第38話 最終章 死地のその先4

「何ごとか。何ごとが起こったのだ」


 ボオルチュであった。たまたまそこに出くわした訳ではない。今後のことを話し合うために、チャアダイの陣を訪れたが、ジョチの下に赴いたと聞き、急ぎ追って来たのであった。


 ただ、ことの次第をこと細かく問える状況ではなかった。南の方から騒然とした音が聞こえる。しかも尋常なものではない。敵か?


「こたびのことは、カンに報告する。その裁定を待て。これ以上の仲間割れは無用と心得よ。どうしても人を殺したいなら、まずはわたくしからだ」


 ボオルチュは、重々しくそう言い、


「チャガンよ。我一人がここにおれば良い。兵を率いて、急ぎ南へ向かえ」


 チャガンは、子供時分に拾われ、チンギスが育て上げんとしておるところであった。ウルゲンチ攻めにては、ボオルチュ付きの護衛に任じ、戦を学ばせようとしておったのだ。


 そのチャガンが声をかけつつ、南へ駆けて行くが、動く者はほとんどおらぬ。ここにおる者たちは、2人の王子の直属なので、その呼びかけに応じねばならぬ理由はなかった。


 それを見て取ったボオルチュが大音声にて言う。


「聞け。心ある者はチャガンに従え。敵が襲って来ておる可能性が高い。我らの敵は誰だ。これ以上、醜態しゅうたいをさらすな。全ての責任は我が取る」


 それを聞いたチャアダイの近習はチャアダイを、ジョチの護衛はジョチを見るが、2人が何も言わぬのを、許しとみなし、少なからずの者が動いた。




 その南にては、攻め手を率いる2人は連携して動いておった。

 

 ゆらり。黒いトクが風にたなびく。それを見たオグルには、一つ想い浮かぶものがあった。戻って来ぬトガンの顔であった。果たして、あの者は我の助言を聞き入れ、ここを去ったのか? ジャラールの下へ赴いたのか? それは知り得ぬ。


 ハッ。ただ、奴にとりついておった黒トクが我らにとりついたとすれば、それのみでも望ましい。


 ふと、シャイフの方を見ると、やはり気づいたらしい。それほどの将というのなら、ここで一気に首を取らん。その気持ちは同じらしく、互いに目配せすると、その分かりやすき目印の方へ向かう。




  人物紹介

 モンゴル側

ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。


チャアダイ:同上の第2子


ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。万人隊長。


 ホラズム側

シャイフ・カン 北城本丸守備の指揮官。


オグル・ハージブ せき破壊を試みる工作隊の護衛の指揮官に任じられ、これを成功させた。

 人物紹介終わり


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