第2話 教師、夢破れて
生沢徹子は1944年、北海道のとある海沿いの村落に生まれた。父の
「徹子の教え方はなまらわかりやすいべ」
「先生になればいいっしょ」
周囲からのそんな声もあって次第に徹子は教師への道を歩もうという気持ちが芽生えてきた。
そして高校を卒業すると札幌へと向かい専門学校へ進学、高校の現代文の教員免許を取得すると教師を目指し札幌の高校の教員採用試験へと望んだのだが、そこで徹子が受けたのは屈辱ともいえる仕打ちだった。
「君みたいな女の子は根性がないからすぐにやめるんだよね」
「女性の社会進出だか知らないけどさ、口ではいいこというだけだろ?」
「女の幸せは結婚だよ、女が仕事のことなんて口にしちゃダメさ」
どこの高校の面接官も同じようなことを言ってきた。
ある高校では「教師は力仕事なんだから女の子には難しいよ」と言われたのが悔しかったので「でも私、
「君のその方言何?札幌の人間はそんな方言もう使わないよ、ダサいなぁ」
面接官が半笑いで答えた。
「それに君の見た目、冴えないというかなんというか威厳が感じられないんだよ」
もう一人の面接官が呟くと、他の面接官たちから笑い声が聞こえた。
たしかに徹子はおかっぱ頭に眼鏡という決して見栄えのいい恰好ではなかった。地元では特に気にしていなかったが北海道の中心地の札幌では野暮ったいという評価しかされなかったのだ。
「教師なんて諦めて田舎に帰りなよ、そのほうが幸せだよ」
結局、徹子はどこの高校からも採用されることなく教師の道を断念して実家へと帰ることになった。帰路へ向かう汽車の中で徹子は何度も泣いていた。女だからダメ、方言があるからダメ、田舎者だからダメ、頑張って教員免許を取得したのにそれだけの理由で嘲笑されたのが悔しいし悲しかった。
それから数年が経ち、25歳になった1969年の3月、地元で母とともに農家の手伝いをしていた徹子はその日も仕事を終えて家へ帰ってきた。玄関に入るとそこには両親の長靴や下駄に混じって見覚えのない靴を見つけた。黒いエナメルにメタル製のバックル、都会の女の子に人気のパンプスとかいう靴だが、この辺りでこんな靴を履くような人間はいない。茶の間のほうから笑い声が聞こえてくるのに気付いた。
「こ、この声は……」
聞き覚えのある声の正体を確認すべく徹子は大急ぎで長靴を脱ぎ茶の間へ向かう。
襖を開けて徹子の視界に入ってきたのは両親と共に食卓を囲む一人の女だった。彼女は家族ではない。しかし、徹子にとっては家族同然の存在だった人物だ。
「東子ちゃん、帰ってきてたべか?!」
田舎教師と都会委員長 エセ物書きのノエル @noelnovels
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