石像は祈り、そして導く
昨日と同じく、今日も空の国ーーエルナミューレ王国には冷たい風が吹いている。太陽は高く昇り、後は沈むだけ。
空の門が閉まるまでのカウントダウンはもう既に中盤なのだ。
その空の門は国の最南端に位置する。そのためサラとピピは噴水広場を経由し、商店街を抜けて空の門へ向かっている。
商店街を歩く二人は、ルカの家でもあるケーキ屋さんの前を通り過ぎようとしていた。
「毎日お客さんで賑わってるよね、ルカん家。まあ、美味しいから当然か」
サラの言葉の通り、窓から見える店内は、華やかな見た目のケーキが並んだショーケースを眺めるお客さんでビッシリだ。
「私もケーキ大好き! そう言えば昨日、寝たきりで起きなかったサラを家まで運んでくれたのはルカなのよ」
よだれを垂らしそうになるのを必死に抑えてそう言ったピピを、サラはハッとした表情で見た。
「そうだ昨日、私、寝ちゃったんだ。そっか、ルカにお礼しないと……でも、さすがに一緒に来るわけないよね。帰って来たら、ご飯ご馳走してあげようっと」
ルカの姿は窓越しでは見えないが、きっと厨房で忙しなくしているのだろうとサラは思いながら、様々な店が並ぶこの通りを歩いて行く。
* * *
そして二人は順調に商店街を抜け、冷たい風の吹き抜ける開けた道を歩いていた。すると、見えて来たのはお城のような綺麗な建物。だが、国のお城よりかは小さく、可愛げのある大きさだ。その見た目は遺跡のような形をしている。
「……古代文字?」
サラが見上げている建物の入り口の上には、古代文字が横一列に並んでいる。
「なんて書いてあるか分かる?」
ピピがサラに尋ねると、サラは首を横に振って答えた。
「うーん、全然わからない。取り敢えず入ってみよ」
二人は扉の無いその建物に入って行く。
ステンドグラスの天窓からは日光が入り、色とりどりの光が煌めいている。
風通しの良いその建物内にサラの足音がコツンーコツンーと響き渡る。どうやらフロアは二人のいるここだけのようだ。
二人の正面に、まず一つ目の石像。そしてそれを取り囲むように七つの石像がバランスよく配置されている。それらは全て人の形をしたものだ。
「誰かな、この人たち」
ピピの声がこだまする。
サラは真ん中の石像の前まで歩いて行く。その石像は翼を広げ、祈るように胸の前で両手を合わせている。
「二対四枚の翼……この人、初代女王だわ。だとすると、周りのこの人たちは七人の騎士。この国を作った人たち……」
今度はサラの声がこだまする。
サラが図書館で見つけた『空門の歴史』 と表紙に書かれた本。それに出てきた二対四枚の翼を持つ女性は女王となり、また、七人の騎士はそれぞれの団を立ち上げ、空の国を作ったと示されていた。
国を築き、守り、導いてきたその人たち。空の門へと続く階段の入り口には、それらの石像があったのだ。まるで、行く道を示すように。
空の門をくぐり抜けたら、そこはもう人間界。かつて争いがあったように、悲惨な歴史は繰り返さぬようにと、祈り、導いているのかもしれない。
サラは姿勢を正して、その初代女王の石像を見つめた。
(初代女王様、私はあなたと同じ自然魔力を扱います。翼は小さく、未熟者です。それでも私は、私に魔法をくれたあの子に感謝しています。あの子は私にとっては必要で、これもまた繋がり。絶ってはいけないものですよね)
自然魔力を扱うとされる初代女王にもいたはずなのだ。サラに助けを
サラは深呼吸すると、今度は力強い瞳で目の前の石像を見つめた。
(私はこれから人間界へ行ってきます。法は破ってはしまいますが、私にはやるべきことがあるのです。この国のことも、魔法のことも、知られないよう努めます。なので、どうか見守っていてください)
エメラルドグリーンの瞳で、決意を固めた心で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます