4・7 2019年某日その5

『お二人さん。さっき式場から連絡が来たんですが、スライドショーで使う写真の追加や変更がないか確認してほしいそうで。新婦さんのご両親からアルバムを預かったんで、もし追加したい写真があればどうぞ』


『あーはいはい。……うわー懐かしい写真ばっか。七五三に入園式。こっちはみんなでキャンプした時だ。……あ! 運動会の写真! 運動会は毎年みんなで一緒にお昼食べたよね。大家族みたいで楽しかったなあ……』


『こうやってアルバム見てみるとさ、ほとんど三人で写ってるな』


『そうだね。いつも三人セットだったから……。私が赤ちゃんの頃の写真は独りぼっちなのに、いつの間にか二人と写るようになってる。急に家族が増えたみたい』


『どこでも一緒だったからな。年末年始も合同で過ごすことが多かったし、おじさんが旅行もキャンプも買い物もよく連れてってくれたもんな』


『……あれ? この和室の写真、私たちが手繋いで寝てる。いつの写真だろ? 小5くらい? お父さんが隠し撮りしたのかな?』


『ほんとだ。こんな写真あったんだな。ちょっと髪が濡れてるからさ、みんなでプール行った帰りじゃない? きっと疲れて和室で寝ちゃったんだろ。……でも、どっちから繋いだんだろう』


『あのー。夫妻で仲良くしてるところに水差すようで申し訳ないんだけど、今は懐かしむ時間じゃなくて写真選ぶ時間でっせ』


『ああごめん木田。選ぶ選ぶ。……なあ夏、あの写真さあ、やっぱり無しにしない?』


『どれのこと?』


『……あれだよ。分かるだろ』


『え? 分かんないよ』


『後夜祭の写真だよ! 文化祭の!』


『あー! 羞恥心のこと? なんで? 嫌なの? 今更じゃない? みんな知ってるじゃん』


『嫌だよ! 恥ずかしいよ! なんで黒歴史を職場の人にも見られなきゃなんないんだよ!』


『えー黒歴史? 私はいい思い出だと思うけどなあ。羞恥心の写真撮るために早めに場所取りしたし。絶対最前列で見てやるって思って気合い入れた甲斐あったよ。何しろ兄弟で出演したもんね。見事だったよ』


『俺だって兄弟で踊ることになるとは思わなかったよ。本当恥ずかしかった』


『恥ずかしがることじゃないと思うけどなあ。「学年トップ」と「カス高の尾崎豊」と「照英」による羞恥心、って話題になったじゃん。インパクトあったよ。すごい盛り上がってたし』


『嬉しくない』


『でもまさか、「悲壮感」に負けるとはねえ。相当盛り上がってたからてっきり優勝すると思ってたのに、「悲壮感」に全部持ってかれちゃったもんね』


『ほんとだよ! だから嫌だったんだ。あんなことになるならきっぱり断ればよかった。とんだ赤っ恥だ!……そうだ。こいつが悪いんだ! おい! 呑気にインタビューしてるそこのお前! 何笑ってんだよ! そもそもお前の……』


『はいはいはいはい! もう過ぎたことなんだから今更責めないの! 10年以上前のことに文句言ってもしょうがないでしょ!』


『ったく……。あーもー、写真は夏が適当に選んでいいよ。俺は一服してくる』


『分かった。……あ、ちょっと! あんた今日何本吸った?』


『……まだ2本目だよ』


『本当に? じゃあ中身見せて。確かめるから』


『え、それはちょっと……』


『なんでよ! 早く見せろ!』


『……もう勘弁しろよ! 毎日毎日タバコの本数チェックするなんていかれてるよ! 休日なんだから少しくらい多く吸ったっていいだろ!』


『ダメ! 休日だろうと何だろうと絶対許さないから!』


『これでも前よりは減らしたんだからいいだろ! そもそも一日5本なんて無理だよ! 吸った気にならない!』


『だからさっさと禁煙しなさいよ! タバコ買うくらいなら貯金しろ!』


『簡単に禁煙できるなら誰も苦労しないって!』


『だからせめて減らす努力しなさいって言ってんじゃん! これ以上増やすな! でないと……』


『でないと? でないとなんだ? また麦茶でもかけんのか? あ、おい木田聞いてくれよ。この前ちょっと多く吸ったらさ、箱ごと麦茶かけられたんだよ。どう思う? やりすぎだよな? これって俺が悪いの?……おい、お前何笑ってんだよ。笑うなって! 笑い事じゃない! てかカメラ止めろよ! こんな会話まで撮影するな! もしこの映像使ったら絶対許さないからな!』

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