第80回 ドクター・ホワイト その2

 続きです。


 ここから第三章。章題は「可愛い悪魔」です。


――「話してくれないか、白夜。君は誰に、なぜその真っ白い窓のないところから、連れ出されたんだ」

 白夜は迷うように、何度か将貴を見ては足元や空に目をやって、結局答えずに歩きだした。

「……わかった。話したくないなら無理しないでいい」

 将貴が追いかけていくと、白夜は立ち止まって振り返り、

「殺されるからって」

 と、ぼそりとつぶやいた。

「えっ」

「ここにいたら、もうじき殺されるからって。そう言って、私を外に連れ出したんです。あの人は――」

 そう答えた彼女のひとみは、初めて出会った朝のように、何も見えていないかのようだった。――(ドクター・ホワイト P.129、P.130)


 原作のこの時点ではまだ明かされませんが、白夜はクローン人間でした。


――「誠くん……藤島社長の息子さんが、テントウムシを見つけたって言って階段を上っていって……あっ、と声をあげて転がり落ちたんです。頭を打ったんだと思います。床は大理石だし……」――(ドクター・ホワイト P.150)


 藤島社長は、白夜のいる高森総合病院の救済のために資本参加したファンド「JMA」の社長です。


――医師たちの協議も虚しく、藤島誠の症状は一進一退を繰り返していた。痙攣と痛みが深刻になるにつれて、対症療法としての鎮痛剤の投与量が増えるだけで、根本の原因がはっきりしないかぎり打つ手はない。以前に高森巌院長が言っていた通り、医者のもっとも大事な仕事は正確な診断なのだ。――(ドクター・ホワイト P.183)


 白夜は核心に迫りつつありましたが、どうしても証拠がありません。そこで驚きの行動に出ます。


――「あたしに?」

「そう。君にしか頼めないことなんだ」

「言ってみて。聞いてみて考えるから」

 将貴はわざと口許に笑みを浮かべながら言った。

「家宅侵入の手引きをしてほしい」――(ドクター・ホワイト P.200)


 藤島社長の家に証拠がある可能性が高いため、家宅侵入を目論見ます。麻里亜に頼んで藤島社長の家の中に入るのです。これが「家宅侵入の手引き」です。


――うまく袋に収まった『それ』を見て、夏樹が呟いた。

「テントウムシだ……」――(ドクター・ホワイト P.207)


 藤島社長の家にいたテントウムシは、実はテントウムシではありませんでした。


――「証拠ならありますよ、ここに」

 麻里亜が、そう言ってビニール袋を掲げてみせた。

 その中には、1センチほどの体長の小さな黒い蜘蛛がもぞもぞとうごめいていた。蜘蛛の背中には赤い斑点が数個並んでいて、足があっても遠目にはテントウムシに見える。その姿はまさに、タブレットに映しだされたジュウサンボシゴケグモそのものだった。――(ドクター・ホワイト P.214)


 藤島社長の家にいたのは、テントウムシそっくりの毒グモだったのです。息子の誠の症状はこのクモに嚙まれた事が原因でした。



 ここから第四章。章題は「ミルウォーキーの奇跡」です。


 タレントのカンナは、カメラマンの加賀美との撮影中に原因不明の病に冒されてしまいました。


――「しかしあなたがここで嘘をついたり、重要な情報を隠したりしていたせいで、患者が亡くなった場合には、あなたは責任を問われる可能性がありますよ」

(中略)

「何かご存じのようだが、話してもらえない。患者の命がかかっているかもしれないのに、そのせいで治療に入れない、とか」

「そんな! 話します。何を話せばいいんですか。何でもいてもらえたら……」

 気の弱そうなマネージャーは、たちまち落ちてしまった。

(中略)

「どんなことで悩んでいたんでしょうか」

「つまりその……まくらってやつです」

「枕?」

「ぜったいに、あたしが話したなんて言わないでください。それと、週刊誌とかにも」

「当たり前です。安心してください、その点は」

「だったら言います。カンナは遊ばれてたんです。カメラマンの加賀美先生に。今日の撮影をしてた人です。加賀美拓也っていう、売れっ子カメラマンと、もう2カ月くらい前からその……体の関係にあるんです、カンナは」――(ドクター・ホワイト P.236、P.237)


 出ましたね~枕営業。芸能界だけでなく、良くある話のようですね。


――確かに、バリ島は大麻が手に入りやすく、マジックマッシュルームと呼ばれる幻覚キノコの使用では昔から有名だった。最近ではMDMAなどの合成ドラッグや覚醒剤なども、問題になってきていると聞く。

 カンナとドラッグセックスを楽しむために、撮影旅行がてらバリ島に連れ出したのではないかと滝は言いたいのだろう。――(ドクター・ホワイト P.258)


 なにやらすごい展開になってきました。ドラッグですか。


――やはり加賀美はカンナと何らかの薬物を使ったセックス、いわゆる『キメセク』をしていたに違いない。そのために非合法薬物が手に入りやすいバリ島に連れていったのだろう。――(ドクター・ホワイト P.269)


 やはりドラッグを使っていた事は間違いないようです。しかしドラッグが原因ではありませんでした。


――「いいえ。もっと急性の病気です。放っておけば……いえ、何をしても通常は助かりません。1週間以内にほぼ全員が死亡します」

 それを聞いて、麻里亜がはっとなる。

「……狂犬病?」

「はい」

(中略)

「感染源はコウモリか。聞いたことがある。狂犬病の感染源は犬以外にもたくさんあるって。その中の代表がコウモリだったはず」――(ドクター・ホワイト P.271)


 何と原因は狂犬病。それも犬ではなく、コウモリが感染源とは。


――「理屈は簡単です。ウィルスの駆除は患者の免疫細胞に任せればいい。その上でウィルスが完全にいなくなるまで、患者を生かし続けることができれば、結果として治癒できると考えたんです」

「だから、どうやって生かし続けるっていうんだよ。それを知りたいんだ」

「患者を眠らせるんです」

「なに」

「ウィルビー医師は患者の脳を、ウィルスがコントロールして内臓にダメージを与えるような指令を出せないように、完全に眠った状態にしようと考えたんです。そのために有効だったのがケタミンでした」

「麻酔剤のか」

「ええ。ケタミンには狂犬病ウィルスが増えるために行う転写を抑制し、また細胞膜タンパク質をブロックして、傷ついた脳の受容体の活性を抑え神経細胞の死滅を防ぐ作用もあります。検体からジーナの狂犬病確定診断が下ると、ウィルビー医師は麻酔医や脳障害の専門医などを集めた救命チームを結成して、ジーナを1週間、深く昏睡させる治療を開始したんです」

「助かったのね、ジーナは」

 麻里亜が訪ねると、白夜は力強くうなずいた。

「はい。彼女は人類で初めて、ワクチン投与なしで完全に発病してしまった狂犬病から、生還することができたんです」

「白夜さん、あなたはそのミルウォーキー・プロトコルを再現できる?」

「この技術に関する世界中の文献が頭に入っています。ウィルビー医師のやり方を真似たものの、いくつかの変更をして失敗した症例もありますから、注意しないといけません。最初に成功した方法を、100%再現するのが一番確実なやり方だと思います」

「それでいきましょう。白夜さん、あなたの助けが必要なの。お願いね」

「はい」

 白夜は、もう一度大きくうなずき、微笑んで見せた。――(ドクター・ホワイト P.286、P.287)


 今回もまた、白夜の活躍で的確な診断がされました。更に、不治の病に近い「狂犬病」の患者を完治させてしまいました。


――将貴は震える手で、メッセージを掲げてもう一度見た。


『Rh null』


 そう鉛筆で記されていた。――(ドクター・ホワイト P.310)


 いいところで終わってしまいました。「Rh null」は白夜の血液型で、数百万人に一人という世界的にも大変珍しい型です。この続きは続編の「ドクター・ホワイト 神の診断」に引き継がれます。こちらも近いうちにレビューしたいですね。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 もし、なる程と感じる所がありましたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。


 よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713



 次の第81回は「サヨナライツカ」の秘密に迫ります。お楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る