駅前で「〇〇は日本から出て行け」と主張するデモ隊を見かけた話
me
第1話
「いま着いた」
そんな短い文章を友人のラインに送り、僕は車から降りる。そしてそのまま駅近くの駐車場を後にする。
そうして数分歩き駅前までたどり着いた僕だったが、そこで、何十人かの集団が横断幕を掲げてなにかを主張している姿が目に入った。
普段電車を利用することが少ないので、こういった駅前でのデモ活動を実際に見るのは初めてだ。
あまり関心がないので気にせず通り過ぎようとしたのだが、横断幕に書かれた「〜は日本から出て行け」という言葉が偶然にも目に入ってしまった。
(せっかく遊びに行く前なのに、嫌な気持ちにさせられる......)
いったい何に対するデモなのだろう。僕は横断幕が全部見える位置に来た時、横目でその様子を伺った。
───────────────────────
嫌いな食べ物の話で「それ食べられないの人生の半分損してるよ〜」とか言ってくる人は日本から出て行け
───────────────────────
「「たった一つの食べ物が人生の半分を占めてるヤツの方が、よっぽど人生損してるだろー!!」」
「政治的なやつじゃないの??????」
僕は絶句した。確かにコレを言われたら押し付けがましくて嫌な気分にはなるけど。
わざわざ休みの日に駅前で主張するほどのことか? こんなどうでも良い主張を何時間も続けるつもりなのか?
そう思いつつ様子を伺っていると、なんとデモ隊が持つ横断幕がめくれ、その後ろから二枚目の、別の言葉が書かれた横断幕が姿を現した。
分厚い横断幕だなとは感じていたが、何枚も持っていたらしい。 僕はその新しい横断幕へと視線を向けた。
───────────────────────
要件を言わずに暇かどうか聞いてくる人は日本から出て行け
───────────────────────
「「暇かどうかは、内容によって変わるわー!」」
「確かに気持ちは分かるけど......」
こういう誘い方の時って大体面倒な用事だから、無理って答えた方が良いんだよな。いや、でも、楽しそうな要件かも知れないと思うと安易に断れないよな......
そんなことを考えていると、早くもデモ隊の横断幕がめくれる。ペースが早いな。
───────────────────────
くしゃみの音が異常にデカい人は日本から出て行け
───────────────────────
「「鼓膜破る気か〜!?」」
「わざとじゃないんだから、許してあげてよ」
確かにスタングレネードぐらいくしゃみがうるさい人はいる。なぜか必ず、職場に一人はいる。どういう原理だろう。そういう枠の採用があるの? くしゃみデカ採用?
そんな、横断幕の内容に想いを巡らせている間に、早くも横断幕には別の文章が掲げられる。
───────────────────────
コンビニのトイレの床が掃除したばかりでビチャビチャなのめっちゃ嫌だよね
───────────────────────
「「長ズボンのすそが濡れるんだよねー!!」」
「感想じゃねーか」
確かに、トイレの床が濡れてると嫌な気持ちにはなる。そういうトイレは薄暗くて寒いし、便座は冷たいし、ウォシュレットはないし、トイレットペーパーは一重の薄いやつだし、蛇口からは冷水しか出ない。
と、考えているうち、再び横断幕がめくられる。
───────────────────────
バズったツイートに画像でしかリプライしない人は日本から出て行け
───────────────────────
「「日本語喋れないのかー?」」
「そういう人いるけど」
確かに、画像一枚送ってコミュニケーションを取ろうとする人は最近よく見かける。
赤の他人に気安く話しかける時点で失礼なのに、それが文字ではなく他人の創作物そのままだなんて、もはや言葉すら話せない時点でそいつは人ではなく、
これはお坊さんに聞いた話だが、漫画のキャラが「何言ってんだ?」みたいなセリフを言っているコマを一コマ送りつけて他人を論破した気になっているネット民は、死後必ず最も苦しい地獄に落ちて永遠に身を焼かれもがき苦しみ続けるらしい。助かる方法はないそうです。残念。
と、そんなことを軽く考えていると、再び横断幕がめくられる。
───────────────────────
「こんなお坊さんは嫌だ」どんなお坊さん?
───────────────────────
───────────────────────
ご遺体のことをずっと「死骸」って言ってる
───────────────────────
「なんで大喜利始まったんだ」
事前にお題を考えて、事前に回答を用意したらもう大喜利じゃないだろ。
という、そんな文句も考え終わる間もなく、気づくと横断幕がめくられている。なんかペースが早くなって来た。僕は新しい横断幕へと目を向けた。
───────────────────────
男なのに萌え袖の人は日本から出て行け
───────────────────────
「「これはマジ!」」
「お前が嫌いなだけじゃねーか」
なにがマジだよ。そう思い、僕は萌え袖の男が女に甘える様子を想像した。
「これはマジ」
マジでした。
横断幕のめくられるペースは段々と調子付き、そんな結論に僕が至った頃にはもう別の文章が現れている。
───────────────────────
アスファルトにたまにいる、真っ赤でちっちゃい虫、なに?
───────────────────────
「「なにー!!!???」」
「自分で調べろよ」
たしかに、洗濯物干すときベランダで見かけたりするけど。
あとは本にいる小さい虫もなに? って思う。
「「あと! 髪の毛にいる小さい虫もなに!!??」」
「それはシラミだ」
皮膚科に行ってくれ。
そしてもちろん、疑問に答えるものは誰もおらず、そのまま横断幕はめくられる。
───────────────────────
おでこにセンサー当てて体温測る体温計、拳銃を額に当てられてるみたいでちょっと居心地悪いよね
───────────────────────
「「撃たれるかと思うだろー!!」」
「殺し屋やってる?」
銃社会じゃない日本で抱く感想ではないと思う。とはいえ、正直自分もちょっと「怖いな」と感じてしまった経験はあるのであながち否定もできない。
デモの内容にわずかに同意したところで、また横断幕がめくられる。
───────────────────────
俺に「へちまで体洗ってそう」って言ってきたあの女、日本から出て行け......
───────────────────────
「「クソが!!」」
「個人的な恨みだろこれ」
確かに褒め言葉には聞こえないけど、こんなこと言われるってどんなヤツなんだお前は。思わずへちまで体を洗ってそうな人がいないか探そうとデモ隊に目を向けるが、早くもその頃にはまた横断幕がめくられていた。
───────────────────────
ハイチオールCってシミは消せてもにくしみは消せないんだね......
───────────────────────
「「助けて〜!」」
「助けてってなんだよ」
このデモも、憎しみを少しでも減らすための必死の抵抗なのだろうか。飲んで憎しみが消える薬はたぶん違法薬物しかないので、バファリンとか飲んで、なんとかしてほしい。
突然、ポケットのスマホが震えた。見ると、友達から「OK!」というLINEの返事が来ていた。先ほど送った「いま着いた」への返信だった。
「やべっ、電車乗らなきゃ」
デモ隊をまだまだ見ていたい気持ちはあったが、どうやらタイムオーバーだ。後ろ髪を引かれる思いで、僕は駅の中へと小走りで走った。
駅前で「〇〇は日本から出て行け」と主張するデモ隊を見かけた話 me @me2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます