第16話 オトラル戦13:カンクリ騎馬軍の出撃、再び1

  人物紹介

 ホラズム側

イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。


ソクメズ:イナルチュクの側近にして百人隊長。カンクリ勢


トガン:同上


ブーザール:同上


カラチャ:スルターンにより援軍として派遣されたマムルーク軍万人隊の指揮官。


  人物紹介終了




 戦勝を受けて、次の出撃にては、軍を増やした。


 トガンには、百人隊5隊を授けた。


 ブーザールには百人隊3隊。敵攻城兵器の破壊に特化した部隊はそれほど多くなく、オトラルには全部で百人隊7隊ほど。ゆえにこれでも半数近くを投じておることになる。


 そして、ソクメズ隊は、トガンと同じく百人隊5隊となった。


 次は西側の敵投石機の組み立てを狙うこととなった。




 部隊を増やしたおかげもあってか、先の戦闘以上の赫赫かっかくたる戦果を挙げ、撤退の途上にあるときのこと。その動きに最初に気付いたのはソクメズ隊の者たちであった。そしてそれを率いるソクメズ自身もまた無論のこと。


 急ぎ副官の一人を呼び命じる。

 トガンの下に至り、新手の軍が現れたこと。更には、ブーザール隊を守りつつ、城内へ退しりぞけと伝えよと。そして副官自身は、そのトガンを補佐せよと。


 今回は部隊が増えたこともあり、トガンとは少し離れておった。副官が去ると共に、己は、百人隊5隊をもって突撃に入る。


(城を出る時は気付かなかった。ただ、高台にあるオトラル城からは、全景を見渡せる。ゆえに、兵が伏せられるておって、なお気付かぬということはありえぬ。恐らく、我らが敵投石機を叩いておる間に、側面に回ったものであろう)


 撤退は前回と同じく、ブーザール隊を先に帰し、トガンとソクメズがしんがりをになった。大きく分けて、ソクメズが左後方、トガンが右後方を担っておった。そのソクメズのおる左手の横合いから、騎馬の軍勢が土煙を上げて猛進しておるのが見えておったのだ。


 ただねらうはソクメズ隊ではない。ブーザール隊の鼻先であった。またゆえにこそ、少し後方におるソクメズの方から良く見えた。


 ブーザール隊は気付くのが遅れよう。しかし敵は気付かれまいとしておるのではない。あの突進の様はむしろ気付いてくださいといわんばかりのもの。


 やがて気付こう。迎え撃とうとするかそれとも、側方へ、つまり敵が突進して来る方向と逆側に逃げ出すか。いずれにしろ、退却が止まる。当然、敵のねらいもそれである。


 そして後方から追って来ておるモンゴル軍との挟撃。それが最終的な目的に他ならぬ。


 ソクメズに残された選択肢は一つのみ。こちらも敵の鼻先に部隊を突っ込ませるしかない。敵の仕掛けをつぶすには、それしかなかった。


(多いな。千。いな、その2倍か)


 囲まれ、逃げまどう状況におちいれば、下手すると、オトラル城を目前にしての全滅もあり得た。


 しかし、あれを率いるは誰だ?


 例え突撃をかける方でさえ、否、自らそれをなさんとするゆえにこそ、往々にしておそわれるもの。よほど統率力にすぐれた将と見える。その突進の激しさこそが我が軍に大打撃を与えることを、知っておるのであろう。


 そして、馬が足を痛めるのもいとわずに、懸命に駆けさせるも、間に合いそうになかった。とはいえ、突撃をめる気はなかった。鼻先がムリなら、どてっぱらに突っ込むのみ。それで少なくとも敵を分断でき、被害はおさえられる。


 馬を駆けさせつつ、ソクメズは見た。突撃をかけんとする敵先頭近くに、黒のトクがかかげられておるのを。


(あれを率いるは統率力優れた将などとはとても言えぬ。命知らずのアホウであったか)


 黒のトクの下には、将がおる。その情報は、城主が捕らえた捕虜よりもたらされておった。


 何を好き好んで先頭を走るか。命をあたら捨てる行いに他ならぬ。将ならば、つつしむべき行いのはず。


 ただ同時にそれは、突撃を最も恐るべきものに変える。将が先頭を走れば、旗下の兵は遅れるわけには行かぬ。命知らずのアホウが、将から兵へと広がり行く。


 そしてそのせいで、こちらの被害は甚大じんだいになる。ブーザール隊では持ちこたえられまい。といって己が隊は、後続を断つ必要があった。トガン隊に任せるしかなかった。

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