霧の中の噂話は笑い話し
「羊たち可愛かったな。鈴で呼んだみたいだけど、ピピが操っているのか?」
ルカが尋ねると、ピピは首を横に振って答えた。
「操ってなんかいないわ。私の友達なの」
「ピピの友達か! 今度、ケーキ持ってきたら喜ぶかな」
ルカは羊たちを気に入ったみたいだ。
ピピは友達を好きになってくれて嬉しいという風に笑顔を見せた。
「あの子たちは甘いものが大好きだから絶対喜ぶわ! 私の分も忘れないでね!」
結局は自分が食べたいだけである。
「それにしても、ここは相変わらず湿気が物凄いわね。これじゃあ、ケーキのスポンジだってビッショビショになるわよ」
ピピの言う通り、ここは湿気がとても多い。雲海を渡っただけだと言うのに、湿度も風景も空の国の本土とは異なる。霧が立ち込め、木々や雑草が伸び伸びと生い茂っている。頂上が見えないほど、一本一本が高く聳え立つ木々からは雫が雨のように落ちてきている。
少し前を歩いているサラは未だ不機嫌な様子だ。
「どうしてこんな所に図書館なんて建てたのかしら。本だって湿気は嫌いでしょ?」
サラは湿気にイライラしていたのだった。
そんな三人がやってきたのは、森の中にひっそりと佇むとても大きな建物。屋根が見えないのは深い霧の所為か、それとも見えない程高いのか、その全貌ははっきりと目視出来ないが、老朽した外観にはなんとも言えない威厳を感じさせられる。街灯の淡い光がより一層その雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
目的の建物を前にして、ルカは声をビクつかせて言う。
「本当に入るのか……? 今だったらまだ引き返せるぞ……」
「もう、しつこいわね。だから来なくても良いって言ったじゃない。しかも、なんでそんなにオドオドしてるのよ」
サラの強気な言葉に、何かを思い出すように言うルカの声は震えている。
「ここには、あ……悪魔がいるんだぞ」
サラが「悪魔?」 と言いながらピピに顔を向けると、ピピも何の事だか分からないと言った表情だったが「ああ、シャルムのことじゃない?」 と、納得したように言った。
「シャルムが悪魔……」
サラはそう言うと、なぜか笑い出した。
「な、何で笑ってるんだよサラ。ひょっとして悪魔に取り憑かれたのか!?」
ルカの言葉にサラはまた笑い出した。
「ルカ、その悪魔にあったことあるの? 喜んでたでしょう」
サラは笑いが止まらない。目に涙を浮かべてはお腹を押さえている。
「ああ、『生贄が来た』 とか言って悍ましい笑みを浮かべて喜んでたよ……悪魔なんていないと証明するためだったのに……本当にいたんだよ!」
この図書館には悪魔がいると言う噂がある。だから国の人たちはここへは来ようとしないのだ。だがルカはそんな噂話をハッキリとさせようと思い、以前来たことがあるらしい。最悪なことに、嫌な事実を突き付けられたみたいだ。
「平気よ、ルカ。あの人は悪魔なんかじゃないわ。ただ頭がおかしいだけだから」
サラはピピの言葉に「もうやめて、お腹が痛い」 と、笑い声を張り上げた。何がそんなに面白いのか……それはサラにしか分からないのであった。
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