第67回 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら その1

「もしドラ」こと「もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」は岩崎夏海の小説です。第1回サムライジャパン野球文学賞特別賞、第45回書店新風賞、第16回AMDアワード優秀賞を受賞しました。


 更に、累計300万部を超える大ベストセラーとなっています。


 元AKB48の前田敦子主演で映画化されています。また、漫画化やアニメ化もされています。


 前田敦子については、以前記事にしましたのでこちらを参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927859583656083


 高校野球の女子マネージャーであるみなみが、ドラッカーの「マネジメント」で当初弱小だった野球部を甲子園に出場出来るまでの強豪校にまで成長させるというストーリーです。


 私は小説や投資の他にも、経営やマーケティング、出版といった分野の勉強をしています。


 しかし、ビジネス書は難しくて読みづらいです。

 

 そこで、「もしドラ」のような小説はいいきっかけになります。


 この手のコンセプトの本は昔から多く、最近でも「特許やぶりの女王 弁理士 大鳳未来」がかなり売れているようです。


 青春小説として読んでも面白く、ドラッカーに興味がない方でも十分楽しめます。


――「私は、この野球部を甲子園に連れていきたいんです」

 すると、それに対してさまざまな答えが返ってきた。真剣に聞いてくれた者もいれば、軽く受け流した者もいた。中には、ほとんど要領を得ない答えもあった。しかし、その全てに共通していたのは、どれも否定的なことだった。――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.9)


 主人公のみなみがマネージャーになったばかりの頃は、かなり状況は悪かったのです。


――結局、みなみの考えに賛同したり、協力を申し出たりする人間は、一人もいなかった。それでも、彼女はへこたれたりはしなかった。逆にモチベーションを高めていた。

 面白い――とみなみは思った。誰にも相手にされないからこそ、逆にやりがいもあるというものだ。

 みなみには、そういうところがあった。逆境になればなるほど、闘志をかき立てられるのだ。

 それに、みなみには全くなんの味方もないわけではなかった。この頃までに、彼女は一つの強力な味方を得ていた。――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.11)


 「強力な味方」はもちろん「マネジメント」です。


――そうして彼女は、中身も見ずにその本を買い求めた。値段は二千百円と少し高かったものの、世界で一番読まれた本というのが気に入った。

 それに、あれこれ考えてもしょうがない――という思いもあった。

 ――もともとマネージャーという言葉の意味さえ知らなかったのだ。そんな自分に本の良し悪しなど分からない。こういう時は、あれこれ考えず、まずは買って読んでみるに限る。

 本を買ったみなみは、家に帰ると早速それを読み始めた。しかし、読んですぐに後悔し始めた。本の中に、野球についての話がちっとも出てこなかったからだ。それは、野球とは無関係の、「企業経営」について書かれた本だった。――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.13、P.14)


 すごいですね~中身も見ずに購入決定ですか。やはり実績は重要ですね。それにこの行動力は見習いたいところです。


――みなみは、その部分をくり返し読んだ。特に、最後のところをくり返し読んだ。

 ――才能ではない。真摯さである。

 それから、ポツリと一言、こうつぶやいた。

「……真摯さって、なんだろう?」

 ところが、その瞬間であった。突然、目から涙があふれ出してきた。――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.19)


「マネジメント」購入を後悔していたみなみは、この本が大好きになったのです。


 しかし、みなみは企業経営の話を野球部に当てはめるのに苦労します。まず最初の問題は野球部にとっての「顧客」が誰であるか。


 野球をやるためにお金を出したり、協力してくれたりする人として、様々な「顧客」に該当する人達がいる事に気づきます。


 例えば、学費を出してくれる親、学校の先生、東京都(みなみは都立の高校です)、都に税金を納めている都民、高野連(高校野球連盟)、全国の野球ファン等々……


――「それから、忘れちゃいけないのがぼくたち『野球部員』も顧客ということだな」

「え?」とみなみは、驚いた顔で正義の事を見た。「どういうこと?」

「だってそうだろ」正義は、当たり前のことを言うような顔で言った。「ぼくたち部員がいなければ、野球部なんて成り立たないわけだから。それに高校球児が一人もいなくなれば、甲子園大会だって成り立たない。だから、ぼくたち部員というのは、野球部の従業員であると同時に、一番の顧客でもあるわけだ」

 その瞬間だった。みなみは、頭の中のもやもやが一気に晴れたような感覚を味わった。それと同時に、喉元まで出かかっていたその答えが、はっきりとその姿を現した。分かりかけていた野球部の定義というものを、具体的に認識することができたのである。

「感動!」

 とみなみは叫んだ。それで正義は、びっくりした顔でみなみを見た。

「え? な、何……?」

 みなみは、そんな正義に勢い込んで言った。

「そうよ! 『感動』よ! 顧客が野球部に求めていたものは『感動』だったのよ! それは、親も、先生も、学校も、都も、高野連も、全国のファンも、そして私たち部員も、みんなそう! みんな、野球部に『感動』を求めてるの!」

「ふむ……なるほど――」と正義は、しばらく考えてからこう言った。「その解釈は面白いね。確かにそういう側面はある。『高校野球』と『感動』は、切っても切り離せないものだからね。高校野球の歴史そのものが、感動の歴史と言っても過言ではない。高校野球という文化は、これまで多くの感動を生み出してきた。だからこそ、ここまで広く、また深く根づいたというのがあるだろうからね」

「そうよね! 合ってるよね!」とみなみも、興奮して激しくうなずきながら言った。「私、知ってるの。一人、野球部に感動を求めている顧客がいることを! そうなんだ、彼女が顧客だったんだ。そして、彼女が求めているものこそが、つまり野球部の定義だったんだ。だから、野球部のするべきことは、『顧客に感動を与えること』なんだ。『顧客に感動を与えるための組織』というのが、野球部の定義だったんだ!」――(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら P.56、P.57)


 みなみの知っている「顧客」は、みなみの同級生で幼馴染の宮田夕紀ゆうきです。彼女は野球部のマネージャーでしたが、重い病気で入院していました。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。



 次の第68回は、引き続き「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の秘密に迫ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る