命の重み

「おい。待ちな」


 小道に入って少し進むと思惑通り誘いに乗ってきたのか、後ろから声をかけられる。

 薄暗く人気の少ない道に入ったことで動いてきたようだ。

 声を聞いて振り向くとギルドの建物でメリエを誘っていたあのハンター三人組の一人だった。

 ということは古竜の自分に関する相手ではなく、メリエに関ることだろう。


「……何か御用ですか?」


 剣呑な雰囲気を纏うその様子、表情、さっきのギルドでのことから、何となく予想はつくが一応確認する。


「……俺達は欲深いんでね。欲しいと思ったものは必ず手に入れる。折角穏便に済ませようかとも思っていたんだが、連れがいるんじゃしょうがないよな。別に殺しはしないが、お前には腕か足の一本を置いてってもらうぜ。お前さんが再起不能になればお前らのチームは解散するしかないからな。安心しろ、女は二人とも俺らが面倒を見てやるよ」


 そう言うと腰から短剣を引き抜く。

 やっぱりか。

 何とまあ強引な手段に出たものだが、こんなことがまかり通ってしまう世界でもあるということだ。


 しかしこれは丁度いい。

 こちらもこのハンター連中に確認したいことがあったのだ。

 手間が省けたと思っておこう。


 ただ俺達と言ってはいるが他の二人が見当たらない。

 まさかメリエ達の方を付けているんだろうか。

 一応ギルドからこっちは警戒していたのだが、自分が付けられてると感じるまでは怪しい気配は捉えられなかった。

 一応襲われても大丈夫なようにアーティファクトは常時つけていてもらっているが、やはり心配だ。


「あなた一人なら簡単に逃げられますけど……」


「ちゃんと後ろにいるぜ?」


「!?」


 背後から唐突に声が聞こえ、慌てて振り返る。

 夕暮れ時になり、日中でも薄暗い建物の石壁に挟まれた通路は更に闇が濃くなっている。

 そのわだかまった影から、嫌な嗤いを浮かべた残りの二人がぬるりと出てきた。


 進行方向から来たということは先回りされたということだ。

 つまりこちらの行動を観察し予測していたということ。

 完全にそのつもりで尾行していたということだろう。


 しかし声が聞こえるまで全く気配を感じ取れなかった。

 これが実力で気配を断っていたのだとしたら、かなりの使い手だというメリエの話は本当なのだろう。

 すぐに動けるよう体を緊張させながら、挟み撃ちのこの状況をどうするかを考える。


「お前さん、ケインが尾行していたことに気付いていたな? それなりの実力があるようだが、さすがに俺達二人には気付いていなかったようだな」


 気配を消さず尾行する人間に注意を惹かせつつ、気配を完全に消せる二人が様子を窺い確実に追い込む。

 狩りハントが上手い。

 やはり経験を積んだ者達のようだ。

 これで誠実なら大成できる器だろうに、もったいないことだ。

 そんなどうでもいいことを考えつつ現状を分析する。


 隘路あいろでの挟み撃ち。

 能力を隠したままで何事もなく逃げ出すのは難しい。

 賑わっている時間帯だから大声を出しても通りの喧騒にかき消されてしまうだろう。


 しかし自分の方に三人とも来てくれたのは助かった。

 アンナとメリエの方にも誰か行っていたら気になって集中できなくなる。

 そして疑問に感じていたことを確認するチャンスでもある。


「あなた方は、どうしてメリエの疾竜のことを知っていたんです?」


「ハッ。この状況で余計なことを考える余裕があるとはな。理解していないか楽観しているか……まぁいい。あの女がギルドで騒いでいたのを聞いていただけだ。従魔に毒を盛られるとは気の毒に思ったが、こちらにはそれが好都合だったんで勧誘の材料にさせてもらったんだよ」


 ……間違い無さそうだ。

 よもやここまであっさりと引っかかるとは思わなかった。

 男の返答を聞くや否や、星術で身体強化をかける。

 そう。

 確認したかったこととはこのことだ。


 こいつらはメリエを勧誘している際に『虎の子の疾竜がいなくて困っているだろう』と言った。

 メリエがポロが倒れたことで治療士を探すため、ギルドで騒いでいたのは事実。

 確かにその時に現場に居合わせれば状況を察することはできただろう。


 だがメリエは古竜の自分が【伝想】でポロの状態を確認するまでは病だと思っていた。

 治療士を探す過程でも毒に冒されたかもしれないということは口にしていないはず。

 それは当然。

 これはポロの口から確認するまでは、ポロ以外には毒を飲ませた張本人しか知らない事実なのだから。


 こいつらがやったという確証はなかったが、こういった手合いの人間ではないかということはある程度目星を付けていた。

 当初は犯人探しをするつもりでいたのだが、緊急依頼の件もあり有耶無耶になってしまっていた。

 だが仲間の命を狙っている輩がいるかもしれないのに放っておくというのは得策ではない。

 命の危険が身近にある世界では不安の芽は摘んでおく方がいいに決まっている。


 そこでいくつか可能性を想定した。

 まず大雑把に分けて考えた場合、犯人はメリエやポロと関わりのある人物かそうでない人物かのどちらか。

 だが、関わりの無い人物である可能性はかなり低い。


 この世界では毒を手に入れるのは割りと簡単だが、竜に効く程の猛毒は高価で希少だそうだ。

 わざわざ高いお金と手間をかけて毒を手に入れ、無関係なポロに飲ませる理由が無い。

 知らず知らずの内に人から恨まれるようなことをしていたらその限りではないが、人との生活に慣れているポロが他者を傷つけたりはしていないのは確認済みだ。


 本当に毒が竜に効くかどうかを試したのだろうかとも考えたが、町の中で人を殺せる程の猛毒を人や従魔に使用したら、殺人などの犯罪と同様に騎士団が捜査に出向き、捕まれば極刑も在り得るという話だった。

 そこまでの危険を冒して高価な薬をポロに使うとは考え難い。

 薬を試したいのであれば草原にいる竜種でも探せばいいだけの話だ。


 もし疾竜という存在そのものに殺したいほどの恨みがあって行動したのならば、ポロが生き延びた場合には再度仕掛けてくるはず。

 しかし今までメリエ達が警戒していてそれらしいこともなかった。


 それ以外の理由でメリエ達と全く関わりのない人間が犯人だとしたらもう運に任せる他に探しようがない。

 気持ち悪いことではあるが、突発的な事故であるなら今後の危険はないと判断できるのでそれはそれでいい。


 では関わりがある人物だった場合を考えてみる。

 メリエはこの町に来たのは竜騒動があった最近であるし、滞在している時間も短い。

 それにメリエの性格上、メリエが原因で誰かに恨みを買ったりするようなことは無いだろうと思うし、本人もこれまで誰かに命を狙われるほどの恨みを買ったことなどないと断言していた。


 こちらも短い付き合いだがそれくらいのことを理解できる程には親しくなっている。

 言いがかりや逆恨みに関しては楽観できないが、少なくともアルデルに来てからはそういったことも無いそうだった。


 それを考えると町の外からわざわざメリエを追ってきてまでポロに毒を飲ませるという可能性はほぼ無いだろう。

 そんなことをするなら人目の無い町の外で何か仕掛ける方が自身の犯行とばれ難くなるし、証拠も隠しやすい。


 そうすると残るのはメリエがこの町で多く関わっている人間だ。

 最も考えられるのがギルドと、依頼に関わった人間になるだろう。

 それ以外で恨みを買っているという可能性もゼロではないのだろうが、確率から考えれば最も高いのはその二つだ。


 依頼関係の人間に関しては自分と一緒に行った緊急依頼と、滞在費を稼ぐために受けて装備を破損した依頼の二つだけだし、メリエに聞くと依頼も関係なさそうだった。

 なので依頼関係の人間も除外する。

 となると残る可能性で一番在り得そうなのはギルド関係の人間ということになる。


 しかし、ここから先の手がかりは無かった。

 ではどうするか。

 脅威を排除するために取りえる行動は、こちらから仕掛けるか、向こうが仕掛けてくるのを待つかになるが、情報も証拠も無い状況でこちらから仕掛けるのは殆ど不可能だ。

 となると向こうがもう一度行動を起こさなければこちらから何かをすることは難しいということになる。


 何かいい手は無いものかを考えていた所に、あのギルドでの騒動。

 もしやとは思ったが、つっかかってくるだけで犯人だとは言えない。

 しかし、あの時にこの連中が口にした疾竜が死んでいると言わんばかりのあの発言で、今試す価値はあると確信した。


 メリエを無理矢理にでも仲間に引き込みたいという男達の言葉と、ポロと犯人しか知り得ない毒を飲ませたという事実。

 更にはこうして闇討ちまがいの行動を躊躇い無く実行する自己中心的な集団。

 試しにカマをかけたら、案の定。


「……どうしてお前達は疾竜が毒を飲まされたことを知っている?」


「……ああ?」


「メリエは疾竜を治療してもらうまで毒によるものだったことは知らず病だと思っていた。治療士を探す過程でも毒とは一切口にしていない。疾竜が毒を飲まされたということを知っているのは治療をした人間と毒を飲ませた人間だけだ」


「……テメェ」


 男が目に怒りを浮かべて睨む。

 否定しない。

 つまり事実だということ。


 ……何とも醜悪な連中だ。

 身勝手な自己満足のために、他人が命を賭けられるほどに大切に想う家族の命を奪おうとするなんて信じられなかった。

 今回はたまたま自分がいたから救うことができたが、居合わせなければポロは命を落としていたということだ。

 こんな下らない、ちっぽけな欲望を満たすための犠牲になっていたかもしれないのだ。


 そしてまた平気で他者に対して重大な被害を与えようとしている。

 生半可な報いでは容赦できない。

 大切なものの、命の重みというものをその身で知ってもらうとしよう。


 警邏に毒を盛った犯人として突き出したいとも思ったが、証拠が無いのでそれは無理だろう。

 この世界には写真などないし、犯罪は確たる物的証拠か現行犯でもなければ立証は難しい。

 しかし逆に考えればこの場でこの連中を半殺しにしたとしても、目撃者を出さず証拠も残さなければ向こうも自分を訴えることはできないということだ。


 仮に何かの魔法などで犯人を知ることができるのだとすれば、向こうが毒を盛って更には闇討ちまでしようとしてきたということを立証できるので正当防衛が成り立つ。


 空気が更に剣呑なものへと変わる。

 相手が発する害意と、自分が発する怒気で周囲に重苦しい空気が漂う。


「こいつ、どこで嗅ぎ付けやがったんだ? まぁいい。予定変更だ。知られたからにはここで始末するぞ」


 三人の目つきが弱者をいたぶる愉悦の目から獲物を狙う獣の目に変わる。

 それぞれが短剣を抜いて腰を落とし身構える。

 この狭い通路では立派な剣も槍も役に立たない。

 しかし小回りが利き、毒などの仕込みもしやすく、素早く攻撃できる短剣は有効だ。

 その場の状況を加味して武器の取捨選択を行うことも抜かりない。


「丸腰で挟み撃ち。ちったぁ使えるみたいだが、この状況で逃げられると思うなよ?」


 逃げるつもりなど毛頭無い。

 ここでこいつらには二度と手を出さないようにお灸をすえてやらなければならない。

 既に星術で身体強化はしてあるし、いくら実力者といっても余程のことが無ければ確実に後の先は取れると思っているので、別に隙を晒していても気にしない。


 降りかかる火の粉を払うことに迷いが生じないくらいにはこの世界に慣れてきている。

 無闇に人を傷つける力を振るおうとは思わないが、自分や知人を害する連中を排除することに躊躇いはない。


 特に装備も無く、ただ佇んでいる自分に対し、武装し隙を見せず取り囲む男達。

 傍から見れば自分に勝ち目は薄い。

 相手もそれは疑っていないだろう。

 だが思い違いをしている。


 身構える男達を尻目に、身体強化を施した竜の力で先手を打つ。

 ビギッという不快な破砕音と共に地面に亀裂が入る程の力で地を蹴り、背後から付けてきていた男へと一瞬で間合いを詰める。


「……うぁ!?」


 いつでも動けるようにと構えていた男だったが、初めからそこにいたかのように、一瞬で目の前に現れた自分に対応できず、目を見開いて驚く。

 男が動く前に男の両腕を掴み、肘の辺りを一気に握り潰す。

 骨や筋、そして腱を破壊され、男の両腕は糸の切れたマリオネットの腕のようにだらりと垂れ下がった。


「がっ! あがぁあああ!」


「ケイン!? こいつ!」


 先回りしていた男二人はすぐに動き出し、短剣を腰だめに構えて向かってくる。

 二人いっぺんにこの狭い通路を向かってくることは無理だろうと思ったが、予想に反し、一人は建物の石壁を蹴って立体機動で向かってきた。


 リーダー格の男は通路をそのまま走って短剣を突き出し、もう一人は器用に石壁を蹴りながら頭上から短剣を投げつけてくる。

 動きは速い。

 狭い通路でも仲間の行動を考え、最適の挙動を選ぶだけの思考力もある。

 しかし、それだけだ。


 以前盗賊相手に試した斥力を発生させる術を使い、飛んでくる短剣の勢いを殺す。

 遠ざけようとする力が働いたことで素人でも捕れるほどに速度が落ちた短剣の柄を掴み取ると、時間差を利用して仲間が投げた短剣の後に突き込んでこようとしていたリーダー格の男に投げつける。


「!! チィ!」


 男は正確に軌道を読み、持っていた短剣で飛んできた短剣を弾き落とす。

 所詮は素人の投擲なので簡単に防がれてしまったが、それでいい。

 投擲した短剣に気を惹き付け、少し足止めできればいい程度のものだ。


 その僅かに生まれた時間で一気にリーダー格の男の頭上を飛び越えると、壁を蹴り短剣を投げて着地していた男の眼前に下り立つ。

 慌てて立ち上がり、身構えようとした男の膝に強烈な蹴りをお見舞いする。


 竜の力で繰り出された蹴撃によって骨が砕ける嫌な音を響かせながら、男の両足を破壊した。

 両膝を砕かれた男は地面に崩れ落ち、一瞬何が起こったのかわからないような顔を浮かべる。

 が、すぐに痛みを思い出したように顔を顰めて悲鳴を上げた。


「あっ! あああっ! 足がぁ!」


 特に問題なく二人を無力化する。

 どのくらいの実力なのかはわからないが、ギルドで評価の高いとされる人間でも魔法などが無ければ無手で十分圧倒できることがわかった。


 大きな竜の肉体を支える程の強靭な骨格と筋肉、そして強化された動体視力であれば多少の実力者でも動きを確認してから行動しても対処可能だ。

 スローモーションとまではいかないが、それなりにゆっくりな動きに見えていた。


 痛い思いをした二人は思い知ることだろう。

 両手、両足が使えない状態で自分の命を維持することの大変さを。


 食事、排泄、移動など生きるために行わなければいけない行動は多岐に渡る。

 現代日本のように医療技術や介護設備が発達しているならいいが、ここはそうではない。

 その要となる手足を失うことがどんなに大変か、自分の命を維持することがどんなに難しいか、こいつらが不当に奪おうとした命の重みを、自分の命で実感できるはずだ。


 まぁ治療士がいるのだからすぐに治してしまうことも考えたが、怪我を治療するにしてもお金がかかるという話だし、かなりの苦痛を味わわせた。

 それだけでもいい薬にはなるだろう。


 さて。

 残ったリーダー格の男だが、こちらは彼我の実力差を悟ったのか脂汗を浮かべながら腰の剣に手をかけている。

 だが、この男には怪我をさせるわけにはいかない。

 通路で転がっている二人の介助をしてもらわなければならないのだ。

 それをすればこの男も、知ることができるだろう。


 自身の命を握られる恐怖を知ることで自分の命の重みを実感し、仲間の介助の苦労を知ることで他者の命の重みを学ばせる。

 自分たちの卑小な欲望のために、無意味に命を刈り取ろうとするこの連中には丁度いい勉強になるだろう。


 だがこの手の輩だ。

 仲間を見捨てるということも考えられる。

 なので楔を打っておくことにした。


「仕掛けてきたのはそっちだ。なので謝罪はしない。大人しく投降して罪を償う気があるならこのまま詰め所に連れて行くけど?」


「はっはははは……そうは行くかよ!」


 乾いた笑いを浮かべつつも戦意を失わない目で仕掛けてこようとしている。

 ここで引き下がるなら見逃そうかとも思ったのだが、予想はしていたので問題は無い。

 次の行動に移るだけだ。

 竜の威圧を解放し、それと共に鋭い視線を男に向ける。


「……ッ!? あ……」


 浮浪者のような出で立ちの自分が突然凄まじい気配を放ったことで、男は立っているだけなのに今までより多い脂汗を流して呼吸が荒くなる。

 威圧感を放ちながら静かに間合いを詰めていく。

 ゆっくりと男の剣の間合いの中にまで入り込むが、男は動かない。


 いや、動けないのだろう。

 物理的な圧迫感を伴うほどの、本気の竜の威嚇を受けているのだ。

 男の顔には明確な恐怖の色が浮かんでいる。

 動けない男の前で止まると、先程投げつけて防がれた短剣を拾い上げ、静かに男の首筋に翳して告げる。


「な……なん、なんだ……おまえは……?」


「このまま静かに首を切り裂けば、それであなたは死ぬ。今あなたが感じているのは、あなたが奪おうとした命が感じていたものと同じだ」


 短剣の切っ先が僅かに男の首の皮膚を裂き、血が一筋滴った。

 冷たい視線で見据えながら男に言い聞かせる。

 歯を食い縛って恐怖に震える男は硬直したまま。


「少しは命の重みが理解できたか? 命を脅かされる者の恐怖を理解できたか? ……今回は見逃しますが、条件をつけます。そこで転がっている二人の面倒を見ること。今後下らない理由で他者を傷つけないこと。呑めないのであれば全員、ここで、殺します」


 恐怖心は対象の行動を縛ることができる最も原始的で根源的なものの一つだ。

 恐怖から逃れるために言うことを聞くしかない状況を作り出す。

 男は呼吸を乱しながらも辛うじて頷いた。


「さっさと連れて行って治療してあげて下さい」


 最後に一睨みして男を解放する。

 男から視線を外し、威嚇していた気配も収める。

 これで暫くは横暴な行動を自重してくれるといいのだが。


 男は慌てて痛みに呻く二人を支えて起こし、逃げ去っていった。

 路地に静寂が訪れ、通りの方から聞こえる人々の賑わいが耳を擽る。

 通路の両脇の建物で僅かにしか見えない空は既に暗く、星が瞬いている。

 溜め息を一つ吐くと、メリエにこのことを伝えるかどうかを考えながら宿に向かうことにした。





「どうだ?」


「……間違いありませんね。この町の中です」


「ふむ。ここは一度調べたはずだがな」


「ですが、私の石に間違いはありませんよ。しかも今回の気配はかなり強いものです。仲間だけではなく、もしかしたら『琇星しゅうせい』か、それに類するものが持ち込まれたのかもしれません」


「何だと……!? だが石の巫女が言うなら間違いないのだろうな。双子の方はどうだ?」


「……私の方は網にかからないわね」


「ん……少し前に気になるのを見つけたけど、関係なさそうだからほっといた……」


「……そうか。念のため警戒していくぞ。力を引き出せる者である可能性も考慮しておく」


「それは杞憂では? 我々以外では不可能です」


「そうかもしれん。だが前例もあるだろう。いざとなったら俺も全力でやる必要があるな」


「ちょっとちょっと! 町中でアンタが全力出したら大変なことになるでしょ! 隠蔽する方の身にもなりなさいよね!」


「……我々の仕事は保護です。戦いではありませんよ?」


「保護さ。元々は我々の手元に在るべきものを保護するだけだ。何ら間違ってはいまい?」


「……わかりました。ですが私が危険と判断したら撤退します。それと町中での過激な行動も控えて下さい。特定できたとしても暫くは様子を窺いましょう。我々の動きが知られれば仲間も危険に晒されるのですよ。それにこの町と周辺では国の手の者が動き回っている気配が在ります。くれぐれも注意して下さい」


「……こっちでも放たれた〝草〟を捕獲してるわ。噂によるとこの近辺に飛竜が出たのだとかで、多くの人間がこの町に集まっているそうよ」


「ん……私も聞いた。確かに似ている匂いがしてた……」


「それは俺も聞いている。どういうわけか知らないが〝影〟までが動いているという情報も入っている。……何かあるのだろうな。……わかった、巫女の指示に従おう」


「はぁ……。今回の仕事は厄介なことが起こりそうですね……」

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