第49話 最終章 死地のその先15

「アルプ・エル・カン。まさかシャイフとオグルが去って、そなたが残るとはな」


「望むものがいっしょなのでしょう」


「これはなことを。我が望むは、あくまでカンクリの繁栄。奴隷軍人マムルークたるそなたと同じはずは無い」


「人にとって、しばしば心の底というのは遠きもの」


「なら、そなたは何を望んでおるというのか?」


「死に場所です」


「面白い。我もまたそれを望んでおるというか? 」


 そこで、クトルグは呵々かか大笑する。


 ふと気付く。あのものは死んだはず。


 少なくとも戻っては来なかった。

 

 白日夢であったか。

 

 否、手招きに来たのであろう。

 

 死出の道行きへと。


(おうよ。ならば)


 クトルグ・カンもまた、オグルとシャイフが去ったおよそ2週間後の夕刻、平時なら朗々と響くはずのアザーン――モスクへの集まりの呼びかけ――の声は無く、未だ徹底抗戦を叫ぶ同胞たちの呼びかけをこそ挽歌にせんとして、共にそれを貫き、その望むものを得ることとなった。




  人物紹介

 ホラズム側

クトルグ・カン ウルゲンチの政府軍の実質的な総指揮官。


アルプ・エル・カン 前スルターン・ムハンマドの奴隷軍人マムルーク。ジョチの陣にての両軍の激突にてチャガンに討たれた。(『最終章 第39話 死地のその先5』参照)

  人物紹介終わり

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