第52話 最終章 死地のその先18
人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
オゴデイ:同上の第3子
トゥルイ:同上の第4子。
人物紹介終わり
前話にて、『この総大将任命は、オゴデイのモンゴル帝国2代皇帝への足がかりとなる』とした。
チンギスの死を受けての第2代皇帝選出に際し、ジョチは既に亡く、ライバルは末子のトゥルイであり、兄のチャアダイはオゴデイを推した。
大局的には、2対1となり、多勢となったことが、オゴデイの勝利の最大の要因と想える。(ジョチ家は子のバトゥが継ぐが、世代が1つ下なので発言力は叔父たちには全く及ばない)
ただ、全会一致が皇帝選出の条件である以上、オゴデイを推す論拠――その功績と言っても良い――として何かが示されたはずである。そして諸史料を見比べるとき、冒頭に述べたことがうかがえるのである。
まず、モンゴル史料たる『秘史』はジョチとチャアダイの争いは全く伝えず、ただオゴデイ任命のみを伝える。
漢籍の『親征録』――『秘史』とは別のモンゴル史料に基づくとされ、ラシードもまたこちらの方のモンゴル史料に基づくとされる――はチャアダイの参戦を伝えぬが、やはりオゴデイ任命としており、更に同時期にトゥルイはかなり離れたホラーサーンへ遠征しておったと伝える。
ラシードがその西征の記事にて主要な典拠の一つとするジュワイニーもまたこの時のトゥルイのホラーサーン遠征を伝える。
これらを知ってなお、ラシードはその書の中の『チンギス・カンの歴史』のところにおいて、その争いを詳しく伝える一方で、史実と異なりトゥルイが大将に任命され、ウルゲンチへと自ら赴き、見事これを平定したと伝える。
ゆえにこれはたまたま誤ったというものではありえず、故意の
更に決定的な証拠をラシード自身が提供する。ラシードの書の別のところ『ジョチ・カンの歴史』にてやはりジョチとチャアダイの争いを伝える一方で、こちらではオゴデイの任命を伝え、他史料と合致する。
ラシードは単に歴史家というに留まらず、イル・カン国の第七代ガザン・カンと第八代オルジェイト・カンに仕え、この書を献呈した。この2人はトゥルイの三男フラグの曾孫である。
これほどに時を経て、なお改竄するのはなぜか? 裏を返せば、このウルゲンチ戦にての総大将任命が、よほどの重要事であったことをほのめかしているのではないか? そして、その改竄をなしたのが、皇帝位を争ったトゥルイの子孫によりなされていることは、この総大将任命がオゴデイの2代皇帝としてふさわしいものであるとの論拠として示されたことをほのめかしているのではないか?
それ以外に、改竄をする理由が無いように私には想えるのだが、皆様はどのように想われるだろうか?
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