第66回 蹴りたい背中
「蹴りたい背中」は、綿矢りさの小説です。金原ひとみの「蛇にピアス」と共に第130回芥川龍之介賞を受賞した作品です。彼女は当時19歳で、芥川賞の最年少受賞者です。「あらすじで楽しむ世界名作劇場」で実写ドラマ化されています。
綿矢りさについてはこちらをご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927859435362999
最初に「さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る」という描写があり、かなり屈折したいわゆる「こじらせ女子」だという事が上手く表現されています。タイトルとも繋がってきます。
――人数の関係で私とにな川を班に入れざるを得なくなった女子三人組は、まるで当然というふうに、余り物の
主人公とにな川の複雑な関係を示唆する絶妙な描写ですね。なにせこのタイトルは単に好きな人をいじめたくなるというごく自然な感情ではなく、もっと深い微妙な感情を表しているのですから。
私は小学校の頃に、気に入っていた一つ年上の女性がせっかく作った砂場のお城を壊して泣かせたりした事がありますが、これとは少し違います。
この後、にな川が「推し活」する程入れ込んでいる「オリチャン」というモデルに、主人公が偶然会った時の話をして、二人は急接近します。
――指でつまんでいる
あんなに健康的なものを、よくこれだけ
心の中で小さく
(中略)
この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい。痛がるにな川を見たい。いきなり咲いたまっさらな欲望は、閃光のようで、一瞬目が
瞬間、足の裏に、背骨の確かな感触があった。――(蹴りたい背中 P.58~P.60)
あらあら。「蹴りたい」という願望にとどめられず、本当に蹴ってしまったのですね。
背中を蹴るシーンは最後にもう一度出てきます。この1度目ではかなりサディスティックな感情から蹴っています。
主人公はにな川が少し風邪をこじらせて学校を休んだ時に、周りが「登校拒否かもしれない」と煽った事もあって、心配でお見舞いにいったりします。こういった事から友人の絹代は、主人公がにな川の事を好きだと思っています。
主人公は友人の絹代とにな川の3人で、オリチャンの初ライブに行きます。
――川の浅瀬に重い石を落とすと、川底の砂が立ち上って水を
「痛い、なんか固いものが背中に当たってる。」
足指の先の背中がゆるやかに
「ベランダの窓枠じゃない?」
にな川は振り返って、自分の背中の後ろにあった、うすく埃の積もっている細く黒い窓枠を不思議そうに指でなぞり、それから、その段の上に置かれている私の足を、少し見た。親指から小指へとなだらかに短くなっていく足指の、小さな爪を、見ている。気づいていないふりをして何食わぬ顔でそっぽを向いたら、はく息が震えた。――(蹴りたい背中 P.140)
この、2度目の蹴りでは「愛しさよりももっと強い気持ち」と言っていますね。
主人公とにな川がその後どうなるのかは大変興味深いですね。私は個人的にかなり良いカップルになるような気がしますがいかがでしょうか。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
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よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら? 例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713
次の第67回は「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の秘密に迫ります。お楽しみに。
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