第73話 他人ではない


しばらくしてヘロヘロに酔った悪友の和也は帰宅した。

いっちょ前に気遣いができるようになり、片付けを申し出たが憲貞が断った。彼には片付けにかなりのこだわりがある。

以前、皿を片付けたら礼を言いつつ全て出してやりなしていた。それ以降手を出していない。他にも物の置き場所にも厳しい。

最初は戸惑ったが記憶力が良いため、元の場所に戻すのは苦にならなかった。

真っ白に統一された家具も憲貞の希望だ。貴也は物の興味がなかったため全て彼の望むままに揃えた。


「そのこだわり、叶の家にいた時は大丈夫だったの」と以前聞いた。すると、「他人の家だから」と言う回答が返ってきた。

よく考えれば、このこだわりは母が海外へ行ってから始まったことを思い出した。


それが“他人の家”ではなくなった瞬間でとても嬉しく思った。


「片付け終わった」


憲貞がエプロンを取りながら、貴也のいるソファーまで来た。

その姿、新妻みたいでいいなと思いながら貴也はソファーから立ち上がった。


「ありがとう。風呂入る? 酒臭い」


自分の服に鼻を近づけるとアルコールに強い臭いがした。体もべたべたしている気がしてすぐにシャワーを浴びたかった。


「いいぞ。準備できている」


少し顔を赤らめながら、手を握ってきた。一瞬なんのことかさっぱりわからなかったが、すぐに頭の回路がつながった。


期待に答えなくてはいけないなと思い、憲貞の手を握り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦友~中学受験という名の戦いに自分の全てか掛けている。ふざけていない、常に本気だ~ くろやす @kuroya44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ