第34話 エピローグ

 チハルたちが無事地上に戻ってから二週間後に騎士団による探索チームは迷宮探索を終了させた。

 結局彼らは43階まで潜り、行方不明の事故があってからは30階に拠点を移したそうだ。


 さてチハルたちと言えば――。


「いいの?」

「おう。他にも騎士団からの報酬もある」


 チハルの手にはクレアの所持していた魔晶石が収まっていた。

 クレアが大事にしていた魔晶石を譲ってくれたのにはもちろん訳がある。

 37階に寄り道した時のことを覚えているだろうか? 

 ついでに宝箱を開いた中から出てきた緋色に輝くインゴットをクレアに鑑定してもらったところ、ヒヒイロカネという超希少な魔法金属だと分かった。

 ヒヒイロカネは大陸銃で発見された全てを合わせても片手剣一本分が何とか作ることができる程度である。

 今回彼女らが持ち帰ったヒヒイロカネはそれだけで片手剣一本分になるのだ。四分割したヒヒイロカネと魔晶石を交換ということで交渉がまとまった。

 (クレアは加えてゴルダを支払うと言っていたが、チハルが固辞したためこのような取引となった。)


 本日は一旦騎士団による探索チームが解散したということで、お疲れ様会を開いている。マスターの奢りで。

 場所はいつものギルド横の酒場である。

 集まったメンバーも迷子の探索チームを探しに行った面々だった。

 チハルにとっては最近最も親しい間柄の人たちである。

 

「そういや、指輪の鑑定は済んだのか?」


 ビールをぐびりと飲み、ジョッキをテーブルの上に置いたゴンザがマスターに問いかけた。

 

「あれは二つセットで使うアイテムらしい……ってところまで分かったが一つしかないから使えない。ただの骨董品だな」

「ペアリングだったのか。それじゃあ仕方ねえなー」


 仕方ねえと言いつつもゴンザの表情は真逆で、ガハハハと愉快そうに笑っている。

 彼は独り身だし、これまでの探索者生活でそれなりの蓄えもあった。一攫千金を狙うという野心など彼にとって皆無だし、自分はもうそのような歳でもないと思っている。

 それに、ヒヒイロカネでたんまりとお金が転がり込んできた。


「チハルさん、(魔晶石の)残り一つ、取りに行かないっすか?」

「危ないよ」

「大丈夫っす! こう見えて逃げ足だけは超一流なんすよ」

「それ、自慢になってないから」


 ぽこんと彼女の肩を叩くアマンダに「にへへ」と舌を出すルチア。

 そんな彼女らにテーブルの上に乗ったままのカラスがくいっと嘴を向ける。

 

『50階にいるガーディアンが面倒だな。まあ、ミスリルの武器があるなら行けるんじゃねえか』

「あら。そうなの」


 すぐに主従契約を解除すると約束していたアマンダとクラーロであったが、未だに契約関係が続いていた。

 というのは、チハルに原因がある。

 彼女はクラーロとアマンダがとても仲良くなったと喜び、アマンダに「クラーロとこれからも仲良くしてあげてね」なんて言われてしまった。

 どうするか、クラーロとアマンダで相談した結果、使い魔契約を今しばらく継続することにしたのだ。

 といってもクラーロはアマンダの傍にいるわけではなく、チハルとずっと一緒にいる。

 だが、二人の意思疎通に距離は関係ない。クラーロは離れたところにいる者に対しても頭の中に語りかけることができる。

 普通の人間に対してはできないが、使い魔契約をしていおりラインが繋がったアマンダであれば問題ない。

 彼らは毎日離れたところから会話を交わしている。というのは、アマンダが新しい魔法を覚えるためだ。

 チハルの希望を叶えつつ、使い魔契約を解除するには、使い魔契約無しでもアマンダがクラーロと意思疎通ができるようにならなければならない。

 そのための魔法を彼女は習得中というわけである。

 伝説の魔法使いから直接教授されていることに戦々恐々としたアマンダであったが、最近は慣れてきた。しかし、習得にはまだ一ヶ月か二ヶ月くらいかかる見込みである。

 

「そんじゃあ、最後の魔晶石を取りに行くか? ぷはー」

「明日に行きますか?」

「おう、いいぜ。ちょうど騎士団のが終わったところだしな」

「自分達もっす!」


 チハルにもちろん異議などあろうはずはなく、明日に最後の魔晶石を取りに向かうこととなった。

 場所は迷宮の54階。これまでで最長距離である。

 迷宮中で二泊できるように準備をして行くことに決まった。

 

 ◇◇◇

 

 大陸にある魔晶石は全てチハルの手元に集まる。

 54階の魔晶石も特に苦労することなく獲得でき、副次的に開けた宝箱からは高価なアーティファクトが出たとかなんとか。

 

 レッドアイを召喚して以来、魔晶石が手元にあっても喚んでいなかった。

 ルルるんから、「次の魔晶石のゲットに繋がるのを喚ぶといいもきゃー」と言われてから、結局彼女は新しいおともだちを喚んでいなかったのだ。

 全てが集まった今、順番を考えるでもなく喚べば良い。

 

「もう魔晶石はないもきゃ?」

「ううん。海の中とか島にもあるよ?」

「そうかもきゃー。次は長い旅もきゃー」

「あはは。そのうち、ね!」


 フクロモモンガがチハルの首元を移動しながらもきゃもきゃと喜ぶ。

 一方でチハルはすぐに動き出すとは応えなかった。

 だって、リンゴを売りに行かないといけきゃだし! と彼女はニコニコと満面の笑みを浮かべる。

 

 そんなチハルの足もとでカラスが首を上にあげ彼女を見つめた。

 

『チハル。どいつにするんだ?』

「うーん。レッドアイを喚んだから、エメラルドアイも喚んであげなきゃ、だよね」

『いいんじゃねえか。他はどうする?』

「どの子でもいいよ! みんな待ってるのかな?」

『さあな。喚んでも食べるものがなきゃ意味がねえ。偏食組は後からだな。笹とかユーカリはこの場にない』

「そうかー。植えるといいのかな?」

『そうだな。探しに行くか?』

「うん! ピクニックに行こうー」

『くああ。そうだな。二日で戻ることができる距離でな』


 騒がしいルルるんとクラーロたちの声を丸まったままのソルが聞いているよと右耳をピクリと動かす。

 白猫は「にゃーん」と無邪気に鳴き、ふあああと大きな欠伸をした。

 

 チハルは両目を瞑り、心の中のワタシに呼び掛ける。

 ――ワタシの記録を呼び出します。

 チハルが心の中で念じる。

 

「魔晶石のコードを実行します。対象は覇王の朋友『エメラルドアイ』」


 魔晶石が強い七色の輝きを放ち、粒子となって溶け始めた。 

 

 おしまい


ここまでお読みいただきありがとうございました!!

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ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~ うみ @Umi12345

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