第3章 あなたと違うんです
3・1 2019年某日その4
『なんか昔の話してたらいろいろ思い出してきて猛烈に懐かしくなってきたな……』
『私も! なんかあの頃っていい時代だったよね。今にはない良さがあるっていうか……なんて言えばいいんだろうね? とにかく、めちゃくちゃ楽しかったよね』
『そうだなぁ……テレビとか今より面白かった気がする』
『お父さんもおんなじこと昔言ってたよ。昭和のテレビの方が面白かったって。なんでもアリだった時代だからね』
『あ、そう? でもさあ、あの頃のテレビも結構豪華だったと思うけどなあ……』
『「トリビアの泉」とか?』
『そうそう。「学校へ行こう!」も好きだったな……』
『ああ! 見てた見てた! 「未成年の主張」にクラスの子が応募しようとしてたのを覚えてるよ』
『「伊藤家の食卓」とかも見てたし、「ヘキサゴン」からの「はねトビ」の流れも好きだったなあ』
『懐かしい! それ見たさに毎週早く帰ってた! それにさ、「エンタの神様」もよかったよね!』
『エドはるみとか、にしおかすみことか、波田陽区とかいろんな芸人いたよな』
『いたねえ』
『でもそれもこれも、全部終わっちゃったんだよなぁ……』
『そうだね。あの頃はテレビを見るのが毎日の楽しみだったし、あんなに人気があった番組ばかりなのに、みんな終わっちゃったね』
『そう思うと、ちょっと寂しいな』
『今も今で楽しいんだけどね。でも昔は昔なりの楽しさがあったのは事実だよねぇ。あの頃ならではの青春っていうのかな? 今の高校生なんてガラケーとか知らないんじゃないの?』
『知ってはいるだろうけど、スマホしか触ったことない子が多いんじゃない?』
『そっか……。あ、MDとかコムは知らなそうじゃない?』
『あー! 絶対知らないね! MDとか俺ら世代しかまともに使ってないんじゃないの? 今はもうほぼ絶滅しちゃったし。いやあ懐かしいな……』
『なんか笑っちゃう。私たちが学生時代使ってたものも見てたものも今はもうないんだもんね。うわぁ……私たちも年取ったのね。まあでも、そんなもんか』
『そんなもんだろ。俺らより前の世代はポケベルとか使ってたわけだし。母さんたちの世代ではポケベルすらなかったんだし』
『……便利な世の中になったね』
『ほんと。便利になったよなぁ。昔はスライド式とか、ワンセグ機能あるガラケーに感動してたけど今じゃスマホ一つでなんでもできるもんな。たった10年ちょっとでこんなに変わるんだから、10年後の……2029年とかもっと便利になってるんだろうな』
『確かに。……あ、いいこと思いついた。今からさ、10年後の自分へ記念に一言言ったらどう?』
『え、なんで?』
『離婚してなきゃ2029年は結婚10周年を迎えてるはずでしょ? きっとこの映像を見返してるはずだって。ほら、なんか言いなよ』
『離婚って……そんなこと言うなよ!』
『はいはいごめんごめん。分かったから、一言メッセージ言って。ほら早く。時間ないんだから』
『え……? なんだろ。えっと、はい。2019年の俺です。10年後の俺、見てるー? 平和にやってますか?』
『あのーお二人さん。楽しそうなとこすみませんが、インタビューの途中だから巻きでお願いしますね。まだ伺いたい話あるんで』
『あ、木田ごめん。早めに言うわ。えっと、2029年の俺、元気ですか。今隣に夏がいると思いますが、今でも猟奇的な彼女なのでしょうか? 髪をむしられてますか? 腕を噛まれたりしてますか? だとしたらごめんなさい。もう少し年相応の温和な性格に直そうと試みている途中なのですが、失敗したんでしょうね』
『なによ!』
『ごめんて! ビデオ撮ってるのに殴るな!……俺たちはほんとバカですよね。こうして殴られて怒鳴られて尻に敷かれても、23年間も考える時間があっても、それでも夏と結婚したんですから。一時期は夏と連絡すら取らなかった時期もあったのに、夏を好きになるのを止めようとしたこともあったのに、それでも夏と結婚したわけですよね。もうこれはそういう縁なんだと思います。だからきっと、何十年経っても通常運転で仲良くやってることでしょう。そう信じてます。どうぞ2029年でも、お幸せに!』
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