星術

 様々なことをいっぺんに聞くわけにもいかず、毎日少しずつ疑問を解消した。

 中でも特に聞きたかったこと。

 それは外のことだった。


「【飛翔】の術が使えるようになったら自分で見て回るといい。私の口から説明するより見た方が早いだろう。私の知る世界の全てを口で説明しようとしたら時間がいくらあっても足りぬからな」


 確かにそうかもしれない。

 今はまだこの住処から出てはいないがこれからは外に飛び出せるのだ。思う存分飛んで見にいけるのだ。


「大切なことは教えよう。知っていなければいけないこと、重要なことはあるからな。大抵のことは【竜憶】に収められているが、情報を引き出そう、知ろうと思わなければ【竜憶】から知識を得ることはできない。クロ坊はまだ何が大切か、何が重要かもわからないからな」


 うーむ。

 確かに人間の頃の常識とは違うだろうし、危険なことなどもあるだろうから知っておかないとまずい。


「もう少し星術のことを話しておこう。星術で【竜憶】などのように名前がついているものは4つしかない。この4つはどの竜でも生きていくために覚える必要があり、それ故、名をつけて共有しやすくしている。それ以外の全ての術には名が無い。その竜固有の使い方や、得手不得手があり、共通化を図っても使えなかったり使う必要がない事が多いからだ。

 まぁ、他の竜たちがどんな術を編み出していたかは【竜憶】で知る事ができる。興味があれば調べてみるといいだろう。

 他の全ての術は自らで考え、生み出していく。星素を集め、起こしたい事象をイメージする。ただし必ずしも思った事が全て実現できるわけではない。先程言った通り得手不得手もあれば、星素が起こせる事象の範疇はんちゅうを超えている場合もある。また、強すぎる力を起こせば自身をも傷つけかねない危険な場合もある。努々ゆめゆめ忘れないことだ」


 ふむふむ。

 いくらファンタジーな世界でも万能なものはないということか。

 ふんふんと首を振って首肯する。


「得手不得手があると言ったが、例えば火を起こすことが得意だったり、水を操る事が得意だったり、中には他者の精神を支配する事や環境を作り変えることが得意だった竜もいた。

 自分にどんな適正があるかは竜鱗の色からある程度判断できる。例えば私の鱗の色なら土に関する術に適正がある。他にも水なら青、火なら赤というように自分の得意分野が関連する色で見つけやすくなる。まぁ全てが全て色の通りというわけではないがな。中には珍しい色で白や黄金色、そもそも鱗そのものが無い竜もいた。なのでこれだけで判断するのは性急かもしれんな」


「母上。自分の黒はどんな適性なんですか?」


「実は私も見たことが無い。クロ坊が生まれて【竜憶】を探してみたが漆黒の鱗という竜がいた記録は残されていなかった。【竜憶】が使われ始めるよりも前にはいたかもしれないが調べる術はない。近い色には灰色や深い群青色といった竜はいたが少しでも違えば関連はないと思っていいだろうな。クロ坊も先程挙げた珍しい色の一つということか。適正は千差万別、自分で選ぶことはできない。これからの時間で探していくしかないな」


「そうですか……」


「まぁ適正がないと使えないというわけではない。使いやすくなる、あるいは力強く使う事ができると考えるべきか。現に【伝想】などが得意な色は桃色だが、私もお前も使えている。適正がある竜なら世界中どこにいても想いを伝える事ができるそうだが、見える範囲で使うことに不便はないだろう」


 術にも射程距離があるのか。まぁそれもそうか。

 全く知覚の及ばない位置にまで術を飛ばせたらそれはそれで恐ろしい。

 あとで実験してみたところ、【伝想】は相手の姿が見えていて伝えたい相手だと認識できていれば使う事ができるようだった。


「星術は我々古竜種が古竜種として生きていくために必要なものだ。数多あまたの知識や経験を積み重ねてきたからこそ竜種の中でも古竜種と呼ばれ、力ある存在として区別されてきた。

 だが、忘れるな。力を過信してはならない。力に飲み込まれてはならない。多くの竜達がこの力に翻弄され道を踏み外してきた。力に溺れ、自分も一つの生物であることを忘れれば待っているのは破滅だ。他の生物を蹂躙じゅうりんすればやがてそれは自分に還ってくることになる。食物が失われたり、怒った他の力ある者たちや同じ竜種に滅ぼされた例もある」


 ……まるで人間のようだった。

 後先を考えず環境を作り変え、結局それが自然災害として自分たちに降りかかる。

 駆逐してしまった生物が実は環境で重要な役割をしていて、病害虫が発生したり、害獣が増えてしまうなんてこともある。

 やはり周囲の環境に適応し、共存していくという生命の本質から外れることはどんな生き物でも同じで身を滅ぼすということだ。


 忘れないでおこう。

 自分は誰かを助ける存在になりたい。

 そう思ったはずだ。

 誰かのために力を使えるようになれればいいな……。


「さて。では【飛翔】の訓練に入ろう。それができるようになったら一度〝森の翁〟に会いに行かねばならない」


 きた!

 いよいよ飛ぶ練習だ!

 注意事項を聞き、力に驕るなと言われちょっとしんみりした気分が一気に霧散する。


 4つ目の基本の術も気になっていたがそれも吹っ飛んだ。

 空!

 早く飛びたい!

 その思いで頭が一杯になった。

 次の日から空を飛ぶ練習が始まった。


「クロ坊は前々から飛ぶ練習をしていたな」


 空を飛びたい願望が強かったので翼を動かす練習は今も毎日行っている。

 ……まさかいきなり崖から突き落とすようなスパルタの訓練だったりするのだろうかと、ちょっと不安が過った……。


「翼を使うのは浮かび上がれるようになってからだな。まずは【飛翔】で浮かび上がれるようにならなければならない」


 よかった。崖から突き落とされることはなさそうだ。

 いくら飛びたい願望が強くてもいきなりは怖い。


「前に説明したな。竜は星術で飛んでいると言って過言ではない。体を浮かせるには星術の力が必要だ。星素を集め、空に向かって吹き上がるような風が自分の周囲で起こるようなイメージをする。

 いいか? 竜の体は過酷な環境下でも生きていけるように頑丈だが、それでも高所から落ちれば怪我を負うし、死ぬこともある。絶対に気を抜いてはならんぞ」


 空に向かって吹く風……。

 上昇気流のようなものだろうか。

 名前は知っていても体感した事があるわけではないので少しイメージしにくい。


 追い風のように自分を押し上げるような強い風をイメージし、星素を集めていく。

 星素を自分の周りに集め、そしてそれが空に向かって吹き上がるイメージ。


「星素が少ない。巨体を浮かせるにはまだまだ足りない」


 まだ足りない。

 もっと多く。

 徐々に星素の密度が増す。

 温泉の中にいるように体が熱くなってくるようだ。


「よし。次は空に向けて風が吹く様を強く思い浮かべる。いいか。体が浮かび上がっても気を抜くな。制御を失えば遥か上空に吹き飛ばされることもある」


 足元からの風により、自分の体重を支えている足にかかる重さが少しずつ減っていく。

 そして気付く。

 風が吹いているだけじゃない。


 重力が弱くなったような、高いところから落ちていくような、高いところから落下して内臓が浮き上がるような無重力感がある。

 そんな奇妙な感覚を感じながら更に集中していくと。


 足が離れた。

 浮いた!


「気を抜くな!」


 浮き上がった喜びに目を見開いて感動した瞬間。

 空に向かって落ちていった。


「おわあああああああああああ!!」


 まるで天地が逆転したかのように空に向かって飛び上がる。

 かなりの速度で地面が小さくなる。

 住処すみかの周りを始めて見た。


 山のいただき、火山の火口のようになっているくぼ地。

 そこが住処すみかだった。

 山は禿げ山で岩ばかりだったが、その山のとなりにもう一つ山が見えた。

 山のふもとは見たことも無いような深い大森林。


 ああ。

 雲より高い場所にいたから雲が少なかったのか。

 自分が危機的な状況にあるというのにどこか他人事のように感じていた。


 眼前に広がるのは息を呑むような雄大な光景。

 自分がいかに小さいかを感じる、果てしない群青の世界。

 それが一瞬で津波のように頭に押し寄せ、我を忘れていたのかもしれない。


 夢にまで見た空。

 自分の体一つで飛ぶこと。

 自由に飛ぶことまではできていないが、諦めた夢の一つに手が届いている。


 吹き上げられ、体の自由が利かない状態で下に視線を向けると、すでに小さくなった住処、そこから母上が物凄い速度で飛び上がるところが見えた。


 それを見て、我に返った。

 普通であればこの後は落下するはず。いや、このまま宇宙にまで飛び出してしまうのだろうか。

 どうすればいい? 術を終えるには? 無事地上に戻るには?


 そんな思考に囚われるが、それを考える必要はなくなった。

 猛烈な速度で母上が接近し、口に咥えられて地上まで戻ることになったからだ。


「母上、ごめんなさい。助けてくれてありがとうございました」


 地上に降ろされると、術は切れていて、浮かび上がる感じはしなかった。

 自身の過ちを素直に謝った。


「気にするな。失敗は誰にでも起こる。それを助けるために私がいて、教えているのだ」


 母上は咎めなかった。

 それが逆に申し訳なさを強くした。

 あれほど言われたのに、浮かれて集中を切らしてしまった。

 下手をしたらあのまま死んでいただろう。


「これで術の危険さを身をもって知る事ができたのだ。悪いことばかりではないさ」


「はい……。次からは気をつけます」


 術の制御の大切さが身に染みてわかった。

 それからは絶対に気を抜かないと肝に銘じ、術を行うようになった。


 ◆


 自分の体が少しずつ浮かび上がる。

 姿勢は座ってるのと同じ。

 ただ垂直に、エレベーターのように上に上がるだけ。


 住処の出口、そこから飛び出す前に術を弱める。

 徐々に吹き上がる風が弱くなるイメージ。

 エレベーターのように上がっていたがやがてゆっくりと下に降りだす。

 地面に足がつくまでは気を抜かない。集中する。

 そのまま静かに地面に下りた。


「……ふぅ」


「上手いぞ。初めは集中が必要だがやがて自然にできるようになる」


 今はまだ凄い集中が必要だ。

 思った以上に浮かび上がる感覚は慣れない。

 地面から足が離れると姿勢が凄い不安定になる。


 それを保つイメージを切らさず、更に風の強さ、そして体験することでわかった重力を減らすイメージを加えそれが強すぎないように、また弱すぎないように制御しなければならない。

 【伝想】は言葉を交わすイメージ、これは人間のときでも当たり前のようにやっていたことだ。イメージもしやすく慣れるのもあっという間だった。


 しかし、飛ぶことは違った。

 今まで一度も体験した事がない感覚だし、何よりも自分の命に関ることだ。

 それ故、緊張感も危機意識も強い。

 何より怖い。

 それでも、やっぱり飛びたかった。


「集中することは神経を磨耗する。今日はそれくらいにしておけ。本来なら浮かび上がるだけでも膨大な時間を要するものだ」


 初めはどうなることかと思ったが、集中を切らさずにやれば最初のような失敗はなかった。

 最も星素が足りなくなって落下したり、浮かびあがるイメージが甘く途中で落っこちたりといった失敗はまだまだ多かった。


 飛ぶ訓練を始めて1ヶ月くらい、まともに浮かべるようになるまでに3週間以上かかっている。

 浮かべるというかエレベーターのような状態なのであまり空を飛んでいるという意識はないのだが。

 今日は一度も途中で落下する失敗をしなかった。

 少しずつでも上達しているという実感を得る事ができた。嬉しい。


 その日は泥のように眠った。

 ただ、人間の子どもだった頃の夢を見た。

 果てしない空を見上げる、自分の夢を。


 ◆


 飛ぶ練習と平行して、他の術の訓練も始めた。

 生きていくために必ずしも必要ではないが、自分や仲間の身を守ったり、生活を助けたり、自分の興味を満たしたりするためにも必要だと教えられた。


 人間は様々な知識や道具、仲間との連携で厳しい自然を生き抜いてきた。

 古竜種は強靭な肉体はあるものの仲間が少ないし、例え同種族であってもいがみ合ったり殺し合ったりするらしい。


 また古竜種以外の竜種にも様々な区別がある。

 小柄で恐竜の翼竜に似た飛竜種、翼は無く大地や地中などを住処とする地竜種、水辺や海を生活圏とする水棲竜種。


 細かく分ければそれぞれ更に分けられる。

 古竜種のように高い知性を持つ種はそう多くないみたいだが、それでも一般の獣に比べると知性はが高く、時にはそんな竜達とも縄張り争いなどがあるそうだ。


 知性が高いということは本能のみに依存し行動するわけではないということ。

 本能に従うなら強者には手を出さず、身を隠して安全を確保するだろう。

 だが知性が高ければ必要なことを学習し、仲間と協力したり時には道具や罠を使って自分より強大な相手に立ち向かうこともあるはずだ。

 脅威から仲間を守るため、生活圏を広げるため、より良い食料の供給のため、そして欲望のため。


 力押しではなく様々な手段で相手を押しのけようとしてくるはず。

 竜種以外にも知性が高い生物はいる。

 術は使えなくとも星素に恵まれた種族、種族ではなく星素に恵まれて長い時を生きた個体、元々知性が高い生物が変質したもの、そして、人間……。

 この世界にも人間がいる。


「いいか。人間には絶対に油断してはならない。この世界は多種多様な生き物に溢れているが、どの生き物もある程度は周囲の環境に満足し、その環境に溶け込んで生きていこうとする。周囲の状況に折り合いをつけ、共存を図ろうとする。無論例外も多くいるがその中でも人間は異常だ。

 人間は他者を省みることなく周囲の環境を自分たちの都合のいいように作り変えていく。それだけの数と技術を持っている。そして更に数が増え、住処や食料が足りなくなれば更に手を広げ版図を広げていく。そこにいる生き物を駆逐してな」


 どこの世界でも人間は同じなのか。

 周囲を省みず世界のいたるところに蔓延はびこり、資源を食い尽くす。

 そんなテーマの映画を思い出した。


「人間は相手が強大であっても様々な手段で脅威を取り除き自身の欲を満たそうとする欲深い個体も多い。例えその代償が多くの同胞の命であってもな。

 全てが全てそんな人間ばかりではないということはわかっている。しかし我々には人間が何を考え、何を求め、何をしようとしているのかわからない。危険な人間なのかそうでない人間なのか区別することができない。【伝想】の術は相手が伝えようとすることはわかるが隠そうとすればわからないからな。だから全てに警戒する必要がある。

 個としては他の生物の追随を許さない強さを備えた古竜であってもかつて人間に殺されたことがある。以来人間とは距離をおいているが、向こうから近寄ってくることもあれば、巣や縄張りを構える場所に人間がいる場合もある。くれぐれも忘れるな」


 痛いほど知っている。

 自分勝手な人間を。

 人は多くの人を巻き込み、戦争をしてきた歴史がある。

 理由は様々だが元を突き詰めれば単純だ。

 『あなたとわたしは違う。わたしと違うあなたを、わたしは認めない』。


 歴史の勉強をしたり調べたりすると多くの場合でそれが根幹にあるように感じた。

 思想の違い、宗教の違い、暮らしの違い、見た目の違い、貧富の違い。

 そんな心に欲望が染み込むと、もう相手を排斥せずにはいられない。


 人心を纏め上げ、けしかけようとする。

 それの繰り返しだ。例えその相手が人間でなくても起こるということだ。

 ちょっと暗い気持ちになりながら話を聞く。


「人間ばかりではない。脅威は様々な場所に潜んでいる。そんな危険から身を守っていく強さが必要となる。星術は肉体を強化したり、攻撃から身を守ったり、脅威を退けたりする力となる。自分にその気は無くとも、静かに危機は忍び寄ってくる。【竜憶】を参考にするもよし、自ら術を編み出すもよし。自分の身を守る術を身につけておくことだ」


 確かに。

 どこで何があるのかわからないのは当たり前だ。

 ましてやこの世界は安全だった日本とは違う。


 まだ巣穴しか知らないので実感はあまり湧かないが、それでもそれくらいはわかる。

 いつか来るその時のために、自分のできることをしよう。

 そう思った。


 ◆


 星術はイメージと星素で生み出される。

 逆に言えばイメージがはっきりとできるほど術は起こりやすくなる。

 自分は現代の日本で生きてきた知識と経験があるため、様々な現象を知っている。

 それをうまく使えば色々な術が使えるかもしれないということだ。


 体の外に現象を引き起こすタイプの術は、主に起こす場所、起こす現象、起こす規模の3つをイメージする。

 場所はそのまま、どこに起こしたいかだが、星素を集められる範囲に限られる。更に体から遠くなるほど星素の制御が難しくなっていく。


 起こす現象も何を起こしたいかだが、ただ起きた現象をイメージするよりもどのようにそれが起こるのかを具体的にイメージした方が成功しやすい気がする。

 これは竜の知識ではなく人間の知識を参考にした。

 火がなぜ燃えるのか、風がなぜ起こるのか、そうした原因を意識してイメージすると術が成功しやすかった。


 専門家程ではないとはいえ、現代の科学知識を持っているということが大きなアドバンテージになると思う。

 ただ、成功しやすいというだけで全く原因がわからないことでもイメージ次第では成功するし、しっかりと原因がわかっていても起こらないこともあった。


 最後に起こす規模だが、これが難しかった。

 起こす規模を小さくイメージしていても、集めた星素が多過ぎると大規模な現象が起こったり、酷い時には【飛翔】を失敗した時のように制御を外れ、暴発したりする。


 逆に大きな規模をイメージしてもそれに見合った星素が集まらないと小さな規模だったり、酷い時には不発する。

 イメージと星素のバランスを合わせなければならない。

 これは訓練をしていくしかないそうだ。


 とりあえず母上が見せてくれた火の術を試してみることにした。

 起こすものは火、場所はてのひらの上、大きさはローソク程度。

 両手で水を掬うような姿勢をとって星素を掌に集める。

 集める場所は手よりも15㎝くらい上の位置。近いと熱いし。

 集中し燃料と酸素が反応し火が燃えるイメージをするとローソクのような小さな火が灯る。


 できた。

 できている。

 何も無い空中に火が生まれた。

 自分が生み出している。


 空に浮いた時も感動したが、ゲームや物語での話でしかなかった火を出したりする事ができるというのも凄い感動だった。

 何度目かわからないが、自分がファンタジーな世界にいるのだという実感が沸々と湧いてくるようだった。

 思わず目を輝かせ小さな火に魅入っていると、母上も驚いていた。


「素晴らしい。一度見ただけで模倣できるか。普通なら火がどんなものか、触って熱さを感じたり、燃える様を観察したりなど様々な試行錯誤をしてようやく覚えるというのに。火竜になれる才能があるやもしれんな」


 母上が目を見開いて驚いている。

 まぁ人間時に小学校で理科の実験とかしてたから火を知っているしね。

 ちょっとズルをしている気分になったが別にテストじゃないし関係ないと思うことにした。


 基本となる術を手本として母上に見せてもらったが大体どれも一度見れば真似る事ができる。

 その度に飲み込みの速さに驚かれ、なぜすぐに真似る事ができるのか少し不信な目も向けられた。


 星素とイメージの制御のために、色々な術を試し、その度に母上にそんなこともできるのかと驚かれた。

 基本的で使えると便利だろうと教えてもらったのは火水風の発生と、物を動かす、斬撃を飛ばす、傷を癒すの6つだ。


 ここで術の練習中に気付いた。

 古竜種は術を使うときに自分の口の前や顔前に発生させることが多い。

 人間の魔法使いのイメージだと手や杖を突き出し発生させたりするイメージが強かった。

 無論竜でも手に術を発生させることはできるが、そうした使い方をする者は極少数だ。


 なぜなら、竜は首が長く逆に手は短めだからである。

 そんな体格で手に術を発生させ撃ち出そうとすると狙いをつけるのがとても難しいのだ。


 極端な例をいうなら一階にある発射装置から出る弾を、二階にいる自分が狙いを定めて発射するような感じだろうか。

 照準を合わせるには目線の近くに現象を起こし、発射する方が効率がよかったのだ。


 竜がブレスを吐くというのは、古竜の場合は口の前あたりで術を起動して撃ち出すため口から火炎や吹雪を出しているように見えるのかもしれない。と、何となく考えるのだった。

 そんなこんなで術の練習をしながらまた時が流れていった。

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