第3話 黒猫がもたらす幸せ*塘坂颯人の場合 ①
今日も無駄に時間を使ってしまった。
いつもゲームをした後は、ものすごく後悔をする。
なぜ、俺は貴重な時間を無駄にしてしまったのだろう?ゲームをしていた二時間があれば、本来やらなきゃいけないことを少しでも進めることが出来たのに。
「くそっーー」
そして、その後悔をいつものようにスマホにぶつける。
床に落ちた俺のスマホの液晶には、実は幾筋ものヒビが入っている。電源が入らなくなったりして何度修理に持っていったかわからない、、。そのスマホをゆっくりと拾い上げた俺は自分の顔がうっすらと映る液晶を見る。本当に酷い顔だった。
悪いのはスマホでもゲームアプリでもない。それを使っている自分自身なのに、なぜこうしていつも人や物にあたってしまうのだろう。
自己嫌悪で溢れた心は、どんどん地に落ちていく。
俺、
二十三歳にもなって、高校生の時と全く変わってない性格に自分でも辟易している。治さなければと思っているのだが、思い通りにならないことが起きるとすぐ人や物のせいにしてしまう。本当に悪い癖だ。
教授から指定されたレポート提出日は明日の午後二時までだ。
まだ、半分も出来ていないのに、残り時間で果たして完成させることが出来るのだろうか?いや、やらねばならない。提出できなければ、俺はもしかしたら大学院を留年してしまうかもしれない。
本来は、大学を四年間で卒業し、みんなが知っているような優良企業に就職し、女で一人で育ててくれた母に楽をさせたいと思っていたのだが、俺のことをいつも見守ってくれた教授からの奨めもあり、こうして大学院に進むことができたのもやはり母のおかげであった。だから、その母を悲しませるようなことは出来ない。
俺は、スマホの電源を切ると、カバンの中にしまう。
レポート中にスマホを手に取れば、息抜きと称して対戦型ゲームを始めてしまうかもしれない。だからこそ、このレポート中には一切スマホを見ることが出来ないようにしたのだ。毎回こんなことをしなければならないなんて、本当に我ながら情けない話だが・・・。
「あいつは、もうレポート終わったんだろうな……」
ふいに、俺は、
彼女は、違う大学から俺の通っている大学院を受け、合格した一人だ。正直、これまで、彼女が通っていた大学からは、今まで誰一人、俺らが通う大学院に合格した生徒はいなかったのだが、彼女はその過去をぶち壊し、合格者五名という少ない枠を勝ち取ったのだ。
きっと彼女は、大学四年間を大事に過ごしたんだろう。そして、毎日こつこつと勉強してきたに違いない。
しかし、彼女は勉学における秀才、、それだけではなかった。
そう、実は田代は誰もが認める美少女だったのだ。
それを本人が自覚していない事が更に彼女の魅力を高めているのかもしれない。服装はいつも超ラフで、化粧も必要最低限、さらには髪も微妙に乱れている時が多い。だが、彼女が本来持っている美しさはそれらを差し引いても輝いていた。彼女のことが、学校中に知れ渡るまで、そうは時間はかからなかった。
かくいう俺も随分前から、そんな彼女の一挙手一投足が気になっていた。
小難しい統計概論の授業で疲れ果てた俺は、他の生徒がいなくなっても机に突っ伏したままでいた。
その時、俺の横に田代がぎこちなく座ってきた。
「ねえ、
「ん?どうした?」
「あっ、特に何かあるとかではないんだけど、どうなのかな〜って思ってさ」
「へー、そうなんだ。ちょっと待ってな」
そう言って、埋まっているはずも無いスマホのカレンダーを開き、確認するふりをする。
そして、「空いてるよ」とスマした顔で俺は答えた。
すると、彼女は俺に満面の笑みを向け、「良かった!!じゃあまた、連絡するね」と言いながら次の授業へと走っていった。
一体、何なんだろう?
彼女からこんなことを言われたことは今まで無かった。
俺は、すぐにその土曜日に印を付けて、彼女からの連絡を待った。
しかし、その後、彼女からはなんの連絡もなく、予定を聞かれた土曜日も結局何事もなくただ平凡に過ぎて行った。
それ以降、俺は、彼女を避け続けている……。
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