第27話 ブハーラー戦1:声1

(前書きです。

 ブハーラーの商人グループの行動とその結果については、第1部の『謀略』1~5を付したものとなります。『声』編は、その最終的な結末を描いております。


 読んでおられぬ方がおられましたら、『謀略』編を読んでから、『声』編をお読みいただければ、一層興趣深くなるとは想います。あるいは、『声』編を読んで興味をそそられましたら、後ほど『謀略』編をお読みいただいても、とは想います。そこのところはお好みにお任せします)




 まだ、その姿を見ぬ時のこと。


 アザーン(礼拝を呼びかける声)にて始まる朝。

 いつもと変わらぬはずの朝。

 1日の5度の礼拝。

 いつもと変わらぬはずの1日。

 ただ、異なるのは、神への祈りによってさえ、

それがやされることの無きこと。


 これまで同じ状況におちいった人々と同じく、

 不安を言葉により塗りつぶし、

 恐れを信仰により隠すを目論もくろむも、

 ただやはりそれは敗れる。


 人はあらゆることを語るを欲するが、

 こうなってはそれに直面せざるを得ない。

 言葉が嘘へと腐れ落ち、

 そして声のみが真理をになう状況に。


 理性は知る

――声が己を裏切ったことを

――己が浅はかなる存在に過ぎぬを。

――声の本来のあるじたる魂に、

そのすべてを譲り渡す時の至るを。


 彼らには、

――彼ら自身の神がたまわったところのもの、

――言葉と声をまじわらせて、

甘き恍惚こうこつと天上の至福へと至ること、

――それは、最早、許されておらぬ。


 彼ら自身の神が、その聖典コーランを声に出してこそむべきものと定められたにもかかわらず、

――彼らは何も学ばなかったのか。

――声のみが真理をこの世に表すものであるを。


 声こそが、その切迫した調子にて、

心中にある不安をまろび出させ、

 声こそが、その常ならずの震えにて、

心底の恐れをあらわにする。




 何より、彼らには、恐れと不安に駆られるべき理由があった。

 ブハーラーの商人たちには。

 ただ、そのなしたることのゆえに。

 

 その理性は知るを欲さぬも、

 その魂は知るゆえに、

 怨讐おんしゅうの軍勢の来たるを。

 劫罰ごうばつの時の至るを。

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