第74回 アキハバラ@DEEP その2

 続きです。


 アキハバラ@DEEPの6人のメンバーで、クルークの開発が始まります。


—―「ぼくの考えるクルークの最終形についてお話しします。現在ベータ版では四つのAIが働いていますが、まだ十分じゃありません。ただ正確だったり、便利だったりするサーチエンジンなら、今あるもので十分です。でもクルークはそんなところでとまってほしくないんです。人といっしょに考え、悩み、発見する。そしてつぎの日には新しいより豊かな問いを生みだす。そんなサーチエンジンがほしいんです。単なるツールでなく、人間の本当のパートナーにしたい」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.201)


 いいですね~。人間の本当のパートナーとなるサーチエンジン。言葉に出来ないような事も検索出来るようになって欲しい。


 例えば、ずいぶん昔に有線放送か何かで耳にした素晴らしい曲。日本の歌なら歌詞とかで検索出来ますけど、洋楽で歌詞が聞き取れなかったり、あるいはインストゥルメンタル(歌詞のない演奏だけの曲)だと今のサーチエンジンでは検索するのは難しいですよね。


 音楽センスのある人なら、メロディーを音階で表して検索するなんていう芸当も出来るかもしれませんが、私にはとても無理です。


 こんな時に「ちゃらっちゃっちゃ~」っていう感じで音声入力して検索するとか。あるいは口笛を吹いて入力して検索するとか。


—―[ぼくたちにはそこまで未来に確信がもてません。ネットの世界の寡占化という話だって、そうなるかもしれないし、そうはならないかもしれない。今、関心があるのは最高のサーチエンジンをつくること、その一点だけです。そして、それを世界中の人に自由につかってもらいたい]

 がちゃりと音を立てて、中込は銀器を皿に投げだした。

「クルークは世界中から人を呼ぶさ。それは少々の料金を取っても同じことだ。あれはサッカーのワールドカップや映画のアカデミー賞クラスのキラーコンテンツなんだから。ページくん、きみはそうやって集めた人間をなんとかしようとは思わないのか」

 ページは左右に座るタイコとボックスを見てから、キーを打った。

[ええ、思いません。クルークをつかって、みんながよい検索をしてくれればそれでいいんです。みんなの探しているもののこたえが見つかるなら、それで十分です]—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.242)


 中込はデジキャピことデジタルキャピタルの代表です。クルークを狙っており、最初は金にモノをいわせて6人から買い取ろうとします。6人はかたくなに拒否します。


—―「あまりよい趣味ではないが、数すくないわたしのたのしみだ。見てやってくれ」

 そういうと同時にリモコンのボタンを押した。壁面の半分を占める鏡はさっと幕を引くように透明なガラス窓に変化した。そのむこうにはちいさな部屋ほどあるおりがそなえつけられていた。檻の格子は艶やかに磨きあげられたクロームである。なかにいるのは未成年に見える女性だった。紺のスクール水着の薄い胸には、72番竹下と油性マジックで書かれた白い布が縫いつけてある。細い首を締める黒革のチョーカーから、銀の鎖が鉄格子に伸びていた。女性は檻の中でくつろいでいるようだった。銀の格子にもたれかかって座り、首の鎖を縄跳びのようにくるくるとまわしている。中込が笑いながらいった。

「ボックスくんと同じで、わたしも生身の女性が苦手でね。そこでこうして女性を飼うことにした。生きた標本だな。成人でああした幼児体型の女性を探すのはむずかしいんだが、うちのスタッフが毎回なんとか見つけてきてくれる。ほとんどのフリーターは年収の半分も積めば、自分からすすんで檻に入るよ」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.252、P.253)


 直接お金にものを言わせるだけでなく、ページ達を自分の本拠地に招き、これでもかと富の力を見せつける中込。


—―「それでさ、もう中込さんにはちゃんと断ってきたの」

 ページはキーボードの手を休めた。

「どど、どうして断るって、わ、わかったんだ、だ、だ」

(中略)

「だって無理だよ。中込さんのペントハウスは白い部屋も黒い部屋もすごくきれいだったけど、あそこじゃ三十分だって仕事はできない。ぼくたちには似合わないよ」

 窓のしたを酔っ払いの集団が歌をがなりながらとおりすぎていった。タイコは肩をすくめる。

「街のノイズがきこえないところでは、ぼくたちにはいい仕事はできないよ。ぼくたちがエネルギーをもらってるのは、この裏アキハバラの街なんだから。ここを離れたらアキハバラ@DEEPじゃなくなっちゃうよ」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.264)


 中込は更に、でっちあげの記者会見で業務提携の既成事実をでっち上げようと工作しますが、これもすげなく拒否されます。これが中込の逆鱗に触れる事になりました。


—―最初に目に飛びこんできたのは、玄関横のクローゼットの開いたままの扉だった。ワンルームマンションの玄関は狭いが、それでもさまざまな種類の収納がある。ページはこれほどたくさんの扉があるのかと目のまえの異様な光景に目をみはった。クローゼット、下駄箱、そのうえの天袋、白い化粧板でできた十数の扉がすべて同じ角度に開いていた。ページがいないあいだに、誰かがこの部屋を荒らしていったのだ。—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.278、P.279)


 なんと、中込は部屋を荒らしてハードを盗み出すという極めて原始的な方法でクルークを奪ったのでした。とてもIT企業の仕業とは思えないですね。


—―「しかし、最後にひとつだけいっておく。うちの会社の法務部ではAI型サーチエンジンのアイディアで特許を取るように準備段階にはいっている。どう考えても受理されるのはうちのほうが早いだろう。これからきみたちがクルークに似たソフトをつくるというなら、徹底した法廷闘争を覚悟しておいたほうがいい。あれがきみたちのオリジナルだなどといって新規に開発をすすめるなら、弁護士に払う費用だけでからからに干からびるほど複数の訴訟を起こすぞ。絶対にきみたちを潰してやる。これは約束だ」—―(アキハバラ@DEEP 文庫版 P.311)


 はっきり言ってコソどろみたいな中込のセリフではないですね。ずうずうしいにも程があります。アキハバラ@DEEPのみんなに逆襲して欲しい。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。



 次の第74回も引き続き「アキハバラ@DEEP」の秘密に迫ります。お楽しみに。

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