんど話も出来ず、極めて低い知能しかありませんでした。長期間地下に閉じ込められて育ちました。何者かに襲われて命を落としています。
いくつかの点で白夜に似ている事から、この章題となっています。
――ウエディングドレス?
いや、白衣だ。
現実だと納得するまでに、何度も頭を振って抜けきらない酒気を払った。それほどまでに、彼女の風体は“ファンタジー”だった。
ふと彼女が
ふらふらと歩くたびに打ち合わせから見え隠れする足も、素肌が
レイプされたのか。
直観的に思った。
人けのない早朝6時過ぎの公園を、裸に白衣ひとつ
白夜と将貴の出会いのシーンです。原作では将貴が主人公です。ドラマ版では俳優の柄本
柄本佑についてはこちらをご覧下さい。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927860847299021
――「あの子、暴行は受けてないわよ」
「えっ?」
「意識が戻る前にいろいろ診察してみたけど、残留物も含めてそんな所見はまったくなかったもの」
「残留物って……」
加害者の体液などのことを言っているのだろう。想像すると軽い吐き気を催す。
「避妊具を使ったとか」
「そんな行儀のいいレイプ犯なんて、いると思う?」
もっともだ。
「そもそも、彼女はまだ性行為の経験がないのよ」
「処女ってことか」
「まあ、そういうことね。それに、体のどこにも傷がない。暴行を受ければ抵抗して、どこかに傷を追ったり、
将貴と麻里亜の会話です。麻里亜は高森総合病院の医師です。ドラマ版では女優の滝本美織が演じました。とても真面目な会話なのに笑いそうになります。たしかに避妊具を使うくらい配慮の出来る人がレイプなんてしないですよね。
――「ヘリコバクター・ピロリ」
ふいに少女が口を開いた。
面食らって、麻里亜と顔を合わせる。少女はさらに続けた。
「あなたの慢性胃炎は、ヘリコバクター・ピロリの胃粘膜感染によるものです。放置すればまもなく
(中略)
「その人の口から、ピロリ菌保菌者に独特の臭いがしました」――(ドクター・ホワイト P.17、P.18)
白夜の驚異的な医学知識と、並外れた嗅覚が明らかになる重要なシーンです。
なお、私は二十歳代の頃に胃潰瘍を患った事があります。その原因がピロリ菌でした。当時はまだピロリ菌が原因とは判明しておらず、ストレス等が原因と言われていました。その後何度か再発しましたが、ピロリ菌が原因と判明してから除菌したら嘘のように完治しました。以後一度も再発せず今に至ります。
――カスパー・ハウザーのことは、学生時代に興味をもって関係書物を調べた覚えがあった。19世紀最大のミステリーと言われる人物で、今でもその謎は解明されていない。
(中略)
「何者だったかは今もわかってない。ただ、彼は窓もない狭い
「どうかしらね。そんな育ち方をすれば普通はビタミンD不足で
(中略)
「カスパー・ハウザーは、真っ暗闇でも字が読めて色も識別できたそうだ。それに
(中略)
「あの子は、現代のカスパー・ハウザーかもしれないぜ」――(ドクター・ホワイト P.26~P.28)
白夜の驚異的な医学知識と超人的な嗅覚、不自然なくらいの社会性のなさから、将貴はカスパー・ハウザーを思い出したのでした。
――「白夜くんと言ったね」
「はい」
「もしよかったら、君もチームに加わってもらえないだろうか」
(中略)
「やらせてください」
(中略)
「麻里亜。俺は妹を白夜に救われたんだ。気づかずにビタミンB12欠乏症が長引いたら、元に戻らなかったかもしれないんだから」――(ドクター・ホワイト P.60~P.62)
白夜は、驚異的な医学知識でベテラン医師でも分からなかった将貴の妹の疾患を突き止めました。また、高森総合病院の院長が、末期のスキルス胃癌である事を一目で見抜きます。
そこで、院長から第二章の章題になっている総合協議診断チーム「DCT」(ドラマ版ではCDT)への加入を打診され、承諾します。
――「お前に頼まれた通り、もらった写真を使って、10代後半から20代前半の
将貴は、その人脈を駆使して白夜の素性を確かめようとしますが、不明なままでした。
ここから第二章に入ります。章題は「DCT」です。
DCTは高森総合病院の総合協議診断チーム。白夜もこのチームに入りました。
――「それにしても、どうして気づいたの、白夜さん。蜂窩織炎と深部静脈血栓からくる皮膚炎は、見た目はよく似ていて区別がつきにくい。なのにあなたは、すぐに患者が海外旅行をしたんじゃないかって言い出した。あれはいったい……」
「細菌性の炎症にしては、患部が熱をもっていなかったんです」
そう言われて思い出す。たしかに彼女は、夏樹をいなして、患者の腫れ上がった足に手を触れていた。
「蜂窩織炎などの細菌感染症なら患部が炎症を起こし、腫れるだけでなくひどく熱を持つはずです。それに対して深部静脈血栓症は、血管が詰まり血行不良を起こすので逆に冷たくなります。この違いで、触診をすればすぐに不自然だと気づいたんじゃないでしょうか」――(ドクター・ホワイト P.112)
白夜は、またもや驚異的な医学知識で診断の難しい疾患を見抜きます。将貴の妹を救ったのはまぐれではなかったのです。
――夫婦の『意味』がわからないからこそ、単純に症状だけを診て、患者が長期旅行に出掛けた可能性を指摘できた。妊娠して入院している妻がいるというのに、その妻に内緒で誰かと旅行に出掛けるというのは、何を意味するのか。おそらく白夜は、綾花が泣きながら口にした『浮気』という言葉すら知らなかったはずだ。なぜ泣いているのか、その理由も当然理解できなかっただろう。
逆にそれらを白夜が理解できていたら、果たして彼女はこんなにも簡単に結論に到達することができただろうか。――(ドクター・ホワイト P.120、P.121)
カスパー・ハウザーのもう一つの特徴であり白夜との共通点、社会性のなさが良く表れているエピソードですね。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
次の第80回も引き続き「ドクター・ホワイト」の秘密に迫ります。お楽しみに。
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