次の情報源

「ふむ。じゃあ次は追手についてだ。カラム達の他に追手はいるのか?」


「追手として動いているかはわからんが、俺達の他にも警護依頼を受けている傭兵はいた。

 依頼を受けたのは俺達以外に三人。悪いが俺の知っている傭兵じゃないんで、実力は知らない。もしも俺達と同様に誘拐犯追跡を指示されたのなら、少なくともあと三人の傭兵が、お前達を探しているだろう。まぁここに来ていないということは、他の場所に派遣されたか指示されていないかだと思うが……」


 確かに監視している者がいたのなら、カラム達同様に王女の下へ送り込んでくるだろう。

 戦力は随時投入よりもまとめて動かすのが基本だ。

 それをしていないということは別件で動いていると見るべきか。

 とりあえずライカが連絡役らしき人間を始末してくれたので、すぐに次の追手が来る心配は無さそうだ。


「では騎士団の動きは?」


「それは知らない。俺やミラは王都を出る時に騎士団が編成されているのを見ていない」


「……ふむ。これで少しは見えてきたな」


「ええ。当初考えた通り、騎士団に捜索させるのではなく傭兵、それもかなりの実力者に絞って派遣したみたいですね。クロさんは飛竜の姿になっていたので、飛竜討伐経験があり、ランカーでもあるカラムさん達だけで十分と判断したのかもしれません」


 騎士団については予想通りといったところか。

 カラム達は騎士団との訓練で複数人を同時に相手をして叩きのめすほどの使い手だ。

 質が落ちる上に足手まといになる騎士団を追跡に回すよりも、カラム達だけを向かわせる方が効率的だ。


「あとはベンゼ侯爵だが……侯爵が黒幕とは考えにくいか……せめて少しでも横の繋がりがわかれば良いのだが……」


 顎に手を当てて考えるフィズに全員が注目する。

 フィズの言う通り、ベンゼ侯爵とやらが推進派のどの程度の立場にあるかがわかれば次の動きが決められそうだが……それを知るにはまだ情報が足りない。

 ましてや黒幕と断定するは性急だろう。


「ベンゼ家はヴェルタ王国の古株で、財務管理を一任されていますが、それだけですよね。発言力も強いわけではありませんし、推進派を纏め上げるには少し役不足に思えます……」


「まだ背後に大物がいるということ……だな」


「えーっと……ベンゼ侯爵って会食とか夜会とかで見たことはあるけど、影が薄かったんだよねぇ……よく一緒にいる人いたっけ?」


「うーん……どうだったでしょう。領地も遠いですし、それ程頻繁に会うという事もありませんでしたよね。私も挨拶回り以外で会話したこともないし……お父さん達も何か言っていたということは無かったと思いますけど」


 過去の記憶から必死にベンゼ侯爵のことを思い出そうと、スイとレアが眉間に皺を寄せて唸る。

 しかしあまり印象に残っていないのか、暫く待っても思い出せる様子は無い。


 立場のよくわからないベンゼ侯爵を取り押さえに行ったとしても、仮に下っ端だったらトカゲの尻尾切りで切り捨てられてしまう可能性もある。

 動いた時点でこちらの情報は向こうに知られてしまうので、それは悪手だ。


 次の一手は重要になる。

 動けば王女が快復したということは知れ渡るだろう。

 その一手で推進派のトップを押さえるか、開戦に向けての流れを断ち切ることができなければ、首謀者に逃げられてしまうかもしれない。


 スイ達は一向にベンゼ侯爵についてを思い出せないようだし、王女もまだ目覚めていない。

 推進派の全貌はまだ見えてこない。

 王女が目覚めればいくらか進展はしそうである。

 ならここは結論を急がずに、少しでも情報集めを優先すべきか。


「……じゃあ先にライカが始末してくれた人間の死体の確認をしよう。森の中に放置してあるみたいだし、そこからも何かわかるかもしれない」


 そう言うと女性陣の半分が明らかに嫌そうな顔をした。

 嫌そうな顔をしたのはスイとレア、そしてアンナだ。

 メリエとフィズ、ライカはわかったというように首肯する。


「わ、私は遠慮したいかなーって……」


「す、すみません。私も……」


 スイとレアは両手を挙げて降参のポーズを作る。

 まぁ年若い少女に死体検分は酷か。

 気持ちはわからなくもない。

 自分もできれば遠慮願いたいが、そうも言っていられない。


 アンナは特に嫌だとは言わなかったが、表情が拒否したいと訴えている。

 表情は毅然としているが目が泣きそうだ。

 いくつか危険な橋を渡ってきたアンナだが、もとは荒事に無縁の少女。


 元からハンターを目指そうとしていたわけでもないので、血腥ちなまぐさいことに触れるのに忌避感が強いのは当然だろう。

 誰だって積極的にそんなことをしたいと思う者はいないだろうし。

 まぁ今後本腰を入れて戦う者を目指すのなら、いずれは通らなければならない道だが、今は無理強いする必要もないか。


「……あー、じゃあ僕とライカとフィズさんで見てくるよ。他のみんなはここで待ってて」


「ほっ……あ! えっと……お願いします。セリス様は任せて下さい」


「わかった。ポロもいることだし何も無いとは思うが、油断はしないようにしておく」


 スイは胸を撫で下ろしたが、しまったというようにすぐ取り繕った。

 そこまであからさまではなかったが、レアとアンナも同じような感じだ。


 今なら守りを万全にしておけば分かれても問題ないだろう。

 念のためにメリエとポロにはこの場に残ってもらい、護衛を頼むことにする。

 ついてきてしまった近衛騎士や、森の魔物のこともあるので、スイ達だけは危険だ。

 やはり戦える誰かが残っていなくてはならない。


「カラムとミラは付いて来て」


「……わかった」


 カラムには死体の確認のために付いてきてもらう必要がある。

 精霊魔法で傷も癒えているし、少し歩くくらいなら問題は無いはずだ。

 カラムもそうなるということは予想していたようで、特に何か言うでもなく動く。

 相変わらず蔦で身体を縛られているが、さっきまでの苦しそうな様子も無く、ミラの支え無しに立ち上がった。


「じゃあライカ、案内お願い」


「いいぞ」


 スイ達を残し、ライカの後に続いて木々が密集している森の中へと分け入った。

 ライカは鬱蒼とした森でも慣れた足取りでスイスイと歩いていく。

 足取り軽く歩くと、ライカの狐尻尾がフリフリと揺れて何とも可愛らしい。

 本性が狐の幻獣だし、森の中を歩くなどお手の物ということだろう。

 来た時と同じように竜の身体だとバキボキと木をへし折りながら進むことになってしまうが、人間の姿になるわけにもいかないので我慢する。


 今人間の姿になっては周囲の気配が探れないし、咄嗟の時に即座に星術を起動することができなくなる。

 音や通った跡が原因で場所を探られることと、襲撃された時のことを天秤にかけると、やはり襲撃された時のことに重きを置くべきだと判断したのでそのままにしたのだった。


 ライカを先頭にしてフィズ、カラム、ミラ、自分の順に、道なき道を進んでいく。

 気を遣う必要があった王女もいないので、それ程時間もかからずにさっきまで戦いを繰り広げていた開けた場所まで戻ってきた。

 周囲には戦いの爪痕と大きな水溜りが残っている。


「近いからその二人が来た時に背後にいた奴の方から行くか」


 そう言ってライカはカラム達が現れた方に進む。

 ガサガサバキバキと少し進んだところに、それはあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る