第4話 黒猫がもたらす幸せ*塘坂颯人の場合 ②
「あー、、、くそっ!!!!また思い出した!!!あー!!!」
また嫌な事を思い出してしまった。
少しでも期待した俺がバカだった。いや、絶対に何か予期せぬ理由があったに違いない。いや、ただ単に俺はからかわれただけなんだ……。
まるで無限ループのように、白と黒の情感が巡り巡っていく。
そんなことを考えている自分が本当に嫌だった。
外に出よう。そして、気分を切り替えよう。部屋着のトレーナーにパーカーを羽織っただけで、俺は部屋を出た。
季節は、気づかないうちに秋から冬へと変わり始めていた。
日が暮れる時間も早くなり、少し寒くなってきている。
俺は、いつもより深く沈んだ気持ちを抱えたまま、駅に隣接するストアにでも行こうかと、駅へ続くなだらかな坂道をゆっくりと下っていく事にした。
その時だった。
歩道の脇に続く
その黒猫が俺のことを見ているようだ。ん?瞳がとても綺麗だ。蒼色の瞳って初めて見たな……。
すると、その黒猫は尻尾をリズム良く左右に揺らし、優雅に俺の前を横切って行く。最後に、なんかウインクをしたような気がしたのは見間違いだろうか……。
結局、徹夜して何とかレポートを仕上げた俺は、締め切りである午後二時ぎりぎりに教授の部屋へ到着した。
「
教授は、俺のレポートを受け取るとニヤリと笑って訳の分からないことを言った。そして、「ほら、早く早く」と部屋から俺を追い出したのだ。
何なんだよ一体!?
俺は、全く訳が分からないまま階段を降りていく。
そして、出口に向かって歩いて行くと、自動販売機の灯りの下に誰かが座っているのが見えた。
ゆっくりと近づく。
あのシルエットは、、。
俺が間違える訳がない……。
そう、廊下にある長椅子に彼女が、、、田代美雪が座っていたのだ。
「
「た、田代、、、」
俺は、思わず言葉に詰まってしまう。
「待ってたんだ。あの、私ってもしかして避けられてる?」
「えっ?ま、、あの、、うっ」
余りにストレートな問いかけに俺は口籠もってしまう。
「私、何も言ってないうちから振られちゃった。はは」
彼女の目からポツリポツリと涙が溢れた。
「おい、田代、、それって、、俺訳わかんないわ!だいたい俺はずっとお前のことが好きだったんだからなっ!!」
涙を流す彼女を見た瞬間、俺はとんでもないことを発してしまった。
「あっ、、ごめん。忘れてくれ。俺が勝手に思ってるだけだから」
俺は恥ずかしさの余り、出口に向かって逃げだそうとした。だが、身体が動かない。それは、彼女が俺のシャツの裾を握っているからだった。
「た、、田代」
「私、何度も電話したのに、全然繋がらなくて。もしかして、着信拒否されているんじゃないかと思ったら
彼女は、俺のシャツを強く握ったまま、泣いているようだった。電話が繋がらない理由、、、俺には心当たりがあった。
いつものようにスマホに怒りをぶつけ、結局家にいる時は電源を切っていることがこの間、何度もあった。もしかして、田代は俺が電源を切っているときに電話をくれたのか?でも、メッセージやメールでもいいのに、何故?
すると、俺の疑問を知っているかのように彼女は話し出した。
「メールしようとも思ったけど、私は直接自分の声で伝えたかったの。だって、私の初恋なんだから……。」
彼女の方を向くと、田代の整った可愛い顔が涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「ごめんな。俺だよ。全て悪いのは。俺が色んな理由でスマホの電源を切っていたんだ。でも、お前もほんとタイミング悪い時に電話してきてたんだな」
「もう!そんなことないでしょう?電源を切ってる
今度は田代が顔を真っ赤にしながら出口に向かって走り出そうとする。だが、俺は、彼女を後ろから不意に抱きしめる。すると彼女は急に静かになった。
あー、、俺は変わる。変わることが出来る……。
田代のぬくもりを感じながら俺はそんなことを考えていた。
その時、、俺は信じられない光景を目にする。ドアの向こうに広がる中庭を一匹の黒い猫が、尻尾をリズム良く左右に揺らし、優雅に横切って行った。
終わり(塘坂颯人の場合)
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