第65回 君は月夜に光り輝く
「君月」こと「君は月夜に光り輝く」は、佐野徹夜の小説です。発光病という不治の病に侵された女子高校生が、死ぬまでにやり残した事を、見舞いに来た同級生の男子高校生に代わりにしてもらう事で、お互いに心を通わせる恋愛小説です。
俳優の北村匠海と女優の永野芽衣のW主演で映画化されています。
北村匠海については以下をご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927859673102945
永野芽衣と言えば、主演作も多い人気女優です。本作の他にも朝ドラ「半分、青い」やドラマ「ハコヅメ」で主演した事は記憶に新しいです。
これも「セカチュー系」難病ものの典型です。なんだかんだいって難病ものは感動します。たとえストーリーの流れや結末が分かっていたとしても。
——「私、余命ゼロなんだ」
彼女の声は、あくまでも平温だった。
「幽霊みたいなもんなんだ。去年の今ごろ余命一年だって言われてたのに、普通に一年たっちゃったの。……ほんとうはもう、死んでるはずだったんだけどね。なのに、わりと元気でさ。なんなんだろうね?」
その言い方は、まるで他人事のようだった。
なんで会ったばかりの僕に、そんなこと言うんだよ、と思った。
「私って、いつ死ぬのかな?」
妙に明るい声で、彼女は言った。
そのとき、胸のどこかがざわついた。
なんでそんなに動揺したのか、自分でもよくわからなかった。この感情はなんだ、と思った。考えても、それが何なのか、自分でも理解できなかった。—―(君は月夜に光り輝く 文庫版 P.30)
岡田卓也は、はじめのうちは渡良瀬まみずの事を好きではありませんでした。ひょんな事からあまり気が進まなかったお見舞いと、ノートを渡す役になった事から物語が始まります。
—―「私ね、今、死ぬまでにしたいことのリストをまとめてるんだ」
(中略)
ただ、僕は知りたかったのだ。
そのノートに何が書かれているのか。
何故か、すごく、気になった。
渡良瀬まみずが、死ぬまでにやりたいことが、何なのか。
「それ、僕に手伝わせてくれないか」
それでつい、僕はそんなことを口走っていた。
彼女は、ビックリしたように僕を見返した。
「なんで?」
「罪滅ぼしさせて欲しいんだ。スノードーム、割ったことの。取返しのつかないことをしたと思ってる。でも、ごめん、って言葉で謝るだけじゃ、なんか足りない気がして。薄っぺらい、気がして。うまく言えないんだけど…………なんでもいい。出来ることならなんでもするから」—―(君は月夜に光り輝く 文庫版 P.36、P.37)
スノードームは、まみずが音信不通の父親からもらった思い出の品です。卓也はこれを不注意から壊してしまい、とても責任を感じていました。
このあたりから卓也はまみずの事を女性として意識しはじめます。いや、既に惚れていたのかもしれません。
やりたい事リストの内容はかなりの数にのぼります。遊園地に行くとか、人気の新型スマホを徹夜で行列に並んで買うとか。
ここからスマホで頻繁に連絡を取り合うようになります。
リストは更に増えていきます。離婚して音信不通になったまみずの父親に会いに行くとか。メイド喫茶でバイトするとか。バンジージャンプをするとか、亀を飼うとか。
そんな中で、ようやく自分の気持ちを自覚した主人公は、病院の屋上でついに愛の告白をします。ところが……
—―「まみず、僕、君のことが好きだ」
まみずは僕の方を向かなかった。まるで僕が何か言ったことなんかなかったみたいに、何の反応もせずに固まっていた。
「もう、五分たったよ」
彼女の声は、少し、震えていた。
表情は見えなかった。彼女が何を考えているのかも、相変わらずわからなかった。
「冗談じゃないよ」
僕は真面目なトーンで言った。
数瞬の沈黙が流れた。
僕は待った。
「ごめんね」
その声には、どうしてか、涙が混じっていた。—―(君は月夜に光り輝く 文庫版 P.155)
いよいよまみずの病状が悪化し、卓也はまみずよりも先に自ら命を断とうとして、まみずと一緒に病院の屋上へ行きます。
—―「これから、僕は死ぬんだ」
僕は頭がおかしいんだろうか? そうじゃない、と思った。
おかしいのは、まみずが死んでいく世界の方なんだと思った。
「死んだらどうなるのか、まみずに教えるんだ」
「……バカなの?」
「死ぬのなんて、怖くないって、君に教える」
「怖くないわけ、ないじゃん」
まみずは声を震わせながら、言った。
(中略)
「私のかわりに生きて、教えてください。この世界の隅々まで、たくさんのことを見て聞いて体験してください。そして、あなたの中に生き続ける私に、生きる意味を教え続けてください」
僕は思わず、吸い寄せられるように、屋上のへりから、柵の方へと近づいた。死から生に近づいた。
それは僕の敗北だった。
僕は、渡良瀬まみずに負けたのだ。
「私の最後のお願い、聞いてくれる?」
まみずの唇がすぐそこにあった。
僕は迷わず、彼女にキスをした。
まみずはすぐに唇を離して、僕の目を見た。
それから今度はまみずの方から、キスをしてきた。
好きだよ。
愛してる。
僕はそう、何度も彼女に言った。
***
それから渡良瀬まみずは、十四日生きた。—―(君は月夜に光り輝く 文庫版 P.275~P.284)
やはり、まみずが卓也を一度振ったのは、自分の命が長くないからでした。本当は卓也を愛していたのです。
—―目を閉じて、あれから何度も聴いてきたまみずの声を、もう一度聴いた。
「お父さんが、電話であなたを呼んでいました。
もうすぐきっと、最後の瞬間がやってきます。
これが本当に正真正銘、最後のお願いです。
私は、幸せが好きです。
そして今、とっても幸せです。
死ぬのは怖くてたまらないけど、怖くて怖くて心臓がとまっちゃいそうだけど。
でも、もう、怖くありません。
幸せです。
卓也くんは、どうですか?
どうか私のために、幸せになってください。
あなたの幸せを、心から祈っています。
渡良瀬まみずより、これが最後の通信です。
さようなら。
愛してます。
愛してる。
愛してる」
まみずの墓には、静澤聰のように「無」なんて書かれてはいなかった。
ただシンプルに、
渡良瀬まみず
と名前だけが刻まれていた。
それでいい、と僕は思った。—―(君は月夜に光り輝く 文庫版 P.310、P.311)
まみずは生前、静澤聰のような墓に入りたいと言っていました。好きな小説家だったからです。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
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よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら? 例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713
次の第66回は「蹴りたい背中」の秘密に迫ります。
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