2・6 2019年某日その3

『では続いての質問です。お二人にとって忘れられない思い出はなんですか? 新郎さんからお答えください』


『俺は断然、夏に告白した日ですね。何年前だっけなあ……? 多分人生で一番緊張した日です。今でも時々その日のこと夢に見るんですよ』


『懐かしい……。私も覚えてる。すっごく驚いたもん。まさかあんなタイミングで告白されるなんて思わなかったし、冗談かと思っちゃった』


『その時新婦さんはなんて返事をしたんですか?』


『あーその時実は……いたっ! え、なに!?』


『いや、虫がいたからさ。咄嗟に叩いちゃった』


『え、嘘!? 虫潰したの!? 服汚れるじゃん! やめてよ!』


『ごめんごめん。でも逃したみたい。どっか行った』


『そっか……ならよかった。あ、ごめんなさい。質問続けてください』


『えっと、じゃあ新婦さんにとっての一番の思い出は何ですか?』


『私は……そうですね、あれかなあ。二人で花火を見た時! いつだったかなあ。二人で花火を見たんですけどね、ちょっとドキドキしたんですよ。二人きりで花火見るなんて初めてだったし。まぁ一緒に見たのはちょっとの間だったんですけど、でもなんかすごく記憶に残ってるんですよね』


『あれ? それってもしかして、俺がめちゃくちゃ走った時のやつ?』


『そうそう。もともとこの人、私と一緒に花火見る予定じゃなかったんですけどね。いろいろあって、わざわざ駆けつけてきてくれたんですよ。なんかその時は感動しちゃいました。だから記憶に残ってるのかも』


『俺はあんまりその日のことは思い出したくない』


『なんでよ』


『なんでもだよ!』


『落ち着いてくださーい。新婦さんはその時はまだ新郎さんのこと好きじゃなかったんですか? そもそも幼馴染ではなく、男として意識した瞬間はあったんですか?』


『えっと……その時は、全然自覚がなかったです。さっきも言ったけど、幼馴染とか家族として見てたから。でも今思うと、ほんの少し好きだったかもしれない。幼馴染としては普通に好きだったんですよ。でもなんか、幼馴染としての好きと、恋愛としての好きの区別が曖昧だったし……やんわり好きだったかも、って感じです。自覚なかったんですけどね』


『青春ですねぇ』 


『俺としては、もっと早く自覚してほしかったけどね。だってもっと早く両思いだって分かってたら、こんな遠回りしなくて済んだわけだし。俺、当時めちゃくちゃ悩んでたんですよ? あの時の苦しみを返してほしい』


『なに? 私が悪いって言いたいわけ?』 


『いや、そんなことないけど……』


『こうやって今は結婚できたんだからいいでしょ? 終わりよければ全てよしって言うし、散々悩んだのもいい思い出じゃん。ポジティブに考えましょ』


『……まあ、そういうことにしておくわ。木田、次の質問お願い』

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