第75回 アキハバラ@DEEP その3
続きです。
—―「今気づいたことがあるんだ。ユイさんのAIは、まるで生きているみたいにあたしたちと話したよね。クルークはあのAIよりもっと進化してるんだから、きっと人格だってあるはずだよ。みんな、その意味がわかるよね」
アキラは赤いラブソファから立ちあがって、全員を見わたした。
「中込威はものを盗んだんじゃない。あれは盗難じゃなくて、誘拐なんだ。だからデジキャピがさらったものは、ちゃんと奪い返して自由にしてあげる必要がある。だって、クルークはあたしたちみんなの子どもなんだ。ねえ、ページもそう思うでしょう」
ページはうなずいてから深呼吸した。
「うん、ぼ、ぼ、ぼくもそう思う、う、う」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.334、P.335)
こうして6人は、クルーク奪還へ向けて一致団結します。
—―「わかってないな。感謝する必要などない。わたしだって、一生デジキャピに籍をおくつもりなどないんだ。いいかな、きみたちは第二のデジキャピや中込威になる可能性が高い有力ベンチャーだ。今後の影響力を確保するために協力するのは、理念を同じくするだけでなく、ビジネスの一環でもある。せいぜいオープンなデジキャピになれるようにがんばってくれ」
そこで言葉を切ると遠阪はにやりと笑った。
「わたしが人間トラップドアで、そっちは侵入者。お互い対等のパートナーというわけだ。今後の連絡はわたしの極秘アドレスをつうじておこなってほしい。そちらのほうなら警察からもハッカーからも安全だ」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.357、P.358)
遠阪はデジキャピ内部の人間です。中込に反旗を翻します。
—―黒いスーツの男は再び口を開いた。
「彼らの不法侵入にはうちのスペシャルセキュリティが対処した。きっと今頃は、無謀な試みを後悔していることだろう。わたしは仕事柄7ステーションのBBSにも目をとおしている。あそこでは最近、きみたちのデジキャピへの報復が話題になっているようだね。悪いことはいわない。危険なことには手をださない方が賢明だ」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.424)
アキハバラ@DEEPの逆襲に先立って、デジキャピを解雇された何人かの元社員の不法侵入が見つかり、中込からひどい目に合わされました。黒いスーツの男は中込の秘書です。
—―「いいか、ページくん。今年の残りでタイムオーヴァーだ。時間はそれだけしかない。新年になれば、わたしたちのサーチエンジンが世界に広がる。邪魔をするようなら、この会社を潰してやる。壁版の一枚、瓦のかけらも残らないくらい完璧に粉々にしてやる。これは約束だ」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.425)
これも黒いスーツの男からの忠告です。
—―男たちはなにもこたえなかった。ページとタイコの腕を背中でねじりあげ、黒い手袋で口をふさぐ。手首になにか細いコードのようなものが巻かれたようで、ぱちりと背中で音がしてスナップがとめられると、まったく手が動かせなくなった。ふたりは暗い路地でできる限りの抵抗を試みたが、男たちは屈強で、こうしたことに手馴れているようだった。あわてることもなく、ひとりずつかつぎあげて、ワゴン車のなかに押しこんでいく。荷室に横たわったふたりには、すぐにきつく目隠しがされた。自動車は急発進することもなく、なにごともなかったかのように秋葉原の裏町を静かに離れていった。—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.466、P.467)
中込はまたも卑怯な手段を使います。ページとタイコを誘拐し、拷問してクルーク奪還作戦について喋らせようとします。
—―中込威はここでも間違った選択をしたのである。メンバーのもっともよわきふたりを誘拐することで、かれらが生まれつきもっていたつよさを引きだし、六人全員の結束をかつてなかったほど強固にしたのである。きたるクリスマスイブ、わたしたちクルークの父たちと勇猛な母は、秋葉原という聖地の歴史に残る闘いを巻きおこすであろう。—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.480、P.481)
いよいよアキハバラ@DEEPの逆襲が始まります。
—―会議テーブルの端にはデジキャピ代表の中込威が立ち、三人を見あげていた。
「おまえたち、不法侵入だぞ。さっさとこの建物から出ていけ」
(中略)
「きみたちは誰だね。半沢先生とはどういう知り合いなのかな」
(中略)
「半沢先生の友人で、秋葉原でeビジネスの会社をやっています。ぼくたちが開発したAI型サーチエンジンをそこにいる中込に盗まれたんです。今日はそのクルークを取り返しにきました。知事の命令でも、もうぼくたちはとめられませんよ」
—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.538、P.539)
半沢教授は東京電機工科大学の名物教授。国産初の
—―遅れてきた半沢教授がロビーの六人と合流した。興奮して声をかける。
「ページくん、とりあえず逮捕はないようだ。警察車両がむかうのは救急病院だが、きみもいっしょにきてくれ。わたしはAI型サーチエンジンについて詳細を知りたい都知事から課題を出されているんだ。イズムくんとページくんは、これから数日間その病院の個室でわたしと何人かの研究者にクルークについてレクチャーを開いてほしい。時間がないのだ。協力を頼む」
(中略)
半沢老人はページの肩をそっとたたいた。
「事態はまだ誰にもよくわかっていないんだ。クルークは自意識をもって、ネットの中で生きているらしい。先ほど知事とわたしは開発室のディスプレイで、きみたちの作ったAIと話したのだ。あれは見事な出来だった」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.546、P.547)
アキハバラ@DEEPはついにクルーク奪還に成功します。
—―六人のまだ幼い聖者のための協会が、外神田二丁目に建立されることになる。だが、それまでにはデジタル生命体クルークと人間とのあいだで、さまざまな交流が試みられ、いくつかの争いと調停を経験しなければならない。お互いが相手にとって不可欠の存在だと広く一般に認められるまで摩擦は続くのだ—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.549)
最後はまだ中込との決着はついていませんが、明るい未来を想像させるエンディングです。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
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次の第76回は「初めて彼を買った日」です。お楽しみに。
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