第39話 ブハーラー戦13:本丸戦5:亡霊4:阿海の夢
己は、かの人の後ろから続いておった。かの人が率いる平原を駆ける大軍勢。己もその一騎であったのだ。しかも僥倖に恵まれ、先頭近くを進むを得ておった。
かの人物。その姿を己は見たことがないはずであった。しかし見紛うはずもなかった。己が子供の頃からの伝説の英雄。
東に留まったキタイ勢が金国に屈服して生を永らえているのに対して、かの人はモンゴル高原の
阿海のみではなかった。
キタイの少年たちの憧れの人。
「阿海よ。先陣争いだ。我に遅れるなよ」
そう言うや、かの人は槍をしっかり構え直すと、ムチを入れ、馬速を上げる。
阿海も続く。
それも必死で。
その眼前には、やはり大軍勢が平原を埋め尽くし、そればかりか、こちらに突撃して来る。
「阿海よ。心を震わせよ。キタイ再興の時ぞ」
凜としたかの人の声が蒼天に響き渡った。
その余韻の中で、静かに目が覚めた。それは心地良い夢であった。起きた後もしばらくは、夢の中より持ち帰るを得た高揚した感情が残っておった。
2人は謁見の日の夜に、これらの夢を見たのであった。無論、その内容について互いに語り合うことは無かった。
補足
1.耶律大石は西遼(カラ・キタイ)を建国しました。
2.『遼史』の耶律大石の伝には、その旗下に集まった漠北の諸勢力を上げるので、推測可能なものでチンギスの時代にも知られておるものを以下に挙げる。
大横室韋 (恐らくはタタル)
王紀剌 (オンギラト:チンギスの正妻ボルテの氏族)
茶赤剌 (ジャジラト:ジャダランの古名であり、ジャムカの氏族)
密兒紀 (メルキト)
阻卜 (一般にはタタルとされる。ただし遼史にては、ケレイトを指す場合もある。大横室韋がタタルとすれば、ここはケレイトか?)
もちろん、ここにあげた氏族の全勢力が付き従った訳ではない。むしろ、故地を離れるのであるから、主力でない者たちであったろう。
遊牧勢は代替わりの度に財産を子供たちに分けるので(均等分配が原則とされる)、代を経るごとに牧地は小さくなり、自ずと新たな牧地を求める機運はある。恐らくは、一旗揚げるかとの意気を持つ者たちが集ったのだろう。
いずれにしろ、ここにボルテやジャムカの祖先の別れを見出すならば、筆者としては感慨深いものがある。
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